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97 愛玩奴隷 筋トレをする

 

 そんな訳で、今日から僕の姫妓の蕾(プランティア)としての生活と、筋トレ生活が始まった。


「筋肉は毎日トレーニングをするよりも、一日置きの方が良いって聞いたんデスけど……」


 僕は、前の世界でオカンがやっていた筋トレ動画の情報を思い出す。

 筋肉は一度使い過ぎたら「超回復」を促すために、一日休息を挟んでのトレーニングを推奨している内容だった。


「あら、そんな事は無いわよ?」


 だが、ティキさんの持論は違うようだ。


「第一、筋トレは毎日続ける習慣をつけることが重要なの。一日置き、なんて言っていたら、絶対休んだ翌日、また頑張るのが嫌になって、途中で挫折するわよ」


 そういわれると、オカンも初日は頑張るのだが、3日続いた例がないな。

 僕だって、意識の方は、そのオカンの娘である。


 『空が飛べる身体になれる』という、夢のような能力を持ち、秋の終わりにはそれなりに飛べる身体に成長していながらも「冬は寒いから、春になったら飛ぶ練習をしマス~」とかほざいて、リーリスさんのポケットでぬくぬくしていた過去の己をぶん殴りたい。


「だから、その為にも、毎日、別の筋肉を鍛えるの。昨日は胸と脇と腕を重点的に使ったなら、今日はそっちの筋肉は休ませて、太ももとウェストを鍛えるの。そして、その次の日はまた胸と脇と腕……そんな風に、交互に繰り返すのよ」


「は、ハイ」


 毎日続ける習慣、か。

 僕は、ティキさんから教えて貰った効果的な腹筋のやり方……

 腕立て伏せみたいなんだけど、地面につけるのは、つま先と肘から先だけだ。あとは、全身の筋力で支えて胸、お腹、太もも、膝等を宙に浮かせる。


 この状態で、首を上下……自分のお腹を覗き込んでは、空を見上げる、を繰り返す。

 なお、その際、背やお尻を丸めたりしないように注意だ。


 いーち、にー、さーん……


 ……じ、地味に、キツイ……

 な、何気に、この義足もそれなりには使える品で、筋トレ程度なら問題無く僕の身体を支えてくれている。


「やっぱり、ヒトって楽な方へ、楽な方へ流れていく生き物だもの」


 で、ですよねー……

 じゅうろーく……じゅう、なーな……


「それに、筋トレにはもう一つ続けるメリットがあってね?」


「な、なん、デス……か?」


 ああああぁぁぁ……ろ、六十秒を超えるとマジでキツい!

 全身がプルプルする……!


「はい! レイニー、息は止めない!!」


「ひぃっ……ふぅ……はふぅ~……!」


「それは、領地経営につながるの」


 筋トレが? 領地経営?

 イマイチ、ピンとこないんだけど、それより、全身のぷるぷるが限界に来ている。


「も、もう、む、無理、デス~」


 ぷしゅっ……ぺそん! と、僕はその腹筋スタイルから崩れ落ちた。

 おぼぼぼぼ……75秒が限界でした……


「はい、10秒休んでもう一回ね、あと2セットで休憩しましょう」


「は、はひぃ……」


 そんな訳で、早朝のトレーニングは腹筋を3回行った所で終了とあいなった。

 

「ところで、筋トレと領地経営ってどんな関係なんデスか?」


 僕は、3セットの腹筋を終え、息が整った所でティキさんに尋ねる。


「ああ、あれ? ふふふ。」


 ティキさんは、どこか遠くを見つめるように懐かしそうな眼差しをする。


「例えば、自分は、しっかりと指示をしたにもかかわらず、部下や他人が自分の指示のとおりに動いてくれない事ってあるじゃない?」


 あー、そういわれると、クラスの文化祭の準備の際にあったな。


 こっちは生徒会に所属してた上に演劇部員だったから、めちゃくちゃバタバタしてて、大変だった時に……よりにもよって文化祭実行委員長がサボって、大看板作成が間に合いそうになくなっちゃった事が。


 しかも、機材は、僕たち生徒会が前日に全部準備してて「作成は文化祭実行委員がお願いね?」という段取りだったはずなのに、だ。


 それなのに、当の実行委員長は、大看板の存在を一方的に「これから作るのは無理」と決めつけて、作成をしなかったんだよね~。

 

 仮に、作成を中止するんだったら、もっと前に言って欲しかったよ、こっちは。


 機材だって高かったし、買い出しだって、文化祭準備で時間がない中、少し遠くのホームセンターまで自転車で行って集めて来たんだよ?


 自分の身長より大きなボードとか……運ぶのだって大変だったんだから。


 いやー、あの時ばかりは……流石に僕もキレたね。


「あー……まぁ、ありマスよね、そんな事」 


「でしょ? で、筋トレしていると、自分の思った通りに自分の身体を動かせない時ってない?」


「そりゃ、ありマスね~」


 最後の1回なんて、疲労がたまっていた事も有って、48秒しか腹筋が持たなかったもんね。僕は彼女のセリフに頷き返す。


「だから、そういう時に思い出すの。『自分自身の身体だって自分の思う通りに動かせないのに、他人なんか自分の思い通りに動かせる訳がない』って」


 なるほど。

 ……そう言われて噛みしめると、深いな。


「ま、嫌なヤツからの受け売りでもあるんだけど」


 ん?

 嫌なヤツからの受け売りと言う割には……

 何か、すごく幸せを噛みしめているみたいな顔で話しているんですけど?


 同じ嫌なヤツであるはずの婚約者の話をするときの顔とは大違いだ。 

 

「だからね、筋トレすると、心まで広くなった気分になれるのよ」


 そういって、ふんわり微笑むティキさんは何だか、とても奇麗に見えた。





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