逃走
兄弟は俺たちのナイフを避ける。
そのまま一発2発と顔を叩き距離を取る。
その背中に魔法の弾を携えて、華麗に攻撃をかましてくる。
「兄弟。 これで戦うのは2回目だな。 俺は兄弟のこと好きだぜ」
「あぁ、俺もだ。 殺したいくらい愛してる」
「相思相愛だな。 嬉しいぜ」
兄弟は、何度も俺たちを殴った。
殴られた場所が痛い。
俺たちは、兄弟を殺したい。
痛みをお返ししたい。
だから、俺たちは兄弟を殺すんだ。
右手に持つナイフを兄弟の手に向けて振る。
それは当たらないが、兄弟はそれに対して攻め込めないでいた。
「兄弟、どういうわけか浅い攻撃には合わせられないんだな」
「さすが兄弟だ。 とは言わないぜ。 兄弟程の男なら気がつくと思っていた」
どうして、合わせられないんだ。
考えろ、俺たちが兄弟の立場なら……考えてる暇がない。
すぐに兄弟の攻撃が飛んでくる。
弾が、拳が、魔法の剣まで振ってくるのか。
俺たちは、それを最低限避けるが、いくつか被弾する。
関係ない。 治るのだから。
「兄弟。 どうして殺させてくれないんだ? 俺、辛いよ」
「あぁ、辛そうだ。 殺意に取り憑かれている。 俺にも覚えがあるよ兄弟。 いまは、すぐ眠らせてやるからな」
「ふふっ。 寝るのは兄弟だよ」
兄弟は、いくつかナイフに擦りながらも、果敢に俺たちに攻めてきた。
それは、意識を奪うための攻撃。
俺たちを殺す気がない攻撃であるから、逆に治しようがなかった。
何度も何度も、俺たちは殴られる。
身体にダメージが蓄積する。
「どうした? フラフラだぜ。 兄弟はまだまだやれるはずなんだが」
「……殺す。 殺す。 ーー殺すっ!!」
「もう、そろそろ限界か」
俺たちは、殺意に飲まれる。
あぁ、殺したい。
兄弟を殺したい。
何故? あいつは兄弟だ……俺は殺したくない。
そうだ。
大事な家族だ。
「……泣いているのか? 兄弟」
「ころす。 から、ころす」
「楽にしてやるよ。 兄弟」
兄弟が拳を固めて俺の顎を狙う。
その甘さが兄弟の致命的な隙になる。
僕は、それを掴み、腕を叩き斬る。
僕の手にあるこの腕を持ち主に返すように投げ渡す。
「僕を楽にするの? どうやって?」
「兄弟は、こんなものを腹のなかで飼っていたのか。 クソガキ、お前を追っ払ってやるよ」
俺の意識は、その言葉を聞いて失われた。
ーー気がついた時、目の前に兄弟が倒れていた。
周りには衛兵の方々がいる。
視界を遮る赤いフィルターはもう、無い。
「おい、止まれ!!」
そんな声が聞こえるが、俺の脳は理解できない。
兄弟は、肩腕を失い、目は傷つき、身体中にナイフの傷跡をつけている。
意識は、朦朧としている。
「兄弟、ごめんよ。 俺が弱いから、こんなに傷ついちまった。 でもよ。 お帰り」
傷ついた兄弟は、俺に向けて笑いながらそう言った。
「そんなことないよ。 兄弟は強くて立派だ。 助けられちまったな。 どうお返ししよう」
「……すぐには無理だろう。 とりあえずこの国から逃げろ」
「兄弟……」
「早く行くんだ……行けっ!!」
兄弟の叫びで、俺は走った。
「王殺しが逃げたぞ」
兵士の怒号が聞こえる。
そうか、俺はこの国にいられないのか。
俺は、色々な感情を浮かべながらを、振り切りながら走った。
俺は、兵士を振り切り、いつも外へ出るときに乗り超えてきた壁にたどり着く。
この壁を超えたら、もう後戻りはできない。
「いや、どのみち帰る道はない」
この国のことは、兄弟に任せよう。
俺は、俺にできることをやろう。
俺は、いつものように壁を乗り越え、王国を後にした。




