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言ノ箱庭  作者: 若取キエフ
二日目 日常に芽生える疑念
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6話 交番にて


 商店街付近まで戻ると、ふと横から俺に向けて怒号が聞こえた。


「おい圭! 二人乗りは違反だぞ」


 振り向いた先は交番。そして入り口に立つ見慣れたお巡りさん。

 手招きしながら呼び止められてしまった俺は観念してお縄につく事に。


「ったく、俺の前で堂々と見せつけやがって。なんだ、彼女いますアピールか?」


 と、怒りながらも顔はニヤニヤと笑っていた。

 俺が女と一緒にいるのがそんなに面白いのか。


「そんなんじゃねえって、久須見くすみさん。県外から来たシティガールを案内してただけだよ」


 俺は恥ずかし紛れで否定するが、久須見さんはそれがまた愉快に思ったらしい。


「照れんなよ。お前ももう高校生だろ。別にめずらしくねえさ」



 久須見さんとは幼い頃からの知り合いであり、何かと面倒見の良い、年の離れた兄のような人である。

 昔はやんちゃなガキ大将だったこの人も、立派な警官になりだいぶ丸くなったようだ。


「だが圭。浮かれたからといって二人乗りはやめろよ。一応お前を罰する権力が俺にはあるんだからな」


 と言いながら意地悪気に笑い出す。

 あんたも昔俺を荷台に乗せてたんだけどな。と言うとガチで殴られるからやめよう。


「で、そこの可愛い彼女とどこへ行こうとしてたんだよ?」


「だから彼女じゃねっつの。島全体が分かる地図を見たいとこいつが所望したから商店街に行こうと思って。あそこに島を写したデカい看板あっただろ?」


 俺がそういうと、「何言ってんだこいつ」みたいな見下したような目をしてきた。


「あんな簡易的な地図で何が分かるんだよ。その子が知りたいのはもっと具体的に書かれた奴だろ?」


 久須見さんの言葉にミコトも「そうね」と同調し、俺が悪いみたいな空気となった。


「つーか、それこそ俺を頼れよ。ここは交番だぜ? 道を尋ねるなら町の守り人、警察官をあてにしなさいよ」


 言われて「確かに」と俺も納得してしまう。

 そもそも道を尋ねるのに交番を利用した事なんてなかった為、選択肢にまずなかった。


 結局、「茶でも入れるからゆっくりしていけ」と勧められるまま、交番で地図を見る事に。

 ……多分この人暇なんだと思う。









 それから数分、ミコトは島全体が記された地図とにらめっこしていると、俺達の事をそっちのけで外に喫煙しに行っていた久須見さんが戻ってきた。


「どこか行きたい所でも見つかったかい?」


 気さくに話しかける久須見さんにミコトは地図を指差し尋ねた。


「この、海辺沿いにある港、私昨日歩いたけど何もなかった」


 ミコトの言葉に久須見さんは首を傾げる。


「そんなはずねえだろ。ここから出る船が唯一本州へ行ける交通手段なんだから」


 その言葉にミコトはさらに詰め寄る。


「あなたはこの島から出た事あるの?」


 急に詰め寄られたせいか、普段堂々とした久須見さんが珍しく委縮していた。


「えっ……ああ勿論。俺が警官になる前ちょっとな。この島警察学校ないから……」


「それは何年前?」


「えっと……四年くらい前だったかな」


「それじゃあ、あなたに島の外で過ごした記憶はあるのね?」


 すげえグイグイ来るじゃん。

 なんか久須見さんが可哀そうになってきた。


「な、なあ、なんで俺こんなに尋問されてんの? 立場的に俺の役割じゃね?」


 言いながら目で俺に助けを求めてきたが、俺は先程からかった仕返しとばかりに目を逸らす。

 と、その時。



「【答えて】」



 まただ……。脳に直接声が届くような言葉。

 たまに発せられる彼女の言葉に、得体の知れない強制力がある気がする。

 命じられるままに体が、心が従順になってしまうような感覚。

 彼女は一体……何者なのだろう。


 眼前まで詰め寄るミコトに、久須見さんは苦い顔をしながら答えた。


「そりゃ、都会で過ごした記憶はあるさ……。と言っても、ほとんど学生寮と学校の往復だったから、あまり外を見て回った記憶はない……。どこに何があるかも全然だ」


 すると、ミコトは溜息を吐き。


「そう、ありがとう」


 これ以上の成果は得られないと思ったのか、早急に地図を畳み帰り支度を始めた。


「ミコト、次どこ行くか決まったのか?」


 俺が尋ねるとコクリと頷き。


「図書館。ここから結構近い場所にあるみたいだから」


 この島に唯一ある市立図書館に目を付けたらしい。


 ミコトの後に続き俺も交番から出ようとすると、後ろから「圭、ちょっと」と、久須見さんに呼び止められ、ミコトに聞こえないような小声で俺に尋ねた。


「なあ、あの子つい最近この島に来たみたいだけど、いつ知り合ったんだ?」


「昨日だよ。若干記憶喪失みたいでさ。どうやってこの島に来たのか思い出せないらしい」


「なんだそれ、大丈夫なのか?」


 と、当然の反応を示す。


「それは俺も心配だけど、あまり詳しくは話してくれないんだ。もしかするとこの島から出る方法を探しているんじゃないかと思う」


「だからそれは港で船に乗れば出れるって」


 俺の言葉に当たり前のように返す久須見さん。だが、そう簡単にはいかないから困っているわけだ。


「俺もそう思ったけど、あいつもさっき言ってただろ? 一晩中海沿いを歩いたらしいけど港を見つけられなかったって」


「ああ、でも、どこまで歩いたか知らないが、船乗り場は海沿いに出てからそんなに遠くなかったはずだが……。地図にもそう記されているし」


 普通はそう思うだろうけど、しかし。


「けど、俺も朝同じ道をチャリで通ったけど港なんてなかったんだ」


 俺の言葉に久須見さんは押し黙った。

 そして、急に頭を抱えながらブツブツと何かを唱えだす。


「そんなはず……ないだろ。いや、だって現に俺は島を出て……それで……あれ?」


 何やら自問自答している様子だった。


 と、そんなやり取りとしている最中もミコトは黙々と歩を進めてしまっている。


 島のナビゲーターを置いて行くとは何事だと思いながら、久須見さんの会話を中断させた。


「悪い、あいつ先行っちゃったから俺も行くわ。じゃあまた」


 俺が別れの挨拶を投げかけても反応せず、自分の世界に入ったままの久須見さんをそのままにしてミコトの後を追った。





ご覧頂き有難うございます。


申し訳ありませんが明日はお休みさせて頂きます。

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