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言ノ箱庭  作者: 若取キエフ
三日目 明かされる島の正体
10/52

10話 謎の夢再び


 まただ。

 また昨日と同じく、金縛りの夢を見た。

 しかも今回はシチュエーションを変えて見知った声も加えて。


『圭、今日もユアちゃん来てくれたよ』


 聞き慣れた母の声だった。そしてその隣から。


『圭君、今日はお花買ってきたの。そこの窓際に飾るね』


 昨日の、見知らぬ女性の声。……どうやらユアと言うらしい。

 その声の主は隣へ来ると、寝ているらしい俺の手をそっと握る。


『来週学園祭があるんだよ。私のクラス、メイド喫茶だって』


 へえ、それは是非拝んでみたい。この子の顔も分かんないけど。


『まあ私は調理担当だからコスプレはしないんだけどね』


 しないのかよ。ちょっと期待しちゃったよ。


『で、交代制だから、午後は結構暇なんだ』


 良かったじゃん、友達とゆっくり出店を見て回りなよ。


 そんな、決して届かない言葉で彼女に返している時、ふと、握られた手に何やら温かい雫のようなものが垂れた。


『圭君と一緒に、見て回りたかったなあ……』


 おそらくその正体は涙なのだろう。

 またこの子は、俺の前で泣いているのか。


 なんだってんだ。一方的に喋りかけて勝手に泣いて。

 近くでは母さんのほうからもグズる音が聞こえてくる。

 何故辛気臭い雰囲気になっているんだ、俺が何した?


 母さんよ、隣の子は一体誰なんだ?

 どうしていつも俺のそばに……。


 そんな疑問がグルグルと、俺の脳内を支配する。

 寝てるのにこの疲労感はズルいだろ。頼むから静かに寝かせてくれ。

 そう思いながら。


 しばらくして、二人の声も気配もなくなった。











 目が覚めると、またしても大量の発汗。

 しかもそれだけじゃない。

 何故か起きた時、俺は涙を流していたのだ。


「……なんで?」


 夢の内容は鮮明に覚えているが、特に泣くような場面じゃなかった。

 ただただ謎の深まる夢……。

 あのユアって子、どこかで会っただろうか?


 そんな疑問ばかりが残る起床、正直寝覚めは悪い。

 今日が休みじゃなかったら気分は最高にローってやつだ。

 とりあえずシャワー浴びたい。


 俺は肌にべったり吸着する気持ち悪い衣類を脱ぎ捨てると、寝ぼけ眼を擦りながら下着一枚で浴室へ向かう。


 しかし、浴室の扉を開けた先には先客がいた。


「……あっ……えっ?」


 そこでようやく頭が覚醒した。

 目の前には下着姿のミコトがキョトンとした顔でこちらを見つめてくるのだ。


 ……以前真奈が言っていた。女の子にデリカシーのない行動はしないようにと。


 早速、デリカシーポイント減少イベントに遭遇したがね。


「ちょっと、なんて格好してんのよ」


 そして意外に冷静なミコトにツッコまれる。

 下着姿なのはこいつも一緒だが。


「ごめん、お前がいる事を忘れて、いつものライフスタイルで風呂場に来てしまった」


 悲鳴を上げるタイプじゃない分、俺も慌てて扉を閉めるお決まりの流れを割いて平常運転で返してしまう。


「裸で家の中うろつくタイプなの? それは女子に嫌われるからやめたほうがいいよ……」


 ただ、悲鳴を上げない分冷めた口調で返される為ダメージは倍増だ。

 いや、俺が悪いんだけどね。デリカシーポイントマイナス20点。


 そう思いながら、ふと。


「なあ、あのさ……」


 今朝の夢の話をしようかと声をかける。


「何?」


 最近見る夢も、島の事で何か関係があるのか、そんなことを思い。

 けれど。


「……いや、なんでもない」


 少なくとも今のタイミングではない。

 いや、違うな。実際は聞くのが怖くて躊躇ったのだ。


 ミコトは首を傾げながら、思い出したように俺に訴える。


「どうでもいいけど、一応私女だから着替えの時は出て行ってもらえる?」


 言いながら、俺を両手で部屋の外へ追い出し、「あと五分待ってて」と言いながら扉を閉められた。

 残された俺は扉の前でパンイチ待機を強要させられる事に。


 ……なんだこれ。


 とりあえずミコトを待ってる間に玄関のカギを開けようと思い、俺はドアノブの施錠を解除した……瞬間。


 いきなりインターホンが鳴った。


 突然の来訪者にピタリと動きを停止してしまう。が、この格好で出るのはマズイ。

 扉の向こう側にいる人物に備え付けの受話器で「少々お待ち下さい」的な事を言おうと思ったが。



「お邪魔失礼します! 時ヶ丘先輩のお宅でお間違いないでしょうか!」



 あろう事かその人物は間を置く事なく扉を開けて来た。


「いや、有無を言わさずかよ!」


 だからパンツ一枚の男はその人物に思わず怒号を浴びせる。


 するとその無礼者はまじまじと俺を見つめ。

 そして若干頬を赤らめながら。


「おおう……いきなり肌色多め……先輩、家だと裸族なんですか?」


 躊躇する事無く家の中へにじり寄ってくる女に、少し戦慄を覚えた。


「アタシと気が合いますねっ!」


「一緒にするな、たまたまだよ! ……って、君家だと裸なの? というか誰だよ!」


 もうツッコミと質問と怒号が入り混じって口が忙しくなる中、なおもその子は靴を脱ぎ当たり前のように家に上がってくるのだ。


 俺のことを先輩と呼んでいたが……うちの学校の生徒なのだろうか。





ご覧頂き有難うございます。

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