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57 薬屋の弟子 融資の申し込みに行く


 ……そういう訳で、メインの交渉はリーリスさんがすることになった。

 

 あ、僕? もちろん付いて行きますとも!

 小鳥の姿で。


 だって、何度か練習した結果、リーリスさんに、オズヌさんから聞いた、ややこしい交渉の作法を完璧に覚えて貰うより、作法を覚えた僕が小鳥の姿でリーリスさんの肩に留まり、こっそり耳打ちした方が、はるかに、やりとりがスムーズだったんだもん。


 ちなみに、エシル姐さんにも同じ話をしたら何故か大爆笑されたうえに、大賛成されました。


「ははは! そりゃいいね! アタシの炸裂薬の威力で、ようやく針を刺せるような変態から薬を増やすよりも効果的さね! 折角だから、アタシの旦那の服を使いな、リーリス。あんたの一張羅より、よっぽどマシだよ。」


 ……との事。

 そっか、炸裂弾で……針、刺してるんだ……お、お疲れ様デス……


 しかし、融資を出してくれるお姫様って一体どんな人なんだろう?

 一応、面識があるハズなんだよな~……

 

 とは言っても、以前、ペニシリン作りの際、冒険者ギルドでトラブルが有った時に、遠くから見られていただけ……らしいので、僕は全ッ然、お姫様の姿……記憶にないんだけどね。

 

 でも、オズヌさん経由で貰った例のおカビ様。

 アレのお陰で今の僕があると言っても過言ではないのだ。

 

 それでも、あの時点でカビを求めて東奔西走している奇妙な子供に対して、本当にカビた果物を送り付けるなんて、かなり好奇心旺盛で、ちょっと変わったお姫様だよね?

 僕にとっては、ある意味ガチで幸運の女神様だけど。

 また、オズヌさんの口ぶりだと、結構お転婆っぽくて、お茶目な印象だ。

 それに、このダリスの街のトップって事は、かなり獣人や亜人に対して好意的な人なんだろう。それに、平民に対して融資を行うって……ファンタジーな世界にしては、かなり資本主義が浸透してて、面白いよね?

 

 いやー、だって、貴族って……何か、一方的に平民ぼくたちから搾取してるだけの人達かと思ってたもん。

 まぁ、僕が知っている他の貴族なんて、ブラックロビン族を実験奴隷にしていた、あの町の貴族くらいだから、サンプルが悪すぎただけかもしれないけど。


 でも、本物のお姫様なんて、初めて見るからちょっと楽しみだ。



 翌日、しっかり着飾ったリーリスさんは、まるで、観賞用のモデルさんを、さらにキラキラに盛り加工したみたいな超絶イケメンエルフに仕上がっていました。


 髪の色は本人の希望で、いつものミルクティーっぽい茶色のままだけど、それでも、何度も丁寧に櫛を入れ、さらっさらのつやっつやに整えられている。

 まるで、キューティクルさんが、日曜お昼の選挙カー並に存在感を主張しているみたいだ。


 女性だったら傾国のなんとやらだなぁ……

 しかも、少し不安気でアンニュイな表情がまた、気の毒なくらい男っぷりを上げている。


 わー、すごーい……

 背景に花と星がモリモリに盛られてる幻影が見えるわー……眩しー……


 思わず、羞花閉月しゅうかへいげつという四字熟語が、そのままヒトのカタチを取ったら、こうなるだろう生き物を見つめてしまった。遠い目で。

 

 エシル姐さんの旦那さんの衣装は、白っぽいアオザイみたいな感じの深いスリットの入った上着に、腰までの長さの短い深緑色のマントを羽織り、腰には皮のベルトで薬入れを下げている。


 緑と黄色の宝石の付いたオシャレデザインの薬入れとベルトがポポムゥさんからのレンタル品だ。うーん、相変わらずいい仕事してらっしゃる。

 

 少し見慣れない幾何学文様がゴテゴテとしてるんだけど、今の神秘的な雰囲気のリーリスさんにはとてもよく似合っている。


 天然美人さんって……ちょこ~っと髪と服を整えただけで、この仕上がりだよ!?

 就職活動の為に似合わないリクルートスーツで、慣れないメイクを数時間かけて頑張っても残念な仕上がりにしかならなかった地味顔前世の僕からすると……


 軽くナニカの波動が目覚めそうデース。


 無駄にバクッバクッと、僕の中でうるさい音をたてる心臓さんをなだめる。

 落ち着け、深呼吸、深呼吸……スゥー、ハァ~、スゥー、ハァ~。

 こっちの僕はそこそこ可愛くなっているはずだ。……お胸の膨らみだって成長中だし。

 

「じゃ、レイニー、よろしくお願いするっス」


「えっ、あっ、はい!」

 

 僕が必死に落ち着こうとしていると、リーリスさんがいつもの声で右手を僕に差し伸べる。


「レイニー?」


「な、なんでもないデス、ダイジョブ、デス! 頑張りマス、デスよ!」


 僕は、そう答えて、さっさと小鳥に変身すると、リーリスさんの右手にびょんと、飛び上がる。

 そのまま、すっと平行移動した右手から、ちょこん、と左肩の留め具に乗せて貰った。

 ちょうど、マントの留め具が肩を通っているので、居場所としては、小鳥のお尻がちょこん、と乗っかり中々座り心地が良い。


 ココから先、精霊樹の丘に着いたら、リーリスさんは僕の指示どおりに動いてくれることになっている。


 さー、頑張ってお金を借りるぞ~!


 到着した精霊樹の丘は、僕が捕らえられていた所と比べると、明かに階段の整備が良かった。

 ところどころに、ウロコの生えたライオン? とか……ウサギのように耳の長いキリンみたいな生き物がデザインされた石造りの門が建設されている。

 まるで、スリランカの世界遺産『古代都市シギリア』をベースに、アントニ・ガウディの曲線のデザインを足して、そこを、さらに雑多な生活感で縁取ったような印象だ。


 この階段を上り切った所が亜人の街・ダリスの領主、例のお姫様の居城だ。

 

 ここの兵士さんは、人間の姿の方と、首から上がメンダコのような方だ。

 正直、僕はちょっとメンダコな兵士さんにはビックリしたんだけど、対応は至って紳士的だし、リーリスさんもごく普通に受け答えしている。

 獣人けものびとって本当に色々な種族がいらっしゃるのね。

 ……世界は広いわ……


 僕たちがオズヌさんからの紹介だと伝えると、手にしていた来訪予定者リストに名前が記されていて、番号札を受け取ると、スムーズに宮殿の応接室っぽいところに案内された。


 先客は、整った身なりの髭のおじさんだ。

 ふっくらと脂肪の乗った体つきと服装の豪華さから、そこそこ裕福な印象を受ける。

 ただ、お姫様への直訴内容を粗相無く伝えようと、必死なのだろう。

 額の汗をふきふき、小さなメモと天井を交互に見ながらブツブツとなにやら練習を繰り返している様子に、とてもではないが、情報交換の出来る隙はない。


 そんなおじさんを後目に、武器や危険物の持ち込みがないか、結構しっかりボディ・チェックをするメンダコさん。

 今回、危険なものは持ち込んでいない。


 安心した様に頷くメンダコさんが説明するには、平民からの直訴は、順番制で、手渡された番号を呼ばれたら、この応接室から、カーテンを開けてお姫様のいる広間に入ることができるらしい。

 僕たちの順番は6番だ。


 なお、部屋の中は攻撃系の【祝福】の威力が、極端に削がれる、とのこと。

 一種の結界が張られているらしく、仮にその手の魔法を使っても、ほとんど発動しないようなのだ。ただ、この部屋で攻撃魔法を使うと、問答無用で牢獄行き。


 ちなみに、攻撃性のない【祝福】は普通に使えるらしい。

 確か、お姫様の【祝福】が【回復魔法】だったっけ?

 そりゃ、そっちまで使えなくなっちゃったら困るもんね。

 リーリスさんの【引き寄せ】は攻撃魔法じゃないし、僕の【鑑定】はさらに攻撃性がないから、僕たちには大丈夫だ。

 

 ちょうど、僕たちがメンダコさんから、簡単な説明を受け終わった頃に、2個前の順番の方が終わったらしく、前に待っていた髭のおじさんが呼ばれて中に入っていく。


 直訴が終わった後の帰り道は別ルートらしく、この部屋に会話が終わった人が戻って来る気配はない。


 説明が終わったメンダコさんは持ち場に戻っちゃったし……僕たちは何となく、備え付けの椅子に座って待っていると、前に入って行った髭のおじさんの相談内容が耳に飛び込んで来た。



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