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49 薬屋の弟子 サクラ竜を見つける


 おはよーございまーす!

 ん~、良く寝た。

 今朝は昨日のカエル肉の燻製にしていたヤツを再度炙って、サツマイモみたいなポネノと一緒にいただいた。


 今日はサクラ竜がいる、というラーラの森へ突入の予定だ。


「うーん、ココから先は少し道が悪いんスよね~」


 確かに。今までは大きな木々の茂る森林地帯だったのだが、この先は、一歩ごとに水が滲む湿原へと足元が変化している。

 可能な限り足場が沈まない道を選んでいるらしいのだが、それでもくるぶしくらいの位置まで水が来る。

 それより僕が閉口したのは、地面が濡れた草の層になってるみたいで、足を抜く時に義足が頻繁に引っかかってしまう事だ。

 ぐぬぬ……歩きづらいでござる…… 

 これじゃ、リーリスさんやロレンさんの速度から遅れちゃう……!

 あ! ちょうど今、リーリスさん達が立ち止まってキョロキョロしてる!!

 いそげ、いそげ。


「……ハァハァ、す、スイマセン、遅れ、ました……」


「しっ! 二人とも、動かないで欲しいっス!」


 お耳をぴくぴくさせて、辺りを警戒しているリーリスさん。

 な、何だろう? 近くに危険なモンスターがいるのかな?

 そう思うと、風のせいで、そよよ、と揺れる草の動きでさえも、何かの生き物の気配に感じてしまう。

 と、リーリスさんが人差し指を唇に当てたまま、ふわりと微笑む。


(サクラ竜の群れが、あっちにいるっス!)


((おお!?))


 あああ……でも、僕の身長だと草しか見えないっ!

 リーリスさんの指さす方向を眺めても、目に飛び込んでくるのは湿原特有の背の高い植物ばかりだ。

 耳をすませても、生き物の気配は聞こえてこない。

 ……むむむ。

 とっさに両手を広げ、リーリスさんを見上げてしまった。


 だが、僕と目が合った瞬間、リーリスさんは吹き出しそうな勢いで破顔する。ロレンさんも、なるほど、とばかりに頷いた。


(レイニー殿、そんなに抱き上げて欲しいのですかな?)


 え?! 僕、そんなに抱っこして欲しそうな顔してた?


(んんん、よろしければ、ワタクシめが抱き上げて差し上げましょうかな?)


(あ、それは結構デス、止めてください)


 そんなやりとりに、リーリスさんは笑いを噛み殺しながら、ひょいっと僕を抱き上げ、肩車じゃないけど……右肩にちょこん、と座らせてくれた。

 おおお! 湿原の向こうが見える!

 ありがとうございます!! リーリスさん!!


 指差す方向をじっと眺めると、はるか遠くに、ぽつ、ぽつ、とゆったり動く赤茶色の塊。

 

(あれデスか? あの、赤っぽい……) 


(そうっスよ。こっそり近づいてみるっス!)


 リーリスさんとロレンさんはコソコソと湿原を大きく回ってサクラ竜の群れに近づく。

 この辺りは足元もしっかりしてきて、湿地帯というより草原の様相が強くなっている。


 近くで見たサクラ竜は、名前の由来となったラーラの花……なんだろうなぁ……ピンク色の5枚の花弁を持つ桜の花に似た樹のような角がにょき、にょき、と生えていて結構かわいい。

 竜って言われてたから爬虫類っぽいかと思いきや。

 足元も蹄だし、鳴き声も「ぶもー」とか「も~」だし、草をはみはみ、のんびりまったりしている様子は、完全にウシである。僕が最も理解しやすく伝えるならば「ツノに桜の花が咲いた赤牛」だ。


 確かに。これならミルクが搾れそうだわ……

 群れの中央部を見れば、小さな赤べこ……もとい、仔サクラ竜がお母さんのお乳を飲んでいる。

 元の世界と違うのは、その花のような角と、雄はアメリカバイソンみたいに頭から胸、前足部分にかけて、長い毛が生えている事だろうか。

 でも、角のない雌とか、子供は、ほぼ完全に牛さんです。ありがとうございます。


 えーと、この群れの中に『竜種痘』に罹っている個体は……?

 

 僕は、【鑑定】を発動させる。


 【鑑定】

 種族:サクラ竜

 状態:異常無し


 種族:サクラ竜

 状態:異常無し 


 種族:サクラ竜

 状態:異常無し


 ……視界に飛び込んで来るのは、『異常無し』の鑑定結果。

 20~30頭程度の群れのようだが、どのサクラ竜も、健康そのもの。

 

(うーん……この群れに『竜種痘』のサクラ竜は居ないみたいデスね)


(そっか、じゃ、次の群れを探すっス。この辺りから先は湿原からスタートした川が複数流れてる草原地帯に変わるし、この川沿いに行けば、数日で別の群れを見つけられるっスよ)


(川沿いは大型の草食動物が必ず立ち寄りますからな)


(それに、実は、この川沿いに2、3日くらい進んだ所の崖で、岩塩が出る所があるんスよ。そこは本当に色んな生き物の群れが来るっスよ)


 僕たちがその場を離れようとした時だった。


(!? ま、待ってくだサイ!)


 草の影から急いだ様子で群れに近づく2頭のサクラ竜。

 恐らく親子なのだろう。

 乳の張った大きな個体が、よてよて歩く小さな個体を気遣っている。

 

 その2頭に燦然と輝く『竜種痘』の文字!!


(い、居ました!! あの、一番奥の2頭!! 『竜種痘』デス!)


(!!)


「ぶもっ!!」


 しかし、急いで近づいて来た2頭の内、母親が小さく鋭く一声上げた瞬間、まったりとした空気が流れていた群れの雰囲気が一気に変わる。

 『竜種痘』の仔も含め、体の小さい仔サクラ竜が群れの中央部に固まり、その周りを母竜らしき乳の張った個体が取り囲む。

 さらに、その母竜を守るように、もう一回り体が大きく、角に立派な花が咲いている父竜や若いオス達が興奮した様子で、守りを固める。


「ぶもっ、ぶもっ、も~」「もぅ!」「モォォォ!」


 そして、オス達の鳴き声が大きくなるのと同時に、花が咲いているようだった角の形が、黒光りする刀剣のような姿へと形を変える。


(……何か、来るっス……)


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