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68 薬屋の弟子 薬を納入する

 

 そんな事件はあったものの、それ以降兵士さんの見回りもぐっと増え、【増殖】工場の稼働は実に順調だ。


 今日は、【増殖】の作業を終え、僕とリーリスさん、そしてお手伝いにダッダ君を加えた3人で増やしたお薬の納品に向かっている。


「いやぁ、悪いっスね、ダッダ君」


 リーリスさんとダッダ君は、液体がつまった重い壺を背負っている。

 リーリスさんは、二人分を一人で背負っているようなものだから、流石に歩幅も慎重だ。

 一応、僕も小さい壺を背負っているけど、二人に比べると、微々たる量にすぎない。


「いえいえいえ、全然問題ありませんよ! カビの子……じゃなくて、レイニーさんやリーリスさんのおかげでこの不景気でも食っていけるんですから! それに、この量の薬を精霊樹の丘に運ぶのは一人では大変ですし!」


 ニコっと白い歯を見せるように笑いながら、ばちこーんと、ウインクをかましてくれるダッダ君。普段は茶色の髪と相まって、豆だぬきチックな愛嬌のある印象のくせにー。

 しかも「一人では大変って」僕は完全に戦力外だと言いたいのだな?

 別に良いけどね。だって、1000%おっしゃるとおりですし!!


「ありがとうございマス、助かりマス」


 出来上がった薬を、イサラ姫の所に届けるまで、本日の作業は終わらない。

 これが借金の返済に当たる訳だから、僕とリーリスさんが届けるのが契約の一環だ。


 ちなみに、今日はロレンさんとエシル姐さんのお二人もイサラ姫の所に、朝から召喚よばれているらしい。名目的には、正式に薬の開発に対する表彰をされるのだとか。


 ただ、エシル姐さんは一切参加する気がない。


 今朝も「ふん! なんでアタシが貴族の元へなんて行かなきゃならないのさ!! ここの領主さんは、貴族の中でもまともな口だけどね、それでも、表彰!? ハンッ! わざわざそんな事のために? アタシが行く訳ないだろ! あの変態を行かせるから、そっちで適当に対応しときな。大体、あの薬は、針で体内に直接注ぎ込んでやらないと効き目がないんだからね。その施術ができる者が現場から離れることに一切、利点はないよ。」と仰って薬屋のカウンターから出てくる気配が無かったのだ。


 まぁ、エシル姐さんが皮膚死病ヴァリオラの予防薬を一般に売り出す、と広告してから、連日玄関前には、薬屋が開く前から人が並んでいるから、当然といえば当然か。


「アンタ達は、薬を増やしたら、さっさと納品するんだよ。こっちに薬が回って来るまで少し時間がかかるんだからね」


 そんな朝のやり取りを思い出し、本日【増殖】した分の薬壺を背負いながら、えっちら、おっちら、精霊樹の丘の階段を登る。


 増やした薬はここに一旦集められ、イサラ姫の指示である程度以上の技能を持っている薬師、医師、治療院などの医療施設や神殿などの総合福祉施設に配られる。


 その中でも、評判の良い所に優先的に薬が回されているようなのだ。

 もちろん、エシル姐さんの『ソフィの薬屋』は薬師の中でもトップクラスの評判なので、かなりの量の薬が支給されている。


 ……そもそも、最初に薬を作り出したのがエシル姐さんなんだから、当然といえば当然だよな。


 ちなみに、ロレンさんは、というと、【増殖】によるお薬の増産が軌道に乗ってから、直接、薬を搾り取る作業は停止している。


 結果として、暇を持て余しているらしい。


 薬を作る作業を止めた理由は簡単。

 ロレンさんの皮膚死病ヴァリオラ耐性が上がり過ぎた為だ。


 この変態紳士、もはや直接体内にウイルスをたんまりぶち込まれても、皮膚にちょっとした赤みすら発生しない上に、例えウィルスを保持していようとも、他者へ感染させる力すら打ち消してしまう程の耐性を獲得しているというのだから、凄まじい。

 

 そんな訳で、今日は納品ついでにロレンさんと合流して帰る予定である。


 すでに税金と返済分に当たる3000人分は納め終わっているので、後は納めれば納める程、きちんと利益が出ている。

 元金の返済分とか、エシル姐さんやロレンさんの取り分とか、諸々経費を差し引くと、僕とリーリスさんの分は薬一人分につき大銅貨1枚、つまり500円程度なのだが、持ち込む量が量だ。


 すごいのよ?

 日給100万円相当の利益な日もあるのよ? 

 元の世界で、コンビニでアルバイトしたことがあるけど、短大生って意外と忙しくて土日祝日くらいしか出勤できないから、月給で3万円くらいしか稼げなかったのに……!

 気分は、ちょっとした富豪ですよ!! 大富豪!!!

 ……街の閉鎖中で、市が立たないから使うトコロがないけどね……


 イサラ姫の城に到着すると、どうやら、ロレンさんの謁見が終わったらしい。

 門の所でオズヌさんと話をしている紳士の姿が目に飛び込んできた。


「あ、オズヌさん、今日はこっちの警備なんデスね~」


「よ、レイニー」


 今日は白い騎士服姿のオズヌさんが、漆黒の義手を滑らかに振り上げる。


「むむむ?! これは、レイニー殿ではないですかな? リーリス殿は……あ、あの坂の下ですな」


 ロレンさんも僕たちに気づいたらしい。

 ロレンさんは、しっかりと衣類を着用し、かなり変態のグレードを下げた状態である。

 

 状態では、ある……の、だが……


「ロレンさんっ!! どうしてきちんと衣類を着用しているにもかかわらず、股間に【倫理魔法】モザイクを発動させてるんデスかッ!!」


「んんん、これですと、ここのベルトに挟んだベージュのハンカチが素肌を演出しているように見えませんかな?」


 ひょいと、股間の所に掛けられていたベージュのハンカチを持ち上げるロレンさん。

 全裸モザイクよりもいかがわしいから止めてください!!


 いや、あの顔面モザイクをお願いして以降、ロレンさんのヤツめ……モザイクの扱い方を工夫するようになっちゃったんだよねぇ……

 今までは、全裸の時のみ、股間一辺倒だったのに……

 あの時は助かったけど、余計な知恵をつけさせてしまった。


 嗚呼ッ!! オズヌさんの、この諦めきった眼差し!

 

 この男、上半身だけ見れば、つややかな黒髪が風に揺れ、黒と緑のオッドアイ……

 「爽やかなイケメン」などという、ありえない形容詞が醸し出されていると言うのにッ!!


「あれ~? ロレンさん、謁見はもう終わったんスか?」


 少し遅れていたリーリスさんが、細かい事は気にしない笑顔で変態紳士を労う。


「んんん! たいした問題も無く終了しましたぞ!!」


 本当に問題無く終了したのかなぁ……?


 ちらり、と隣のオズヌさんを見ると、昭和の大阪道頓堀のような目をしてるような気がするんですが……?


「あー……まぁ、あそこで『私の足を舐めろ』と言い出したのは監査役殿自身だしな。自業自得……じゃなくて、問題ないんじゃないか?」


「ほどよい酸味と油の乗り……悪くなかったですぞ!」


 あ、ハイ。通常営業だった訳ですね。

 ……ロレンさんの称号にうっかり【妖怪・垢舐あかなめ】って付いちゃったりしないのかなァ……

 妙な心配が僕の頭をよぎった。


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