11話 奇行少女
突然家に押しかけて来た、ショートな髪が似合う小柄な女の子。
見た目だけなら可愛いその子はナチュラルに家に上がり、そして、そっと俺に手を近づけ。
「……おい、なんで胸触ってんの?」
「いえ、目の前に男性の胸板があったらとりあえず触ってみるのが礼儀かと……」
さも当然のようにセクハラしてくるのだ。
立場が逆だったら……いや逆じゃなくても訴えられるぞ。
そんな反論を心で唱えていた時。
「圭、お風呂空いたよ。待たせてごめんね……って、ええ……これどういう状況?」
奥からサイズの合わないメンズ用のジャージを纏ったミコトが通りかかると、あからさまにドン引きした表情でその光景を目の当たりにしていた。
とりあえず俺は今来たミコトに現状を伝える。
「見ての通り、不法侵入者にセクハラされているところだ」
「待って下さい、アタシはそこのあなたに用があるのです」
するとこの少女は突然キリっと表情を変え、ミコトを見ながら弁解するのだ。
……手はそのままに。
「真顔で言うならせめて手を退けてくれない?」
数分後、私服に着替えた俺はテーブルを囲み、俺を先輩と呼ぶ少女の話を聞いた。
「申し遅れました。アタシは新井 直里。先輩と同じ高校に通う女子高生です。気軽にスグみゃんと呼んで下さい!」
と、元気いっぱいに自己紹介をしてきたので、俺もそれなりの返しで彼女に応える。
「じゃあ新井さん。早速要件を聞こうか」
「心の距離感!」
と思ったけれど、先程の奇行を目の当たりにしてからどうしても近づき難い気持ちになり、逆に素っ気ない返しをしてしまう。
俺と同じ高校らしいが、この子と面識がない為全く記憶にない。
そんな彼女は若干不満気な表情を見せながらも仕方なくと言った感じで話しを始めた。
「実はですね、一昨日たまたま商店街の辺りをうろついていた時、丁度お二人の姿を拝見致しまして、後をつけていたのですよ」
いきなり何言ってんだこいつ。
一昨日って、ミコトと初めて合った日じゃねえか。
「待って、知り合いならまだしも、なんで絡みのない俺達の後をわざわざつけていたのか、そこんとこをまず説明してもらってもいい?」
見ず知らずの女の子に尾行される程名が売れた男子高校生じゃないし、不審な行動をとっていたつもりもサラサラないのだが。
「アタシ、記憶力には自信あるんですよ~。学校の関係者はもちろん、一度見た顔ならばほとんど覚えているのです!」
「……だから? たしかにすごいと思うけど、それが俺達を尾行する理由にはならなくね?」
「つまり普段見慣れた商店街で、普段見慣れない女の子を見かけたので、不思議に思い後を追わせてもらった次第です。ましてやアタシと同じ学校の生徒と楽しくお喋りしながら商店街を回っていたのですから興味は尽きません」
……それだけ? こいつ他人のプライベートにズカズカ土足で踏み込むタイプだろうか?
「普通、そんな理由で知り合いでもない俺達の後をわざわざ追わなくね? 学年も違うんだし」
「そうでしょうか? もしアタシが先輩に片思いしている純情乙女なら、見知らぬ女の子と歩いている場面を目撃したら思わず尾行してしまう可能性はありますけど」
「え、何、君、俺に恋しちゃってるの?」
「いえ別に。時ヶ丘先輩のことよく知りませんし」
ばっさりと否定された。
「なんだよ、じゃあ尚更つける必要ねえじゃねえか」
と、片思い説を秒で否定され、ほんの少しだけ心が痛くなりながらも、ならば何故俺達に目を付けたのか気になるわけだ。
すると今度はミコトに目を向け。
「先程も言いましたが、アタシはあなたに用があるのです。……単刀直入にお聞きしますが、あなたは島の外から来た方ですよね? それもごく最近」
自信あり気な表情でそう言った。
彼女の記憶力もあながちガセではないのか。
「ええ、正確にはあなたが後をつけていた一昨日に。それにしても、よく分かったわね」
ミコトも関心しながら身の内を打ち明けると。
「あなただけはこの島に馴染んでいない様子でしたので。それに、このパターンはアタシも初めてです」
そんな引っかかることを言うのだ。
「このパターンって?」
ミコトが問うと。
「お二人はデジャヴ……もしくはタイムリープなんて言葉を知っていますか?」
意味深に、そんなことを返してきた。
「映画とかで見る、自分の意識を保ったまま過去に戻る現象……じゃなかったっけ?」
メディアの受け売り知識で俺が答えると、新井は静かに頷いた。
「時間に換算すれば五年くらい、アタシは同じ年を過ごしてきました」
そして、彼女はそんな作り話の世界にありがちなことを告げるのだ。
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