12話 違和感に気づく者
「五年……同じ年を?」
半信半疑で聞き返す俺に、新井はコクリと頷いた。
どうやら、彼女はタイムリープなる現象により、何度も同じ時を繰り返してきた、らしい。
個人の感覚でしか測れない話だから、実際言われてもピンとこない事柄ではあるが、それが本当だとすると、初対面で俺のことを知っていたり、ミコトが県外から来たと予測を立てた理由も合点がいく。
けれど……力にはなれなそうな話題である。
「その話が本当だとして、俺やミコトが解決出来るような問題とは思えないんだけど」
「かもしれません。けど、少しでも可能性があるならなんでも試してみたいんです。アタシの目的は、この島から出る事ですから」
新井がそう言うと、今度はミコトが彼女に尋ねた。
「ねえ、新井さんって言ったわね?」
「あ、気軽にスグみゃんと……」
どんだけ言ってほしいんだよ。
「じゃあ直里ちゃん、私もあなたに質問していい?」
ミコトは妥協して直里ちゃんと呼ぶ事にしたようだ。
「あなたは気づいているの? この島のこと」
漠然とミコトは尋ねるが、新井は特に疑問に思ってなさそうな面持ちで答えた。
「きっかけは突然でした。……ある日、家の近くにある石段から派手に転げ落ちたんです」
と、新井はこれまでの経緯を話す。
「その時、アタシの記憶にない情景が頭の中に流れて……まるで以前同じことがあったような既視感を感じました」
それが彼女の言う、デジャヴだろうか。
「日が経つごとに覚えのない記憶が蘇って……そこでアタシは仮説を立ててみたんです」
ミコトは早くその続きを言ってほしいのか「それは?」と彼女を促す。
だがそれは、俺の記憶をも揺さぶる一言だった。
「この島は死んだ人が集まる場所……死者の世界ではないかと」
その瞬間、再び俺の記憶がごちゃつく感覚に陥る。
薄っすらと、俺も思っていた。
ミコトの話しぶりからして、もしかしたらそうなのではないかと。
けれどそれを認めてしまったら、俺はすでに死んだことになる……。
それを受け入れるのが怖かったのだ。
それに……だとしたら……。
この島に来たミコトは、一体どういう存在なのだろうかと、そんな疑問も浮かび上がる。
なんてことを思いながらミコトの反応を待っていると。
「直里ちゃん、あなたが予想した通り、この島に住む人達はすでに死んでいるわ」
否定はしなかった……つまり俺は……。
「もちろん例外はいるけれど」
と、ミコトは俺を見ながら言った。
含みのある表情で。
「…………なんだよミコト」
「別に。まあ、その話は追々……ね」
とか、気になる言葉を残して会話を濁す。
たしかに今は新井の話のほうが優先順位が高いだろうからいいけど。
そう思い、俺から話題を戻した。
「なあ新井」
「せめて下の名前で呼んで下さいよー」
……面倒くさいな。
「直里、さっき同じ年を何度も繰り返しているって言ってたけど、それってやっぱりお前が既視感を覚えた日から?」
俺が尋ねると、直里は「はい」と一言。
「生前の記憶とこの島の記憶が混合して、今の生活に違和感を覚えました。それに気づいた日から、定期的にタイムリープが起きる現象を感じるようになったのです。みんなは気づいていないのに、アタシだけがその違和感を知っている。まるで自分だけがこの島の記憶に取り残されたように」
直里がどんな気持ちで今までを過ごしてきたか想像もつかないが……。
彼女は少し寂しそうな目をしながらそう言った。
続けて直里は自分の起きた現象の詳細を伝える。
「時間が巻き戻る日にち、時間帯はバラバラですが、どういうわけかタイムリープが起きると必ず三月十日に日付が変更されるのです」
「三月十日? それに何か意味でもあるのか?」
「さあ……アタシにはなんとも」
そして直里は再びミコトに問う。
「ミコトさんって言いましたか? あなたにはここがどういう場所かご存じなのですか?」
しかし、ミコトは首を横に振った。
「残念だけど、私もこの島がどういうものなのか、どうして存在しているのかは分からないの。ただ少なくとも、本来在るべき場所ではないのはたしかよ」
曖昧な答え、曖昧な島……。
結局さらに謎が深まっただけだ。
けど、だからミコトは調べているのだろう。この島を、ここに住む人々を。
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