18話 少女とデート
その後、コンビニの前で出会った少女を連れて、地元民からすると特に人気でもないスポット巡りをした。
自転車を近くの駐輪所へ停め、バスに乗って田舎道をひた走る。
島が一望出来る展望台、島に唯一ある、何を祀っているか分からない神社、海辺付近のなんかご利益があるらしい大岩など、島についての手掛かりがないか回るのだが、ミコトは終始「なるほど」と、一人で勝手に納得しながら黙々と眺めるばかり……。
少女がいるから下手なことは言わないスタンスなのか知らないが、いつもより口数は三割減なミコトである。
と、一通り見てから。
「そういえば君の名前聞いてなかったな」
お互い自己紹介がまだだったと気付く。
「ん~? 璃羽だよ」
「璃羽ちゃんね。俺は圭、こっちはミコトだ。今更ながらよろしく」
「うん、よろしくお兄さん」
どうやら名前を覚える気はないらしい。
あらかた見て回った俺達は目的を果たし、今度は璃羽の行きたい場所はないか尋ねた。
すると璃羽は商店街を勧めてきた為、彼女の要望に応え若者の賑わう場所へ足を運ぶ。
日曜日なだけあって、平日よりもさんざめく声が強く耳に残る商店街。
ここは普段から来ているしミコトにも案内済みの場所。……とくに目ぼしい所などはないが、璃羽に付き合ってあげるのもいいだろう。
そう思っていた時。
ふと、ミコトは遠くを一点に見つめながらぼそりと呟いた。
「遠くから視線を感じる……」
それは例の百眼百手だろうか。
「それってさっきの奴か?」
「分からない。ちょっと見てくる」
そう言って、ミコトは俺達の元から離れていくのだ。
「おい待てって、本当にさっきのお面女なら危ないんじゃねえの?」
と、俺は静止するのだが。
「大丈夫、ここは人通りが多いし、急に襲われる心配はないはず。圭はその子の面倒見てあげて」
聞く耳持たず、彼女は視線が向けられているらしい方向へと歩き出す。
俺は溜息を吐きながら。
「ミコト、何かあったら昨日の交番に行け。久須見さんが守ってくれる。俺も後で向かうから、そこで合流しよう」
そう提案し、ミコトは軽く頷いた。
「分かった。それじゃあまた後で」
そして、彼女は颯爽と駆けて行った。
ミコトを目で見送っていると、急に璃羽は俺の袖をくいくいと引っ張る。
「いいの? 彼女さん向こう行っちゃったけど」
なんでみんな付き合ってる体で話すの?
「彼女じゃないんだけどね」
そう否定すると、「そうなの?」と言いながら若干楽しそうな表情を浮かべるのだ。
「なら遠慮しない。お兄さんは今から私とデートするの」
「ええ~急に? どこ行くの?」
そう言うと、璃羽は俺の腕をがっちりホールドしながら。
「リードしてあげるから私に任せなさい」
そう言って、彼女主導で商店街を回った。
その後、ウキウキしながら駆け回る璃羽。
「あそこのクレープ屋さん行こっ! あ、あっちのアクセサリーもみたい!」
あっちへこっちへ、少女は興味の湧くほうへ指を差し、手招きしながら誘導してくる。
俺は少女の気の向くままに後を追う。しかもだ。
「あ、ここは私が払うね」
飲食代は少女持ち。
「いいよ、子供に奢られるのはさすがに気が引ける」
と、断るのだが。
「私がそうしたいからいいの。お兄さんは黙って一緒にいてくれればいいから」
少女の強い意志に負けてしまう。周りの目が気になるからむしろ払いたい……。
そして現在、猫カフェでまったりと猫に囲まれていた。
「ニャン子かわいい~」
少女は顔をほころばせながら猫を抱いている。
こうしていると、やはり見た目通りの女の子だ。
商店街に入った途端の天真爛漫っぷりは見ていて和む。
「楽しいか?」
「うん、普段誰かと商店街なんて行かないから、とっても楽しい」
璃羽は年頃の子供らしく満面の笑みで俺に返した。
その笑顔を見ながら思う。
こんな小さな子でも、何かの『想い』に縛られて島に囚われているのだろうかと。
やがて璃羽はホコホコ満足した様子で「堪能した」と呟き、俺達は猫カフェを出た。
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