80 薬屋の弟子 筋肉令嬢との邂逅
あれ?
どこだ、ココ?
目を開けると、見知らぬ天井。
えーと……メガネ、メガネ……
ちょっとデジャブを感じつつ、枕元のメガネを装着する。
確か、僕、お風呂に入ってて……
あれ? のぼせたのかな~?
だが、それにしては不自然だ。
お風呂でのぼせたにしては、洗ったばかりだったはずの髪は乾いているし、僕は、白い……かなり薄手の、明らかに素肌が透けて見えるようなワンピース一枚を着せられている。
下着は普段の自分の物とは違う黒のオシャレな、おパンティ。
それに、ブラ? いや、ブラというよりもアンダーバストの位置を綺麗に見せるコルセット?
元の世界でも今の世界でも、こんなプリティとアダルティに全力投球なもの装着したことはない。
まぁ、デザイン的には洗練されててカワイイと思うんだけど……
中学生レベルのボディには、ちょっと色っぽすぎじゃないかなー?
そんな不思議な恰好だが、右足首の収納の魔法石の付いたアンクレットは見当たらない。
その代わりに、首にはチョーカーのようなアクセサリーが装着されている。
それに、枕元にメガネの魔道具はあるけれど、ポポムゥさんの義足は無い。
だが、球体関節人形の足のような……妙に艶かしい足が付けられていた。
え? どういうこと?
見れば、この部屋、かなり高級なホテルの一室みたいな……?
あの宿にこんな雰囲気の部屋あったっけ?
僕たちが宿泊している宿は、どちらかと言うと洋風の外観やインテリアだったのだけど、今いるココは、中東風とでもいうのか?
ベッドにもエキゾチックな天幕が張られている。
僕は、寝ていたベッドから飛び降り……
どべちっ!!
イタタタタ……
あー、もう!!
この義足、奇麗で色っぽいけど、ポポムゥさんの義足に比べるとすごく使いづらいっ!
足首部分が球体関節になってるから安定しないし、重い!
その点、ポポムゥさんの義足は、僕に合わせたオーダーメイドで、僕自身の魔力が練り込まれているから、ほとんど重さを感じないのだ。
元の義足無いかな? と、周りを見回しても、僕の義足は見当たらない。
下が柔らかい絨毯なのはよかったけど、いったいこれ、どういうこと!?
ひょこり、ひょこり、と左足を引きずりながら正面の扉の方へすすむと、何やらヒステリックな女性の声がした。
この部屋の外で言い争いでもしてるのかな?
「どういうことなのよ! 愛玩姫妓なんて大層な名前を付けたって、私は騙されないわ!!」
「まぁまぁ、僕のかわいい姫妓の蕾さん、おちついてください」
どうやら、若い女性が男性に喰ってかかっているようだ。
いきり立つ女性の声とは裏腹に、男性はまるで聞き分けの無い幼女を相手にしているような悠然とした調子である。
「私の名前はティキよ! ティキ・ナージャ!! 変な名前で呼ばないで!」
「ですが、ここでは、愛玩姫妓候補生は原則、姫妓の蕾と呼ぶことになっているんです。」
「そんな気取った呼び方をしたって、結局することは娼婦や性奴隷と同じじゃない!」
「そんなことはありませんよ」
「嘘!! 結局は、男に媚びを売って、股を開いて喜ばせるだけ! 私は性奴隷なんてまっぴらごめんよ!! ソロルジアに帰るわっ!」
だんっ! だんっ! と、荒々しく床を踏み鳴らす音が響く。
「あっ! そ、そちらの部屋は……」
悠然とした口調を崩さなかった男の声に初めて少し焦ったような響きが混ざる。
だんっ!
だんっ!!
だんっ!! だんっ!!!
ん?
何か、この足音……どんどん僕のいる部屋の方に近づいて来てない?
本能的に嫌な予感がして、僕は左足を引きずりながら扉から離れ、右手側の壁にぴったりと身体をくっつけた。
どだごんっ!! ばきゃッ!!
えええええええええ!?
一般家庭より、ずっと立派なつくりの木製扉が爆ぜた。
そして、扉をぶち破った仁王の腕が僕の視界に飛び込んでくる。
あ、あばばばばばば……
次いで姿を見せたのは、鎌倉時代の天才仏師・運慶が彫り出したと言われても違和感のないような、まさに筋肉の金字塔!!
脈打つ上腕二頭筋! 乙女の腰を三人分集めたって足りない太さの大腿四頭筋!
ごりッごりに鬼神の宿った背中!
体脂肪率が限りなく0の磨きに磨かれたシックスパット!
お尻って脂肪が無いと、あんな鬼の洗濯板みたいになるんだ!?
その臀部からにゅるりと生えるピンク色のふわふわ狐しっぽとの混ざり合わないハーモニー!
「あら……?」
しかも、その仁王ボディの方……僕と全く同じ透けるような白いワンピースを着用しているし、下着やコルセットもまったく一緒。たぶん、ご立派すぎる僧帽筋に巻かれているチョーカーも同じものなのだろう。
だがしかし!
……お、おなじ女の子の身体とは思えない……
声は完全に女性なんだけど、その骨太な骨格は、女というよりも男……否、漢ッ!
え? お姉さん……なんとか神拳の使い手ですか?
だけど、首から上はピンク色のさらさらロングヘア―に大きな狐耳、そしてぱっちりとした二重の瞳の美少女ヘッドがくっ付いている。
待って、待って、色んな属性の視覚情報が混み入っていて混乱するんですけど!?
違和感さんが、ここぞとばかりに良い仕事をしている。
よ、妖狐のお姉さんなのかなぁ?!
その長いまつげに彩られた、透き通る氷壁色の瞳と、僕の視線が交錯する。
彼女(?)は、僕の足元で視線を止め、気の毒そうに首……いや、耳の下の僧帽筋を膨らませると、優しい声で訪ねてきた。
「貴女も性奴隷としてここに攫われてきたの?」
「へっ?」




