28 ミカケの小鳥 カビの子と呼ばれる
「すいませーん! カビの生えた物の依頼主さーん!」
「あ、ハーイ!」
僕がギルド内の探索を終え、椅子で休憩していると、4人の少年たちの僕を探している声が響いて来た。
木の素材で作った素朴な鎧を着ている。
まさに、「駆け出し」を絵にかいたような4人組だ。
僕が手を上げて、杖を片手に立ち上がると、逆に少年たちがぞろぞろと近寄って来てくれたでござる。
そして、興味深そうに僕を見回す。
多分、彼らが視線からビームを出せたら、僕は跡形もなく消えているに違いない。
「えっと? 君が依頼主?」
「ハイ、そうデス」
僕が想像より小さかったので驚いたんだろう。
彼らは顔を見合わせて一斉に噴き出した。
ええー? ちょ、それ、どういう反応な訳? いきなり爆笑は失礼じゃないかい!?
「あはは……あー…ねぇ、君、これ、本気?」
4人の少年の内、黒に近い茶髪の子が例の依頼書の写しを指差して問いかける。
くりくりした瞳に、体格と比べて大きく見える丸っこい鎧のせいで、ちょっと豆ダヌキを彷彿とさせてしまう子だ。
どうやら、彼がリーダーみたいだ。
「ハイ、もちろんデス。ただし、僕のお眼鏡にかなうカビちゃんでなければ報酬はお支払いしマセんよ!」
くいっと、メガネを正してそう宣言してやると、どうやらその様子が滑稽だったらしく、彼等の笑い声が一層大きくなった。
むむむ……! 僕は大真面目ですよ!?
「あー……ゴメン、ゴメン……じゃあさ、これでも良いの?」
明らかに謝ってない謝罪を投げかけ、茶髪の少年は薄汚れた袋からカビの生えたお餅のような食品を取り出す。
おお!
思わず瞳が輝いてしまったのが、自分でもわかった。
青と灰色を混ぜたような色! 丸くモフっとしたコロニー!
これは期待大ですよ!!
「【鑑定】させていただいてかまいまセンか?」
「どーぞ、どーぞ」
【鑑定】
名前:アオカビ
特徴:ペニシリウム・クリソゲノムの亜種。
ペニシリン作成能力は高い。ペニシリン・クリソゲノムの3分の1程度。
おおおおおおお!? 作成能力は高い!?
いきなりキターッ!!!
あぁぁぁぁ、でも、3分の1かぁ……
いや、でも、ほとんどが有毒なカビの中で、それでも一応、有益な株が出た事はありがたい事ですよ!?
僕は、ニッコリ笑うと、彼らに告げた。
「ありがとうございマス、これは僕の希望のカビちゃんですね。報酬をお支払いしマス」
僕は、茶髪の少年の手に小銀貨一枚を渡す。
「マジかよ!?」
「ほ、他にもあるんだけど、どうかな!?」
少年たちは、同じ袋に入れられていたお餅のような食品を全てテーブルの上に広げた。
その半分くらいがカビてしまっているが、他の半分は奇麗なままだ。
「? こちらは、特に何もないデスね……」
僕は、その中で奇麗な半分を相手に戻す。
「うん。実は、これ、一袋小銀貨1枚で買ったんだけど……騙されちゃってさ、半分がこんな風にカビてたんだ」
この量で小銀貨1枚は安い、と思って購入したらこのザマ、との事だ。
……悪徳業者や詐欺師ってどこの世界にでも居るのね。
くぅぅ……! こっちが先日市場で、必死に探した時は見つからなかったのにィ!!
カビてしまったものを鑑定すると、最初に買い取ったものと同じカビは2個程見つかったが、他は有害なカビだった。
どうしようかな?
僕個人としては、できればもう少し生産性の高いのカビちゃんを探したい。
資金に限度が無ければ同じヤツでも買い取っちゃうんだけどね。
「うーん、残念ながら……他は僕の求めるカビちゃんではないデスね。」
「そっか。でも、1個でも売れれば良いや。残りのカビたヤツも全部お前にやるよ」
「え!? いいんデスか?」
「うん、これ1個で俺たちは元が取れたし」
そういって、渡した小銀貨を器用に指で弾いてはキャッチする。
「じゃ、お礼に……そっちの奇麗な方デスけど、カビた物と一緒の袋に入れられていたので、硬く絞った布で良く拭いてから、火を通して早めに召し上がった方が良いデスよ。あと、その袋じゃなくて、別の袋で保管してくだサイ」
「へー? じゃ、そーするわ。元々、今日の夕食にしようと思ってたし」
少年たちは、素直に別のもう少し奇麗な袋にカビていないお餅をしまい込む。
「じゃーな、カビの子! サンキュー!」「お前、カビみたいな色の髪してるよな! 良く似合うぜ!」「だからカビが好きなのか?」「カビの申し子……か」
口々に、お礼なんだか悪口なんだか褒めてるんだか、よく分からない事を言いながら去って行く。
やかましいわ! 誰がカビの申し子じゃ!!
しかも、このやり取りが結構ギルド内に響き渡っていたらしく、僕を指差し「あれがカビの子か」とか「カビの申し子……ぷふふ」とか、そんな声が聞こえて来るんですけど!?
でも、ペニシリウム・クリソゲノムの亜種が手に入ったのは素直にうれしい。
ほくほく笑顔で、その3つのカビちゃんをそっと自分の袋にしまい込む。
ちなみに、有害なカビの生えたお餅は、ギルド内で破棄させていただいた。
奇妙な二つ名を貰ってしまったが、結果的に、このやり取りが良い方向に働いたらしい。
本当にカビの生えた物がお金になる、と周知させる事ができたらしく、それからは、ぽつ、ぽつと僕に声をかけて来てくれる人が増えて来たのだ。
うれしい!
だが、ちょっとばかり目立ってしまうと、良い事ばかりでないのは何処の世界も一緒か。
「身欠けのチビ助ェ!! 俺様の持ってきたモンは買い取れねぇってどういう了見だァ? あぁ!?」
……ッチ、このおっさんも冒険者だったのか……
先日、騎士団長オズヌさんの一睨みでさっさとおケツをめくりあそばされたスキンヘッドのおっさん再び。
今日は、あの腰巾着の出っ歯男は一緒じゃないみたいだ。
僕が一人だと確認したら、まぁ、強気も強気。
流石に、冒険者ギルド内で依頼人である僕に対し、いきなり攻撃しては来ないみたいだが、額に青筋浮かべて怒鳴り散らしている。
……僕みたいな、ちんまい子供に対して全力で怒鳴らなくても良いでしょうよ……
うーん、勝手に体が震えるのはどうしようもないね。こりゃ。
「デスから、依頼にも記載させていただいたとおり、僕の欲しいカビちゃんは『ぺニシリウム・クリソゲノム』なんデス」
「カビなんて、どれでも一緒だろうが!」
「違いマス! こういうカビちゃんデスよ」
僕は、今日、少年たちから買い取ったお餅のようなものに生えたカビを、怒鳴るスキンヘッドに向けて突き付ける。
だって、このおっさんの持ってきた腐ったパンのようなものは、カビ過ぎてて、元の形状が分からないんだもん。
ピンク、白、青、黒、オレンジ。様々な色が入り混じったおっさんのカビと比べると、その違いは一目瞭然。
「ふんっ!」
スキンヘッドのおっさんは、面白く無さそうに鼻を鳴らし、僕の手からぺニシリウム・クリソゲノムを取り上げる。
そして、顔の傍でまじまじと見つめると、突然、にやりと不気味に笑った。
「【火炎玉】!」
ぼっ!!
おっさんの声と同時に、僕のカビちゃんが宿る餅を炎で包む。
「ああああああああッ!!!」
思わず、絶叫してしまった。
な、なんてことをしてくれるッ!!!
思わず、おっさんを睨みつけた。
くっそぉぉ、よりにもよって、炎だと!?
カビ……微生物の最大の弱点は炎だ。
これから培養するためのタネなのに……あのお餅に宿ったカビちゃんは全滅だ。
あの少年冒険者たちから、3つとも貰っておいてよかったけど、コイツ、ホントに腹立たしいな!!




