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43 薬屋の弟子 パンデミックの予感に戦慄する


 ――皮膚死病ヴァリオラで死んでいるヤツが居た。


 門番のらしきマスク姿のタヌキに似た獣人の男性が、街道の先を指差し、叫ぶ声が響き渡った。

 ざわり! あたりに緊張が走る。

 どうやら、ウォーレンから追い出された人の中に感染者がおり、その人がダリスに到着する前に力尽きたらしい。


「誰か! 炎魔法の得意なヤツを呼べ!! それ以外は近寄るな! マスクの着用を忘れるな!」


 オズヌさんが指示を飛ばす。

 そんなオズヌさんに、僕は思わず口を挿んでしまった。


「オズヌさん! 遺体を燃やす前に、遠くから、ちょっとだけ、その、皮膚死病ヴァリオラの人を【鑑定】させて貰っても良いデスか?」


「ん!? レイニー、お前さん、何を言ってるんだ? 子供が近寄ったら危ないだろう?!」


「でも、オズヌさん、その病気の原因とか、決定的な予防方法が【鑑定】で分かれば、エシル姐さんが特効薬を作れるかもしれないデスよ?」


 それに、その情報を持ってすれば街の中に入れてもらえないかなー……なんて下心もあったりして。

 僕の言葉に、オズヌさんは少し考え込む。

 だが、迷う時間はそれほど長くは無かったようだ。


「……分かった。二人とも、俺の背に乗れ。」


「良いんデスか?」


「……出来るなら早く薬を手に入れて町の閉鎖を解除したい。港町であるダリスが閉じてしまうという事は、物資の流通が途絶える事を意味するんだ。ここより山側の街は病気だけでなく、物流面でも悲惨な事になりかねない。長引けばダリスそのものが反感を買いかねん。この際、解決の手掛かりになりそうなものは何でも利用させてもらう。それが例えお前たち二人であってもだ」


 オズヌさんはもふもふの身体をゆっくりと膨らませ、つぶらな瞳でじっとリーリスさんと僕を見つめる。

 その様子は、明かに街を守る騎士の声だ。

 ……ふこふこでかわいいけど。

 この背に乗せて貰えると思うとちょっとテンション上がるな。


「もちろん! それなら、俺も協力するっス!」


「だが、言っておくが、危険だから遠くからだぞ?」

 

 それを聞くと、リーリスさんは、慣れた足つきでひょいとオズヌさんの背に跨る。

 僕も杖を片手によじ登ろうとしたけど、すかさずリーリスさんが、モフモフのオズヌさんの背に座らせてくれた。


 おー……毛豊奇異鳥モフキーウィの名にふさわしいもふもふ感。

 背中の毛は鳥の羽より髪の毛みたいなシュルっとした感じなんだけど、その奥の羽毛はぬくぬく・ふわわっとしている。

 テレビゲームとかで鳥に乗って走るRPGがあったけど、あれのリアルを体験できるとは思わなかった。

 しかも、キーウィだからね! ゲームよりもっとまるまるもっふりしててカワイイからね!!


「別に痛くはないから、羽にしっかり捕まっててくれ。」


 そう言ってオズヌさんはトット、トットと走り出す。

 しばらく進むと、街道をそれた脇に人がうつ伏せに倒れているのが確認できた。

 まだ、亡くなって間もないらしい。性別や年齢は……大人、という事はわかるが、この位置からだと顔は見えないので、判断できない。


 ……夏服のすそから覗く手足が、ゾッとするような豆粒大の湿疹に覆われている。中には、まるでカビたようにどす黒く染まった発疹もあり、青白い素肌を不吉な黒が浸食している。

 それらは、膿んでかさぶたとなっているものも多い。

 さらに特徴的なのは、その発疹……手のひら・足の裏と言ったかなり皮膚の分厚い部位にも密集している事だ。

 つーか、この人……靴はどうしたんだ? 発狂して脱ぎ捨てちゃったんだろうか?

 よく見ると、遺体のすぐ近くに、脱ぎ捨てられたらしい靴が片方だけ転がっているし、荷物らしき物も放置されている。


「ここで降りてくれ。お前さん達二人は、それ以上は進むな。」


「わかりマシた。」


 オズヌさんの指示で、倒れ伏す人から10mくらい離れた所で停止を余儀なくされる。

 

「……レイニー、どうっスか?」

 

 いけるかな?

 なるべく病原体が解りますように! と思いを込めて呟いた。 


「見えマスように……!」


 【鑑定】

 状態:皮膚死病ヴァリオラ、別名:天然痘・魔毒により死亡した遺体。


 ぶっ!!!!

 て、て、てんねんとうッ!?


 こ、これって、元の世界で人類が唯一根絶した伝染病として例の漫画のネタにもなっていたから知っている……知ってるけどぉ!!

 ちょ、マジか!?

 リアルガチにヤバイ奴じゃん!!

 感染経路が限られる梅毒なんて全然、メじゃないよ!

 

 天然痘……この病は、感染から発症まで約12~17日程度の潜伏期間があり、発症すると、健康で体力のある成人男性であっても、10人の内3人は死亡する。

 10人に3人だからね!? インフルエンザなんて目じゃない致死率だよ!! 感染力はインフルエンザ級なのに!!!

 なお、子供や老人の致死率はその比ではない。

 そして、感染してしまった際に完治できるかどうかは運と、その人の体力任せ。

 発病すると、高熱と同時に全身に発疹はっしん丘疹きゅうしん疱疹ほうしん膿疱のうほうなどの皮膚疾患がビッシリと現れる。

 それが膿んでは潰れ、かさぶたとなる。

 さらに恐るべきは、例え、無事治癒したとしても、かさぶたが取れると、全身デコボコになり、かなり醜い外見に変わるのだ。

 

「どうっスか?」


「わ、わかりマシた……!」


 でも、この病には特効薬……否、予防薬である『ワクチン』を作り出さなければならない。

 元の世界だと、天然痘ウィルスに感染した牛が『牛痘』という病になり、その『牛痘』に事前に罹っていた人は天然痘の抗体を持つことが出来たのだ。


 『牛痘』とは天然痘によく似た病ではあるが、天然痘ほど重篤な症状は出ず、後遺症も残らない。

 いうなれば天然痘ウィルスの毒性を弱めた病にほかならない。

 そのため、事前にこの『牛痘ウィルス』から作った『予防薬ワクチン』を接種しておくことで天然痘に対して免疫を獲得するのだ。


 となると、この世界で『牛痘』に相当する病とその動物を探し出さなければならない。


「デスけど……あの、この皮膚死病ヴァリオラに罹る事はあっても、それほど重篤な症状が出ずに回復する生き物っていますか? 僕の知っている動物だとウシが代表格なんデスが……」


 でもなー、こっちの世界で牛って見てないんだよな~……

 牛乳も見かけないし。

 この世界で、僕が一番乳脂肪分を感じたのがリーリスさんの髪の色だもんな。

 ふわりと風になびく、柔らかなミルクティー色の髪をチラリと眺める。


「ウシ……っスか?」


 あー……リーリスさんの顔に「知らない」って書いてある。


「えっと……ウシは、肉用だったり、お乳を取る為だったり、農耕の手伝いのために飼育されたりしてている草食動物で……そのお乳を加工してチーズとかバターとかぁぁあああああッ!!!」


 と、口にした所で思い出したァァァ!!!

 あの、焼きキーノに乗っけて食べたバター!!!

 あれは、完全にミルクの風味がしっかりした、元の世界のバターにそっくりな味だった!!


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