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84 愛玩奴隷 混乱する

 

 そんな後悔が表情ににじみ出ていたのだろう。

 僕たちの様子を心配そうに見ていた女の子の一人が慰めるように口を開く。


「あのね……最初は皆、不本意かもしれないけど、センセのいう事は嘘じゃないわ。アタシもセンセに拾われたんだけど、貧乏な農民の子として泥まみれで働くより、こっちの方がずっと良い生活ができるもの」


 それを皮切りに、スオウさんの周りで一緒に説明を聞いていた女の子達が、僕たちに対して『楽園』と呼ばれる愛玩姫妓《プラネリ・フィア》養成施設の良さを口々に語り出した。


「そうね。私も。最初は攫われてきたから怖かったけど……でも、みんなも先生も優しいし、今が一番幸せよ。今は、立派な愛玩姫妓《プラネリ・フィア》になるために、お勉強……がんばってるの」


「それに、獣人だって差別されたりしませんわ」


 猫耳の獣人のお姉さんが可愛いお耳をピクピク揺らしながら大きく頷いた。

 どうやら、彼女たちにとって、ここは悪い環境ではないらしい。


 もしも、僕が実験奴隷から逃げ出した時に助けられたのがリーリスさんじゃなくて、このスオウさんだったら、僕だって真面目に愛玩姫妓《プラネリ・フィア》を目指したかもしれない。


 あの実験奴隷よりは、ね?

 何万倍もマシな印象だし。満期退職金もあるし。


 そんな彼女たちの様子を嬉しそうな眼差しで見つめていたスオウさんが口を開いた。


「勘違いしておいでかもしれませんが、愛玩姫妓《プラネリ・フィア》は娼婦ではありません。その証拠に、彼女たちが男性と交わるのは本人がそう望んだ時だけ。僕たちは硬い蕾が色づいて花開くまで育てることはあっても、無理矢理に花弁を開かせるような無体は決していたしません」


 そういって、穏やかに微笑むスオウさん。

 う~ん……この人、もしかして役職や称号ほど物騒な人ではないのかな?

 腰に鞭を差しているけど、女の子達の誰も鞭で打たれたような痕は無い。


「センセ、お菓子と飲み物、持って来たよ。」


「ああ、ありがとう。僕の可愛い、姫妓の蕾(プランティア)」


 その時、ひとりの女の子が、可愛く盛りつけられたお盆を僕たちの前に並べると、甘えた調子で、スオウさんにしなだれかかる。

 ちょうど僕達との会話が一区切りついたと思ったのだろう。


「ね~、先生、昨日の授業でもう少し、詳しく教えて欲しいところがあったの~」


「おや、それはどこです?」


「あのね、あのね、実技の授業の……最後のやつなの~」「私もですわ!」「あたしも!」


 その子に触発されるように、近くで楽園の良さを力説していた女の子達も同調する。


「ふふふ、勉強熱心なのはエライですね。」


 スオウさんは、甘える生徒さんの頭を優しく撫でる。


「だから、もう一度、教えて欲しいな~……ダメ?」


「もちろん、構いませんよ。疑問はそのままにせず、きちんと解るまで学ぶ姿勢は尊いものです。それでは、授業が分からなかった子は、個別指導教室へ行きましょうか?」


「わーい!」「やったー、センセ、ありがとう!」「先生、大好きですわ!」


 手を取り合って喜ぶ少女達。


「すいません、お二人とも、詳しい授業の仕方は改めてご説明します。基本的に、僕の指示に従っていただければと思いますが、まずは……この『楽園』の中で自由に生活なさってみてください。」


「もし、私たちが逃げ出したら?」


 ティキさんが、挑発的な言葉を投げ掛けるも、スオウさんはさらりと


「この『楽園』は、結界で覆われていますよ。核となる古代魔法遺物《アーティファクト》を破壊するか、この僕を殺さなければ結界は解除されませんから、それは出来ないでしょう。」


 その言葉に、視線を横にずらすと「先生を殺したら、アンタたちを叩き殺して、親戚一同七代末まで呪う」とでも言いたげな女の子たちの視線が僕たちに突き刺さっている。

 ……怖っ!


「それに……普段は使いませんが、ここのルールを破るような事があれば、きちんと『お仕置き』もさせていただきますからね。」


 と、腰に差している鞭を握りしめ微笑んだ。

 

 あの防御魔法も有るし……これだけの人望を踏まえると、碌に武器も無い僕たちに、スオウさんを倒すのは、ほぼ不可能だと言っていいだろう。


「でも、まずは、腹ごしらえをしつつ、考えてみて下さい。愛玩姫妓《プラネリ・フィア》という生き方を」


 自信たっぷりに答えつつ、色とりどりのケーキや果実、飲み物の載ったお盆を指差すと、スオウさん達は個別指導教室とやらに向かう。

 途中で別の女の子に呼び止められ、そこでも同じように、しばらくイチャついて大広間から出て行こうとしているようだ。


 残された僕たちは顔を見合わせると、ティキさんが僧帽筋を振り、ぽつりと呟いた。


「……でも、やっぱり、なんだかココにいるヒトたち……何かがおかしいわ……」


 何かがおかしい、か。

 

 ティキさんの言葉が気になり、スオウさんと一緒に教室へ向かう少女たちを【鑑定】する。

 すると、ステイタス部分に驚きの情報が刻印されていた。


 状態:【精神汚染:姫妓の蕾(プランティア):レベル○】……常時発情・性欲の虜・嫉妬心欠落・乙女回路肥大・性癖強化:○○


 な?! なんじゃこりゃ……!


 レベルの部分は個人差があって、5~9の間に収まっているけど、それ以外はどん引きの単語が並んでいる。性癖強化に至っては「百合プレイ」だの「乱交」だの「巨乳フェチ」だの……なかなか業が深そうな単語のオンパレードだ。


 ど、どういうことだ?

 ……あのステイタス異常、いったい何が原因なんだろう?


 そう思いながら、スオウさんの後ろ姿を再度【鑑定】しても、特別ステイタス異常を付与させるようなものは見当たらなかった。


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