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62 薬屋の弟子 スカウトされる


 そんなやり取りをしている間に、アローアさんがいくつかの服と魔石を準備する。


 だが、小人族の服とはいえ、ハーフリンクよりも、さらに小柄な僕のサイズの服は一つしかない。

 

 少し露出度の高いハイネックのワンピース……背中側が大きく開いていて、一時期ネットで『童貞を殺す服』として有名になったデザインに似ているが、フードも付いているし、元に戻った途端、全裸な現在より、ずっとマシである。


「そのデザインは、空を飛べる鳥系の変幻種や天使族に人気なんです。半変化で翼だけは出しておきたいって時に便利ですよ」


 なるほど、実用性重視のデザインだったんだね。

 ちなみに、収納の魔石は、小さな青色のサファイアみたいな石の付いた足環を選んだ。

 僕が変身している小鳥の状態で右足首に付けられる中で、これが一番綺麗だったんだもん。


「えっと……じゃあ、コレとコレで……」


「では、此方で着替えてみてくださいね」


 いつの間にやら、僕一人くらいなら、着替えられそうな布の衝立ついたてが準備万端で出番を待っている。


 アローアさん、手際良いな!


 早速、僕は人型にもどり、着替えを済ませる。


「お待たせしました。こちらの姿では、お初に御目文字おめもじ、つかまつりマス。黒小鳥ブラックロビン族のレイニー、デス」


 ぺこりー


 そう言って、僕が衝立ついたての脇から出てお辞儀をすると、ガタリ! と、椅子のずれる音が響いた。


「かッ……!!」


 か?

 ふと、顔を上げれば、イサラ姫が立ち上がり、ぷるぷると震えている。

 あれ? ど、どうしたんだろう?


「かっわいいいいいいいいいいいいいッッ!!! ちっちゃ~い!! ね、ね、ね?! ちょっと抱っこして良い?!」


 瞳をさっきの十倍キッラキラさせて、僕の側へ駆け寄るイサラ姫。


「えっ?! あ、は、ハイ……」


 その勢いに気圧されて、思わず反射的に頷く。


「ありがとう! うわぁ、細っ! 軽ッ!! 前に一度、冒険者ギルドで凄く小さい小人族さんを見たことがあるけれど、その時は、他のメンバーに止められちゃって、お話出来なかったのよ~……あぁん、髪の毛サラサラ~、ショートカットも良いわねぇ~。はぅぅ、かわいい~」


 イサラ姫は、優しい指使いで、何度も何度も僕の頭を撫でる。

 ……いや、別に、撫でられてる分には、普通に気持ちいいんだけど……

 さっきまでの凛としたお姫様の気品はどこへやら。でれっでれに蕩けた表現で、至福の笑みを浮かべている。

 あ……この表情……これは、アレだ。

 猫好きの友人が、生後1ヶ月位のおとなしい仔猫を、膝に乗っけて撫で回しながら「我が人生に一片の悔い無しッ!」って呟いていた時と同じ顔だ。

 まさが、自分が猫の目線でこの顔を見る事になるとは……


「イサラ様は、無類の小さいモノや可愛いモノ好きでして……」


 アローアさんが、呆れた様子……というより諦めた様子でリーリスさんにお詫びを入れている。


「にゃはははは! オズヌの兄貴も、無類の小さいモノ、可愛いモノ好きっス!」


 あ、そうだ。オズヌさんの名前で思い出した。ついでだし、あのおカビ様のお礼も伝えておこう。


「あの、その節は、オズヌさん経由で僕の探していたおカビ様を譲っていただき、ありがとうございマシた」


 その言葉に、一瞬、イサラ姫は目を丸くする。


「えっ?! 貴女、まさか、カビの申し子?」


 はっはっは!

 有りましたねェ! そんな二つ名!!


 やめてあげて?! 僕からカビが生えているみたいじゃん!? 今はもう、おカビ様は求めていないから! 以前いただいたおカビ様がご健在でいらっしゃいますから!!


「確か……オズヌから聞いた話しだと、あのカビからペニシリンって名前の新薬を開発したって……貴女だったの?」


「あ、ハイ、そうデス」


「凄いわ!! ねぇ、貴女……私のものにならない?」


「「ファッ?!」」


 突然の爆弾発言に、僕だけでなく、リーリスさんも一緒に驚きのユニゾンを発してしまった。


「そうよ! 名案だわ! だって、こんなに小さくて、可愛くて、頭の回転だって良くて、新薬も作れて、小鳥にも変身できるなんて、私の侍女としても最高よ!」


 えええええええ!?

 待って!? 頭の回転については大部分がエシル姐さんの受け売りだよ!?


「い、嫌デス、ご遠慮いたしマスっ!!」


 宝石のようなイサラ姫の瞳が、刹那、捕食者のような輝きを放った気がして、僕は思わず小鳥に変身すると、お姫様の腕からぱたたっと飛び降りた。


「あぁんっ!」


 イサラ姫の残念そうな声を置き去りにしてちょちょちょちょちょ、とリーリスさんの足元に駆け寄る。

 あんな、あからさまな嫌味飛び交う貴族社会で生活なんて、考えただけで僕の繊細な胃壁ちゃんが血まみれになっちゃうわ!


 ぽふゅ、と元の姿に戻ると、貰ったばかりの収納の魔石からしゅるるん、と衣類が僕の身体に着用される。

 おお……! 人としての尊厳が自動装着!!

 いつも全裸だったから、感動するなぁ!


 そんな僕をリーリスさんが抱き上げ、ちょこん、と膝の上に座らせてくれた。

 思わず、ヒシっとリーリスさんの上着にすがりつく。

 やっぱり、ここが一番落ち着くわ……


 イサラ姫は、僕たちの様子に、一瞬、おやつのケーキを取り上げられた子供のような顔を覗かせたものの、直ぐに気を取り直したらしく、


「もちろん、エルフのリーリスさん、だったかしら? 貴方も一緒で良いのよ! 親衛隊として、私のものにならない?」


と、勧誘を続ける。


「にゃはは~、レイニーが嫌だって言ってるし、俺、姐さんの弟子でもあるから、勝手に親衛隊には入れないっスよ~」


「姐さん?」


「あ、姐さんは、エシル・ソフィって名前っス」


「エシル・ソフィ……まさか、炸裂薬や爆発薬の作成に長け『破壊神の右目から生まれた薬師』として名高く『暴虐のエシル・ソフィ』とも呼ばれている、あのエシル様ですか?」


 アローアさんが、えびせんが海老に戻って海を泳ぎ出したのを目の当たりにしたような呆気にとられた顔でリーリスさんと僕を交互に見つめる。

 おっと~?! ここにもエシル姐さんの二つ名が轟いちゃってるよ!


「にゃはははは! そうっス、そのエシル・ソフィっス」


 それを確認したお姫様が、ガックリと肩を落とす。


「そうなのね……も~、エシル様には、私だけじゃなくて、私の父の代でも『ダリス専属薬師』になって欲しいって何度もお願いしているんだけど……」


 何でも、エシル姐さんは、いろんな所から来るスカウトをことごとく断る事でも有名なのだとか。

 あの薬屋を『夫が帰って来るまで守り続ける』と、行方不明の旦那様と約束しているため、決して貴族に仕えようとはしないらしい。


 結局、僕たちと、融資に関する打ち合わせは、それで一区切りついたらしく、アローアさんが必要書類を準備し、リーリスさんが、サインを入れる。


 その間、お姫様は、微妙に僕たちを諦めきれないらしく「エシル様の旦那様を探して、全員まとめて引き抜く方が早いのかしら?」と、ぶつぶつ独り言を漏らしていた。

 めげないなー……この人。


 アグレッシブな行動力とへこたれないメンタル!!

 ……やっぱり、オズヌさんから聞いていたお姫様のイメージどおりだったわ……




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