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言ノ箱庭  作者: 若取キエフ
一日目 少女との出会い
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1話 外から来た少女


 本州から少し離れた場所に、スケール控えめな島がある。

 正確に数えた事はないが、島の人口は一万人いるかいないか。

 一日かければ自転車でも一周出来るくらい小さい島である為、特に新しい発見などなく、娯楽施設も限られている。


 学校も島に三つしかなく、その内一つは小中一貫教育校だから、大体同級生は顔馴染みが多く変わり映えはない。


 そんな閉鎖的な空間で十数年も過ごせば、いつか島から出て上京したいと思いたくなる人もいるだろうが、不思議と俺含めた島の人間は、ここから出ようと思う者はいなかった。

 それくらいにこの島は居心地が良いのだ。





 新学期を迎えたある日。

 高校生活も二年目に突入し、そろそろ進路を考えなければならないはずの俺は、そんな事など一切合切考えず、終業のチャイムと同時に教室を抜け出し、町の中心地にある商店街へ向かおうとしていた。


 と、自前のチャリを引きながら歩いていると。


「あ、けい、今帰り?」


 校門を出る直前、クラスメイトの真奈まなに呼び止められる。


「私今日委員会の仕事が残っているから晩御飯遅くなっちゃうかも」


「いいよ、俺も漫画買いに商店街に行く予定だから」


 申し訳なく言う真奈に、俺も諸事情で帰りが遅くなるから気にするなと返した。



 俺と真奈はお互い家が近く、そしてお互い両親が出張で島を離れているという酷似した境遇から、二人で夕飯を食べる事がたまにある。


 決して付き合っているとかそういうわけではないのだが、以前その事をクラスの連中に話したら「何故それで付き合わん?」とキレ気味で根掘り葉掘り追及された為、以来真奈と話す時はたいがい教室を出た後に限定した。


「なら帰る時連絡して。後で圭の家に行くから」


 俺は二つ返事で真奈と別れ、帰宅途中にある商店街へ向かった。








 島の中心地にあるひと際大きな商店街。

 そこには様々な飲食店や衣料雑貨、ゲームセンターなどが立ち並ぶ、島の住民が最も集まる場所であり、夕方には俺達若者がわしゃわしゃ群がり闊歩する時間帯である。


 好きな漫画雑誌の新刊を買うだけだった俺は、早々に目的を達成し暇になった。

 おそらく真奈は帰宅していない時間だろうし、もう少しここで暇つぶししていようかと、夕日に照らされる商店街を眺めながらベンチに座っていた。


 そんな時、ふと、正面を歩く少女に視線が向く。


 同い年くらいだろうか。

 黒く長い髪に透き通ったような白い肌で、ずいぶん整った顔をしている女の子だった。

 何か探しているのか、少女は辺りをキョロキョロ見渡しながら俺の目の前を通りすぎる。


 この辺じゃ見ない顔だし、外から来た子だろうか。

 何気なく少女のほうを見ていると、俺の視線に気がついたのか、その子とまじまじ目が合ってしまう。


 そして、その子は突然驚いたように俺の元へと近づいて来るのだ。


 ……俺、何かしただろうか。

 そんな事を思っていると、少女は顔を接近させこう言った。


「あなた……どうしてここに?」


 どうしてとは?

 意味深にそんな主張をしてくる彼女に、俺は首を傾げる。


「えっと、どういう意味? 君とどこかで会ったかな?」


 反応がよろしくなかったのか、俺の問いには答えず、少女は深刻そうな表情を浮かべていた。


 間を置いた後、再び彼女は口を開く。


「あなた、ここに住んで長いの?」


 出た言葉は、俺の質問など初めからなかったかのように逆に問い質すものだった。


「まあ、生まれた時からだから、もうすぐ十七年くらいになるかな」


「生まれた時から……一度も島から出た事ないの?」


「出る必要も用事もなかったからな」


「……ふ~ん、そう」


 なんだその反応。自分から振っといてなんだその反応おい。


「で、君は最近ここに越して来た人?」


 ともかく彼女へのアンサーを出したところで、俺の質問にも答えてもらおうと促すが。


「私は……多分さっき来たばかりだと思うけど、どうやって来たか思い出せないの」


 俺の期待した答えとは違い、何とも煮え切らない反応をし出した。

 っていうか軽く事件の香りがしてきた。


「それって記憶喪失ってやつ? 知り合いは?」


「……ここには一人で来たの。この島でやる事があって……それで」


 少女は頭を抱えながら何かを思い出そうとするが、どうにも辛そうな表情を浮かべる。


「無理に思い出さなくていいよ。とりあえず誰かとはぐれたわけじゃないんだな」


 一旦少女を落ち着かせ。


「頭痛薬か何か買ってこようか?」


 と、気遣いで尋ねるが、少女は無言で首を振った。


「それよりもこの町の事を知りたい。あなたこの辺詳しいでしょ、案内してくれない?」


 代わりに少女は俺に町の案内役を所望する。

 だが……商店街を案内しているうちに真奈が帰宅しそうではある。

 あいつ時間にはうるさいし、せめて明日だったら……。


「悪いんだけど、今そんなに時間がなくてさ……明日ならゆっくり案内してあげられるんだけど」


 と、やんわり断った時だった。

 ふと、彼女は突然俺に顔を近づけてくる。


「えっ……なに?」


 じっと見つめ、徐々に口元が俺の顔に接近しそうな間合い。


 これってもしかして?

 え、こんな大衆の面前で?


 そんな予感が脳裏をよぎる。


「あの、展開急すぎない?」


 と、そんなことを言ってみるものの、実際思春期男子の俺も期待してしまっているわけだ。


 悪いな、クラスの恋に恋するヤング共。どうやら俺は、一足先にネクストステージへ向かう事となりそうだ……。


 そんな優越感を胸に、俺は瞳を閉じる。



 だが、彼女の口元は俺のフロント部分をスルリと避け。


「【お願い、町を案内して】」


 耳元で、囁くようにそう言った。

 その時――。


「っっっ!」


 ドクンと、鼓動が早まる感覚があった。


 今のはなんだろう……。

 脳に直接声が伝わってくるような感じ。

 それと同時に、妙にこの子をほっとけない気持ちが芽生えるのだ。


「あ、ああ……任せろよ。この辺は庭みたいなもんだから」


 そして自然と、俺は彼女の要望に応えていた。





新作始めました。

自分のペースでコツコツ投稿していきます。

宜しければご覧下さい。

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