71 薬屋の弟子 イヤミ貴族を吹っ飛ばす
僕は、その隙に、小鳥の姿のまま、監査役と銀髪猫背男の背後に回る。
ちょちょちょちょ、ぽて、パタ、ちょちょちょ!
そして、物陰で変身を解く。
お姫様から貰った魔道具の宝石のお陰で、衣類・装備品を纏った状態だ。
よし、よし。
僕は、そっと腰に付けていたポーチを外す。
「ロレンさん! 【加護】の発動、お願いしマス!!」
突然、背後から響いた僕の声に、銀髪猫背男と監査役が、ぎょっとした顔で振り返る。
貴族達が「瞬間移動?!」「バカな」「【瞬間移動】は、【時空魔法】でも高位のはず! 小人族のような亜人に扱える訳がない!」「何がどうなっている?」と口々に叫んでいる。
「んんん! 【変態紳士の加護】発動ッ!!」
僕の声に、ロレンさんがすかさず答えてくれた。
よし!
【鑑定】を使っている僕の瞳に加護が発動していることを証明する文字が映る。
だが、貴族連中は、当然だが、それがどんな効果なのか分からないらしい。
視線を僕から、ロレンさんへと移す。
その一瞬がトドメだッ!!
「リーリスさんっ!! 僕のポーチに【祝福】を使ってくだサイ! 全速力、真っ直ぐデス!!」
例え操られていても、【祝福】は操れない。
銀髪猫背男が、しまった、という顔で口を閉じさせようと、リーリスさん自身の左手を操り、その口を塞ぐ。
だが、その動きよりも、リーリスさんの【祝福】発動の方が早かった。
「【引き寄せ】レイニーのポーチッ!! もがっ……」
手のひらに乗せていたポーチがリーリスさんに向かい高速で【引き寄せ】られる。
僕と、リーリスさんの間には、あの監査役の左半身。
そして、僕のポーチの中には、エシル姐さんから貰った炸裂弾。
つどぉぉぉんッ!!
がしゃーーんッ!! どしゃッ!
「うぎゃぁッ!!!」「ぐわぁッ!!」「はぅんッ!!」
よしっ!
「あっ! 普通に動けるようになったっス!!」
リーリスさんが、自分の口を押えていた左手を離すと同時にパッと右手を開き、刀を取り落とす「かしゃん」という音が響いた。
僕は、吹っ飛ばされ、回転しながらテニス台のような椅子の上の銀髪猫背男に着弾した人肉弾もとい、監査役を見て、少しだけ留飲を下げる。
「な、何が起きたんじゃ!?」
すっかり目を回した【傀儡】使いの上で、眼を白黒させている監査役殿。
僕の手からリーリスさんに向かって引き寄せられたポーチの中にある炸裂弾が、監査役の左半身で炸裂。そして、吹っ飛ばされた巨体は、狙い違わず【傀儡】男にジャストミート。
仮に、真上から今の状況を見ることが出来たなら、ビリヤードの如く高速回転で吹っ飛ばされた監査役の肉の巨体が、銀髪猫背男に直撃した様子が瞳に映ったはずだ。
僕は、泡を吹いて困惑するおっさんの醜態にニヤリと黒い笑みを浮かべた。
流石に、この炸裂弾……ロレンさんみたいな、すさまじい耐性持ちでもないかぎり、人間に直撃させてしまったら、相手を即死させてしまう。
いくら相手が先に僕たちに危害を加えたからと言って、殺してしまえば、悪者はこっちだ。
僕は、再度【鑑定】にて、あの監査役のステイタスに燦然と輝く【変態紳士の加護】を見つめた。
あのおっさん、ロレンさんに足を舐められていて、ホント、ヨカッタネー。
ちなみに、ロレンさんは監査役に直撃した炸裂弾の威力を肩代わりし、ビクン、ビクンと痙攣しながら快感に悶えている。はいはい。通常営業、通常営業。
「何事ですか?!」
「何があった!?」
「あ、宰相さんにオズヌの兄貴!!」
だが、仮にも精霊樹の丘の中であの大音量を響かせた炸裂弾。
流石に、お姫様の耳にも入っちゃったみたいだ。
宰相さんとしてのローブ姿のイサラ姫が驚きを隠せない様子のアローアさんを引き連れ、城から飛び出してきたのと、キーウィ姿のオズヌさんが、ダッダ君を背に乗せて駆けて来たのがほぼ、同時だった。
「この人たち、皮膚死病の予防薬の利権を奪う為に、リーリスさんを【傀儡】で操って暴れさせようとしたんデスっ!!」
僕は、監査役を指差して叫ぶ。
「な、何を言う! この者達はワタシに危害を加えようとしたのじゃ!」
「左様ですぞ! この小人族、何やら【炸裂魔法】のようなものを放ち、ツルート様を吹き飛ばしたのですぞ!」「左様!」「何たる無礼! 不届き千万っ!!」
監査役の太鼓持ち貴族連中が口々に僕に対する非難をがなり立てる。
「僕、【炸裂魔法】なんて使えないデス! それに、仮に【炸裂魔法】で吹っ飛ばされたとしても、ツルート様に傷一つないじゃないデスか」
【変態紳士の加護】が発動していたから、傷なんて付くはずないんだけどね。
「あら~? ねぇ、宰相、どちらも嘘を言っていないみたい、ってどういうことかしら~?」
アローアさんが、くちびるに人差し指を当てながら、不思議そうに首をかしげる。
「はい、ヒメ様。おそらく、【嘘発見】に対する主張の仕方の問題でしょう。では、こう質問してはいかがです?『先に相手に危害を加えたのはどちらなのか』と」
エシル姐さんから聞いたんだけど、この【嘘発見】って、発言の僅かな機微で「嘘」と「本当」の判定がかなり曖昧になってしまう能力なのだ。
例えば、Aさんの暗殺計画を『知って』いるBさんに、【嘘発見】を使って、「Aの暗殺計画を知っているか?」と尋ねたとする。その時にBさんが「いいえ、知りません」と答えた場合は嘘を見抜くことができる。
しかし、Bさんが「そのような話、私は聞いたことがございません」と答えたとする。
Bさんは、暗殺計画を『知って』いたとしても、その情報を得た方法が手紙などの「文字情報」だった場合は、「聞いたことがない」のは、本当のため嘘をついていない、と判定されるのだ。
だから、例えリーリスさんが監査役の指示で操られていたとしても「リーリスさんが、危害をくわえようとした行動を取った」という点に嘘はないので、嘘をついていない、と判断されるのだろう。
本来、この能力を使いこなすには、事象を限定的かつ具体的に表現し、相手にイエス・ノーで回答させる位がちょうどいいはずなのだ。
ふん、だ! ちょっとした発言の差異で無罪放免になんてしてやるもんか!
「ハイ!! その危害の中に【傀儡】による操作も含めてくだサイ!」
僕の主張に対して、一部の貴族が顔色を変え、ゴキブリでも嚙み潰したように顔を歪める。
おそらくイサラ姫は、その一言で色々と察したのだろう。
普段の宰相さんの声よりもワントーン低いハッキリした声で
「本日、我がダリス領土、精霊樹の丘において、戦闘が確認されました。先に危害を加えたのはどちらですか? なお、危害の中には【祝福】による相手への干渉も含むものとします」
と、噛んで含めるように宣言した。
「……くだらん! その様な些末な事、このワタシが答える必要はない」
「必要のある・なしを判断するのはこちらです、監査役殿」
しかし、監査役のおっさんは、顔を背けて答えようともしない。
これでは、自白したも同然だ。
「……僕たちは、先に危害を加えようとはしていないデス」
「あら~……小人族のおちびちゃんは、嘘、吐いて、いないみたいね~」
アローアさんの軽蔑しきった視線が中央貴族連中に突き刺ささった。




