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言ノ箱庭  作者: 若取キエフ
二日目 日常に芽生える疑念
8/52

8話 百眼百手(ひゃくがんびゃくしゅ)


 ミコトを乗せて帰路を走っていると。


「圭……あなたから『疑念』の言葉が浮き出てる」


 ふと、俺の背後でそう言った。


「なあ、昨日もそんなようなこと言ってたけど、それ、どういう意味なの?」


 ミコトに尋ねると。


「そのままよ。おそらくあなたは、さっきの司書と私の会話を聞いて、普通の会話じゃない、何か特別な目的があると……そう思ったんじゃない?」


 読心術か何かだろうか……。おおむね的を得た見解を述べた。


「お前、心を読んだり出来るの?」


「いいえ、ただ人の感情が言葉として映るだけ」


 ますます分からん……。

 分からんが、そこまで俺の心を読んでいるのなら答えてほしいところだ。


「なら、この島に来た目的について答えてくれたりするの?」


 俺が問うと、ミコトはしばし沈黙になる。

 やはり言い辛いのだろうか、俺が関わってはいけない問題だろうか。

 そう思っていると。


「……そうね、あなたには昨日から助けられているし、無関係というわけにはいかないかもね」


 ミコトはそう言って、躊躇いつつも俺にこの島に来た理由を話した。


「私はこの島に住む人達を外へ連れ出す為に来たの」


「えっ……?」


 だが、俺は理解が追い付かなかった。

 何故? 何の為に?


「どうしてお前は……」


 と、俺が言いかけた時。


「しっ! 待って」


 突然ミコトは俺の発言を拒んだ。


「見られてる」


「…………?」


 そう言われて俺も気づく、どこかで見られている妙な視線。


 辺りを見渡すと、遠くのほうで着物を着た女性が木陰からじっと俺達を覗いている、ような気がした。


 気がしたというのも、その女性が鬼を模して作られたようなお面を付けていた為素顔が見えなかったからだ。

 しかしその着物姿の女性は俺達の行く先を追うように、鬼のお面が俺達に向けて視線を浴びせてくる。

 正直、不気味な絵面だった。


「なあミコト、今横切った着物姿の人、俺達を見てなかった?」


 一応ミコトにも確認を取ると、俺の脇腹あたりに手を当てていた彼女の力が強まった。


百眼百手ひゃくがんびゃくしゅ…… やっぱりあの人の言ってた通り、『百の眼』が見張っているようね……」


 そして小声で俺に訴えるのだ。

 表情は見えなくとも、雰囲気で伝わる緊迫したような節操感。


「なんだよ急に。あの人知り合い?」


 俺はミコトに言われるまま、平常運転を保ちながら女性との関係性を尋ねる。


「知らない。けど多分私達の事を監視してる。あれはそういう存在なの」


「何それ、ストーカーか?」


「近い部類かもね……とにかくあいつが見えなくなるまで走って」


 ミコトはそんな穏やかじゃない事を言うのだ。

 何もしてないのに知らない何かに監視されるというのはなかなかに恐怖だ。


「急に怖い事言うじゃん……何、追われてんのかよ俺ら」


 言いながらも、俺はミコトに言われるがまま、自宅までの帰路を走り続ける。


 だが、どこまで走っても『見られている』ような感覚が消えない。

 もう女性の姿はないはずなのに、すぐそこにいそうな気配がするのだ。


 と、その時、急に自転車を漕ぐペダルが重くなった。


「あ? なんだこれ……おっも!」


 まるで急斜面の上り坂を駆け上がるようなローギア感覚。

 実際は下っているはずなのだが、重力に反比例して速度は落ちてゆく……。

 というか何かに引っ張られているような……。

 そんな気がした俺は、ふと後ろを振り向こうとすると。


「圭、視線を変えないで、前だけ見てて」


 背後にいるミコトに注意を受けた。


「大丈夫だから、そのまま走って」


 などと、俺を心配させまいとしているのか、優し気な声でそう言うのだ。

 そしてミコトは突然後ろから覇気のある声で。


「【退しりぞきなさい】」


 また、例によって頭に直接響く言葉を発したようだ。

 すると錆びたように重かったペダルが突如として軽くなり、下り坂本来のスピードが戻った。


「ミコト、一体何をしたんだ?」


「別に、いたずらっ子を叱っただけ」


 などと、はぐらかしながら答えた。

 後ろで何が起きていたのか分からなかったが、どうやらミコトが助けてくれたらしい。


 けれど……おかげでまた俺の問いはうやむやにされてしまった。

 ここまで関わって、俺だけ何も事情を知らないというのも……。


 そんなことを思っていると。


「圭、『不満』の言葉が浮き出てる」


 ミコトに感情を読まれてしまった。


「そりゃな、お前の事情に首を突っ込めない俺のモブ具合が腹立たしくてな」


 ならばいっそ不満をぶつけてやろうと、背後にいるミコトに愚痴を漏らす。

 すると、ミコトは俺の背中に頭をピタリとくっつけ。


「落ち着いた場所で、ゆっくり話しましょう」


 申し訳なさそうに低めのトーンでそう言った。


「ただ、一度知ってしまったらもう元の生活に戻れなくなるかもしれない。それだけは覚悟してね?」


「……わかった」


 なし崩し的に俺も納得し、それ以上はお互い口を開くことはなかった。





 突然のハプニングにより先程話していた、ミコトがこの島に来た目的については流されてしまったが、ぼんやりと俺も理解はしてきた。


 この島に、何かしらの異変が起きていることを……。





ご覧頂き有難うございます。

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