82 愛玩奴隷 調教士の話を聞く
【鑑定】
氏名:スオウ・ジルマ
職業:性奴隷調教士
称号:【快楽の伝道師】【処女百人斬り】
なんかヤバい奴キタァァァァァっっ!!
その職業と称号だけで、半径3メートル以内に近づいて欲しくないよ!?
アダルト商品の煽り文句みたいな称号だなぁ……いや、職業的には正しいのか……
えーと、コイツの持ってる【祝福】は?
【祝福】:
【防御魔法】階位5……自分の希望する場所にレベル5相当の防衛力を持つ、最大半径50メトル以内の結界を張る事ができる。
あー……でも、まぁ、【祝福】そのものは、防御系だからそんなに危険じゃない……?
「ふふっ……今回、僕の担当する姫妓の蕾は、お転婆さんだね。」
調教士の男が優し気な声でにっこりと僕たちに微笑みかける。
「この建物の外側は、僕の結界を古代魔法遺物で強化したものが張ってあります。残念ですが、その程度の攻撃では傷一つ付きませんよ。ほら、このとおり……【防御魔法】小結界!」
ぽわんっ!
男の声にこたえるように、僕とティキさんの周りを、まるでシャボン玉ドームのような透明な膜が覆いつくす。
「えっ?」
「何よ、こんなもの! えいっ!!」
だァんっ!!
ティキさんが、改めてその結界に張り手をかますものの、その半透明な膜はぴくりともしない。
「……くっ……まただわ……コイツの祝福、硬いのよ」
ぽつり、とティキさんが、その張りのある筋肉をしょんぼりさせて小さな声で呟く。
前言撤回!!
攻撃力的には危険ではないかもしれないが、逃亡するにしては、実に厄介な【祝福】だ!
これでは、仮に小鳥の姿に変身したとしても、状況は好転しない。
「それよりも、そちらの小さな姫妓の蕾もご一緒に、食事でも取りながら、現状を説明させてください。愛玩姫妓という生き方も悪くないと思えるはずです。……ずっとその結界の中よりもマシでしょう?」
いや、でも、さっき性奴隷だの何だのって揉めていたじゃん?
そんなの、女性としては、実験奴隷の次に嫌に決まっている。
「話だけ聞いたら、ダリスに帰らせてもらえるんデスか?」
僕は挑発するようなトゲを言葉に込めて男に放つ。
「そうですね……」
調教士の男は、悩むフリでもするように少し芝居がかったポーズで自分の額を抑えると、ぴん、と人差し指を一本立てる。そして、
「ひと月、ここで暮らしてみて、それでも帰りたいとおっしゃるのであれば構いませんよ」
と、のたまった。
その言葉に、むしろ驚いて顔を見合わせてしまったのは僕とティキさんの方だ。
てっきり「それはできません」と断られると思ったよ。
うーん、どうしたもんかな?
この男、本気なのか?
嗚呼、こんな時、エシル姐さんの【嘘発見】が有ればなぁ!
【鑑定】だと、言葉の嘘・本当は判断できないんだよね……
まぁ、発言に明かな矛盾点が有れば別だけど。
そうだ、ティキさんは【嘘発見】持っていないかな?
僕は、隣に立つ鬼マッチョなボディに【鑑定】を発動させた。
【鑑定】
氏名:ティキ・ナージャ
特性:
【変化:深緋狐族……赤炎狐族の変異種。狐の姿以外に、自分の肉体を変化させることができる。ただし、小さくなる場合は自分の体積の約半分、大きくなる場合は体積の約4倍まで】
祝福:
【土魔法】階位4
【千里眼】階位3……遠くの景色を見ることができる。同じ景色を最大3名の他人にも見せることができる。
おお……獣人で複数【祝福】を持っているのって凄いな。
だけど、【嘘発見】は持ってないみたいだ。
「……ごめんなさい、本当はさっきもあの男を張り倒して逃げようとしたんだけど、この妙な結界に阻まれちゃったのよ……」
ティキさんが悔しそうに小声で僕にそう告げる。
あ、だから、扉をぶち破って僕のいる部屋の方へ来たのね。
となると、不信感はモリモリ大盛だが、この男の話を聞いてみるしか方法が無いようだ。
僕たちは、一時的に逃亡を保留とする。
もちろん、諦めた訳じゃないからね! 保留だからね、保留っ!!
性奴隷っていうくらいだから、すぐさま命の危機に直結する訳ではなさそうだし……
「……話を、聞くしか……なさそうデスね」
逃亡を一旦保留した僕とティキさんは、男の案内で姫妓の蕾とやらが集められている大広間へと案内された。
逃亡ルートの為にも……と思って施設の造りを観察しているんだけど、コイツの防御魔法さえなければ、いつでも・どこからでも逃げられそうな雰囲気のある建物だ。
例えば、光や風を取り入れる為の大きな窓は至る所にあるし、ベランダに出られるようになっているような場所も見受けられる。さらに、手入れされた庭に出る事ができるようなスロープもあったし、ホテルの従業員さんみたいな服装の掃除のおばさんが庭を手入れしている姿も見えた。
奴隷を収容している施設、として考えるとかなり違和感のある建物だ。
まるで、南国の高級リゾートホテルみたいな雰囲気。
うぅ……ここ、どこなんだろう……
ダリスや三日月島からそんなに離れていないと良いなぁ……
今更ながら、自分がどのくらいの時間、意識を失っていたのかが気にかかる。
あの日、僕たちが三日月島に着いて、お風呂に入ったのは午後だった。
だけど、今日のこのお日様の感じは午前中な気がするんだよなー……
つまり、最短でも一晩は過ぎている。
リーリスさん、心配してるだろうな……
あー! もう、今すぐにでも帰りたいっ!!
そんな事を考えつつ、ヤツの後をひょこ、ひょこ、と付いて行く。
ちなみに、移動中もヤツとは1m以上は距離を取っている。
ただし、一定以上……離れると、ヤツの【防御魔法】がグイグイ僕達を押してくるから、きっとあの男の半径5メートルくらいの場所に円形の結界が張られているんだろう。
一応、僕の歩く速度に合わせてゆっくり進んでくれているみたいだけど……防御魔法って、リアルに相手取るとホント厄介だな……!!




