94 愛玩奴隷 調教士の理想にウンザリする
「では、今回揉めている食事内容については、以前の材料に戻す、ということで構わんかのぅ? まぁ、貴重なデータは取らせて貰ってあるからのぅ」
実は物騒な深緑髪の青年が二人に確認するように問いかける。
その笑顔の裏に、これで元の食事に戻してからの禁断症状がどう出て来るのか楽しみだ、と書かれているような気がしてならない。
「もちろんです」
即座に頷くスオウさんに比べ、赤髪の調教士が待ったをかけた。
「ちょっと待ってくれ、コイツの指定する食材は値段が張りすぎだ。元に戻すって事なら、第一棟の女共を数人処分してくれ。いっそ、半分くらい売り払っても構わないだろ?」
「ふむ、それも一理あるのぅ」
スオウさんは、赤髪の調教士を睨みつけると、自分の唇をきつく噛みしめていたが、大きく一つ息を吐くと「わかりました」と答えた。
「では、近々『出荷』を行うか。迎賓館への招待状をいつもの貴族家の皆さまにお送りしておけ。日程はメディロンに任せるぞ。」
「ああ。わかったぜ」
「ふむ。スオウはそれまでに古代魔法遺物をいつものように迎賓館へ設置しておくんじゃぞ? 万が一、結界の解除に手間取り、貴族の皆様が愛玩姫妓に触れ合えぬ、などという粗相をする訳にはいかんからのぅ。良いな? スオウ」
「はい。もちろんです」
おお! 結界の解除……!
こ、これは、是非とも参加させていただきたいイベントだ。当然、目的は貴族などではなく、隙を見てその古代魔法遺物を破壊する事だけれども!
僕とティキさんは、思わず顔を見あわせる。
子狐なので、人間程は表情が分からないけど、恐らく、驚きに目を丸くしているのだろう。
僕が小さく頷くと、ティキさんもこくり、と頷いてくれたので、多分、そこがチャンス、ということは伝わっているはずだ。
「ワシはいつもの通り、粗茶でも準備しようかのぅ」
「ルゥルゥ様のお茶は貴族連中に高く売れるから助かるぜ。……どっかの金食い虫と違ってな!」
あからさまな嫌味をスオウさんに浴びせる赤髪の調教士。スオウさんは、それを素知らぬ顔で聞き流している。
「メディロンはどうじゃ?」
「出せと言うなら、全員、それまでに仕上げてやるさ」
「そこまで無理はせんで良いぞ。第一『隷属の首輪』は数が限られる。ワシ等やお客さまに完全服従の躾さえ終われば、外した状態に慣れさせておくんじゃぞ。」
「もちろん、外された事に希望を持つような愚かな女には、きっちり、何度でも、教育してやってるぜ?」
「……ワシの『回復魔法』の及ぶ範囲にしておくんじゃぞ? おぬしは仕事は早いが、傷物が多すぎるんじゃからのぅ」
深緑髪の薬師が少し苦笑するような口調でそうたしなめる。
「スオウはどうじゃ?」
「はい、ルゥルゥ様。こちらにも愛玩姫妓として恥ずかしくない娘が数人居ますから、対応いたしましょう」
うーん、この口ぶりだと、成績優秀者が数名だけ特別に参加できる感じのイベントなのかな?
流石に、この短期間で成績優秀者になる自信はないぞ。
一瞬、頭を抱えそうになったところに意外な助け舟が出た。
「フン、あの深緋狐族と妙に小さい小人族も出して来いよ」
赤髪の調教士がスオウさんに挑発じみた言葉を投げかける。
……これ、ティキさんと僕の事だよね!?
「……非売品としてなら、対応いたしましょう」
少し考えこんだスオウさんがそう答えた。
「何を寝ぼけたことを言ってやがる。深緋狐なんざ、『変化』させたら、誰の好みの見た目にだって化け放題だろうが」
え? そうなの?
思わずティキさんを振り返ると、その発言は、明かに不愉快だったらしく、牙を剥き出し、鼻の上に皺を寄せるティキさん。
「ふむ……確かに。あの二人はかなり珍しい亜人じゃからのぅ」
「フン、こんな事なら、前回のドワーフ女は諦めればよかったぜ……」
「まぁ、これもめぐり合わせじゃよ。まぁ、ワシは亜人に興味は無いがのぅ」
ココに来た女性が『どこの棟に配属になるか』は、輪番制なのかもしれない。
「スオウよ、今回、おぬしの棟への加入を認めたあの小人族も半年以内には体裁を整えるようにするんじゃぞ?」
ん? もしかして、それって僕の事か?
「それは流石に無茶です! せめて3年……いや、最低でも1年は期間が無ければ……愛玩姫妓に耐えられませんよ!」
「何、寝言ほざいていやがる。貴様の棟には腐る程、拡張用の魔道具が揃ってるだろうが」
「ハーフリンクよりもさらに小柄な体なんですよ!? 最小サイズを受け入れられるようにするまでにだって下準備が必要ですし、その前の心の準備が大切でしょう!」
「フン、俺ならあのチビ、一か月で人間サイズのイチモツを根本まで咥え込めるように調教してやるぜ」
ぺろり、と舌なめずりをする赤い髪の男。
おいおい、何、勝手に物騒な話を進めているの!?
「貴方の場合は一か月以内に壊す、の間違いじゃないですか? そんな短期間で我々サイズの男根を挿入したら各種臓器を引き裂き、横隔膜まで破れてしまいますよ」
「それが小人族をヤル醍醐味だろ? なかなかできない体験だぜ。自分のムスコが他人の心臓を突き上げる感覚は」
待てコラ、そんなの即死案件じゃねーか!
「それでは、その辺の娼婦窟と何も変わりがありませんよ。」
その辺の娼婦窟の扱いと変わらないって……それも物騒だなぁ。
小人族は、数が減っちゃって珍しいみたいだけど……そんな扱いされていればねぇ?
そりゃ、減るよ。
「愛玩姫妓を謳う以上、きっちり、我々の相手が何度でも務まるよう僕の調教術の粋を結集したうえで、拡張時空間術・房閨術・魔道具・ありったけの古代魔法遺物を駆使し、生きた芸術品に仕立て上げて見せますよ!」
……それも嫌だな。
こっちの意思とは無関係に、自信たっぷりにそう宣言するスオウさん。
その瞳はやる気と使命感に燃えている。
この三人の中では一番マシな人格を持っている気はするが、そのご立派な情熱がマジで迷惑です。
「ですので、理想は3年の調教期間が必要です」
「ふざけるな! そんなの元を取るのに何年かかると思ってやがる!」
「……仕方がないのぅ、まぁせめて1年かのぅ。以前おぬしがハーフリンクを仕上げた時は11か月だったはずじゃ」
「……仕方がありません、最善を尽くします」
尽くさなくて良いです。
「まあ、次の出荷の出来高次第じゃな」
「フン、俺は調教の続きがあるからな。」
赤髪の男が、がたん、と音をたてて席を立つ。
「そうですね。僕も個別指導の時間を有効に活用しなければなりませんね」
「ワシも薬の準備をしておかねばな……」
どうやら、これで三人の相談はお開きのようだ。
(ティキさん、僕たちも、一旦、部屋に戻りましょう)
(そうね)
今の会話の様子だと、スオウさんからの呼び出しがないともいえない。
そんな訳で、僕たちは、取り急ぎ自室に戻ったのだが、実は、それがかなり大変だったのだ。




