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41 薬屋の弟子 変態紳士の事情を聞く


 ロレンさんは、ここ、ダリスから南方向に街道を進んだ『フォーレン』という街が生活基盤の変態紳士だ。

 元々は『ソロルジア』って街のご出身らしいんだけど……まぁ、この特殊性癖だから、ね。

 ……色々、有ったんだろう。……詳しく聞きたくは、ない。

 

 フォーレンでは、いつもどおり、大通りに全裸で四つん這いになり、道行く人々の冷たい視線で快感を貪るのが、日々のルーチンだそうだ。

 そうすると、時にはご褒美という名の鉄拳や蹴り(プレイ)をしてくれる人がいるらしい。


 ……うん。なかなか、寛容な街ですね。それ、日本でやったら猥褻物陳列罪でお縄だよ。

 

 その日も日課の羞恥プレイを楽しんでいると、かなり殺気立った方々から大量のご褒美をいただきホクホクだったそうだ。

 しかし、問題が起きる。

 いや、それ以前にロレンさんの日常の方が大問題だという現実はとりあえず置いておく。

 

 実は、この男達、とある病に侵されていたようで、その腹いせ・八つ当たりでロレンさんにご褒美を与えていたらしい。

 ロレンさんも、彼の家にマスク重装備の騎士団が押し入って来て初めて知ったそうな。

 

 その病気、通称『腐死の貴公子』と呼ばれている。

 理由は、その病の高い感染力と殺傷力にある。例え貴族であっても、この病を発症すると死んでしまう事が多い為、こんな通称が付けられたそうだ。

 正式名称は『皮膚死病ヴァリオラ

  

 そのため、この病が街で発生した時の対処方法は、かなり中世的なものとなる。

 ズバリ、感染者および、感染が疑われる人を全員、追放もしくは隔離・幽閉するのだ。

 本来は、隔離・幽閉の方が優先順位は上なのだが、すでに隔離施設がパンパンなんですって。


「て事は……ロレンさんは、ウォーレンから追放されちゃった、って訳っスか?」


「左様ですぞ! ですが、ワタクシ、『皮膚死病ヴァリオラ』を発症している訳ではないのですぞ!!」


 どれどれ……?

 その言葉に、再度、ロレンさんを【鑑定】する。

 今度は、『病気に感染しているのかどうかを知りたい!』と念じながらの発動だ。


【鑑定】

氏名:ロレン・ツォルク

称号:変態紳士

状態:異常なし


 うん。確かに。僕の【鑑定】でも、感染を示す状態異常は見当たらない。

 しっかし、この人……あの紳士的な奇行の数々はステイタス異常には当たらないって事なのか……

 異常とは? と、ある種の哲学的なものを問いただしたくなるなァ……

 

「それなのに疑わしいと言うだけで、この『追放の証』を押されてしまったのですぞ!」


 そう力説しながらロレンさんは、服をめくり、両乳首に奇麗に押して貰ってある印影をさらけ出す。

 元の世界だと、貴族の手紙に押してある封蝋みたいなものがダイレクト素肌に貼ってある。


 ……また、この押印も……なんつーか、こだわりのあるっつーか、業の深いっつーか、性癖を前面にアピールする部位に押してもらっているナァ……

 これ、絶対、ロウソクプレイに興奮していたに違いない。

 ……流石、変態紳士!


 ちなみに、これは、一種の魔法の印鑑で、押印されてしまうと、一定期間、どの街にも入る事が出来なくなってしまうモノなのだそうだ。

 ただし、十数日程度でこの印影は自動的に剥がれ落ちる、との事。


「んんんッ!! いっその事、ワタクシもきちんと病に罹っていればっ!! また別の新しい快かn……もとい、世界が広がったのにッ! 惜しいですぞっ!!」


 それ以上、別の扉を開けようとするな。


 で、当初はウォーレン近くの森でやり過ごそうとしていたロレンさんだが、そこの森には多くの追放された人がすでにキャンプをしていたそうだ。

 ロレンさんも仲間に入れてもらおうとしたところ、この異常なまでの紳士力の高さ故、受け入れを拒否されてしまったとの事。

 

 ……拒否した側の気持ちも分からんでもない。


「そこで、別の街であるこのダリス付近までやって来たのですぞ」


 そして、街の近くで野営をしながら印が剥がれ落ちるのを待って居たのだが、【被虐嗜好】が満たされない日々に退屈を覚え、ちょっとした興味でスラグバースに近づいてしまったらしい。

 つーか、R指定御用達モンスターさんのこんなに近くにキャンプをガッツリ張っちゃう辺りがさぁ……

 ちょっと、じゃなくて、興味ギンギンだろ。


「んんん、やはり、モンスターではダメですな~、はっはっは!」


 朗らかに微笑むロレンさん。

 ダメだったのか……

 十分、満たされていたように見えたんだけどな……


「まぁ、ココの森はあんまり危険なモンスターも出ないっスから、キャンプには丁度いいっスよ」


 ですよね。

 左足が義足な僕でもリーリスさんが一緒なら、それなりに山菜狩りを楽しめる程度の平和な森だ。


「それに、今の季節ならキーノやポネノも採れるからご飯には困らないっス」


 ちなみに、ポネノとは一種のお芋だ。サツマイモみたいな強い甘みが特徴で、なかなか食べ応えがある。

 しかも、地下茎ではなく、木の実みたいに木の幹にぽこぽこ直接生えて来るから、収穫も容易。

 キーノのついでに僕も3、4個収穫していたりする。


「んんん、助かりましたぞ、お二方。せめて、お礼にこれを……」


 そう言ってロレンさんは自身のキャンプから小さな冊子を取り出し、リーリスさんに手渡す。

 そのチラシみたいな冊子には赤い文字でこう書かれていた。


『変態紳士のすすめ』 ~本能を開放して、新たな世界を手に入れよう! 素晴らしき被虐の世界~


 主張が濃いッ!!!


 しかし、リーリスさんは結構気に入ったようで、「にゃはははは、すごいっスね! これ!」と楽しそうに冊子をめくっている。

 リーリスさん曰く、内容云々ではなく、自分の想いをこういう形で冊子として配布する、という事自体がこの辺りでは珍しくて面白いらしい。

 内容の方に興味津々じゃなくて、ちょっと安心しましたよ……

 しかし、リーリスさんの反応……元の世界だったら、新興宗教団体とかがスゴイ喜びそうだな……


「ま、折角だからロレンさんもキーノ汁、食べるっスよ!」


「んんん!? よ、良いのですかな!?」


「もちろん! こんな珍しいものも貰っちゃったし、鍋は大勢で食べた方が美味しいんスいよ~」


「おおお!! それは嬉しいですぞ!! じ、実は街を追い出されてから、まともな物はあまり口にしていなかったのですぞ!」


 まともな物を口にしていない割には、生き生きとプレイに励んでいらっしゃったんですね……ある意味、幸せな人だなァ……!


 決して嗜好は見習いたくないけど、たくましすぎる思考は見習っても良いかもしれない。ちょっとだけな?


 だって、ほら、危険な伝染病に罹っている可能性を疑われ、街を追い出され、近くのキャンプ地の人々からは拒絶され、それでも一切めげないあたり、凄いよね?


「ん、これで良いっスね~。出来上がりっス」


リーリスさんが満足そうに目を細めて「できあがり」の言葉をつぶやくと同時に、


「おおお! これは美味しそうですぞ!」


 ガッ!!


 おそらく火傷するほど熱いと思われる鍋を素手で引っ掴むロレンさん。

 そして、


「ずずずっ!! ずる、ごく、ぱく、ぺしょ……ごっ、ごっ、ごっ……」


 恐るべき吸引力でキーノ汁を腹にダイレクトin変態紳士。

 いや、ここは変態紳士というよりもフードファイターの方が正しい表現なのか!?

 例えそうだとしても凄まじい食べっぷりである。

 思わず、お口をあんぐりあけて魅入っちゃったよ!

 お前の胃袋はブラックホールかよ!?


「ぷっふぁ~!! おいしかったですぞ!!」


「あーっ! ロレンさん! 一人で全部食べ……飲んじゃったんデスか?!」


「うわぁ……手とかお腹とか大丈夫っスかぁ!?」


「んんん! 問題ありませんぞ!!」


 きらーん、と輝く笑顔でサムズアップ。

 見れば、黒髪・黒目だったロレンさんの右目だけが奇麗な青緑に変色している。

 オッドアイのイケメン! だが変態紳士フードファイター!! の爆誕だ。

 しかし、何だろう? この、感情。

 まるで、炊きたての新米を踏みつけて叩き捨てないといけない残酷さに似た感じは。


「あぅぅ……僕もキーノ……食べてみたかったデス……」


 あ、思わず、本音が。


「うぅ……皆でお鍋……食べようと思ったのに~! 酷いっスよ~」


 ぺそ~ん……

 

「げふぅ……す、すいませんですぞ。でも、こういう感じで先にいただくと、その後、鉄拳制裁ごほうびをいただくことが多いので、普段は、こうしているのですが……」


 僕もリーリスさんも、がっかりである。

 うん。いや、確かに「ふざけるな!」って怒る人も多いと思うけど、あの一芸(?)は、怒るというより……「思わず呆然としてしまう」が正しい気がする。

 その様子を目の当たりにしたロレンさんが申し訳なさそうに謝ってきた。

 

「むぅ……食べちゃったものは仕方がないっス。でも、次の焼きキーノは全部食べちゃダメっスよ!」



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