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ラムトレム

 床が濡れているのか。


 地下の先まで到着した俺は、そこに広がる空間をとりあえずまっすぐ歩く。


 足を運ぶたびに水温が響く。


 ただの水にしては重く、なんとなく不快感を誘う。


 そこは暗く、まさに一寸先すら見えない。


 しかし、何が起きるか分からないことを考えると灯りをつけることや声を出すことは憚れる。


 不快な音に身を任せ歩き続けると、灯りがついた部屋が見えた。


 ロウソクの光が揺らめくなか、それよりも強い光を放つ石が見える。


 そして、その光に照らされた1人の男。


 ーー親父。


 周囲に他の人の気配はない。


 俺は、姿を晒すことにした。


 部屋の中に堂々と入り、親父を見つめる。


 親父はすぐに俺に気がつき、腰の剣に手を当てた。


「お前は……久しぶりだな。 どっちなんだ? 今のお前は」


「親父、それはどういう意味だ?」


 俺の返答に対し、親父は残念そうな表情で目をそらした。


「いや、気にするな。 レム、ここまで来たということは、ある程度は察しているのだろう」


「全部説明してくれよ。 これはどういうことなのか……どうしてそんなことを」


「ーー……これというのは、これから俺がしようとしていることか? それとも、こいつのことか?」


 親父の目線の先を追うと、王が倒れている。


 胸から流れる血はもうすでに固まっており、その目は虚ろであった。


「王っ!! 死んでいるのか?」


「……どうやら、何も知らないでここまで来たらしい。 なら、お前はきっと、俺の敵になるんだろうな」


「当然だ、俺はお前を止める。 この世界を滅ぼさせはしない」


「お前に何ができる? 今のお前じゃ俺の足元にも及ばない。 もっと自分を思い出してみろ」


「何をっ!!」


 俺は影を纏い親父を殴る。


 それは簡単に止められ、剣の柄で叩かれる。


 何度かそれを繰り返したあと、俺は影を圧縮し、親父の頭上へ落とす。


 が、それは親父が剣で一振りするだけで崩れて消えていく。


「その様子だと、何をしようとしているかは知っているようだな。 何故しようとまではたどり着いてはいないようだが」


「俺の出生の秘密なら知ってるぞ」


「へぇ。 だが、それだけではなぁ」


 親父は俺を見下す。


 それは、父が子へ向けるものではない。


 まるで自分に襲いかかるモンスターを見るかのような、そんな目を向けられてはたまらない。


 俺は、そんな感情を振り切るように影を振り父はぶつける。


 しかし、効果はないようだ。


 魔力を使い適当に火を氷を雷をぶつけるが、まったく効果が現れない。


「……少しは成長していることを期待したが、この程度とは」


「黙れっ!!!!」


 オーバーヒーリング。


 俺が今もつ最強の技。


 そして、母親の魔法を用いて親父を倒す。


「ほぉっ。 それを使えるのか」


「親父、聞きたいことがあるんだ。 死んでくれるなよ」


 俺は、そのまばゆい光を親父へ押し付ける。


 親父は剣を突き出してその光を集め、振り払った。


「馬鹿め。 俺はその力を使う魔王を倒した男だぞ。 お前ごときの力で再現したところで効くはずがないだろう」


 打つ手がない。


 俺が持つ力は、そのどの選択肢も親父に届かない。


 そう、俺が持つ力は。


 目を瞑り、心をたどる。


 その先で待つのは、もう1人の俺。


 ーーやぁ、どうしたんだい、君でも勝てないの?


 黙って俺に力を貸しやがれ。


 ーーずいぶん口が悪くなったね。 まぁ仕方ないか。


「悪いけどもう少し遊んでくれよ。 親父どの」


「その赤い瞳……ラムか」


 俺たちは、右手にナイフを持って、親父に立ち向かう。


 さっきまで見えなかった親父の動きがひどく緩慢になって見える。


 右上から、袈裟にかけて切り抜けるのか。


 親父からの初めての攻撃、それには殺意が込められていた。


 見えるだけで、避けることはできない。


 だが、覚悟する時間はある。


 そして、攻撃に意識を割いた分、親父に隙ができる。


 俺たちは、ナイフを胸元にさす。


 と、同時に身体が2つに切断された。


「相討ちか」


 親父のつぶやきに、俺は笑いながら返答する。


「ふふふっ。 殺してやるよ親父どの」


 俺たちの身体はもうすでに治癒を完了するが、親父の出血は未だ止まらない。


「……ずいぶんとまぁ、俺の娘は化け物になったものだ」


「かなしぃねぇ。 息子のことは気にかけないのかい?」


「レム……お前も俺の子供なのか?」


「そういうこと、息子に言うもんじゃないよ」


 俺は、膝をつく親父の喉元にナイフを入れ込み、切り抜けた。


 そして、倒れていく親父を見下し、爽快感と不快感の入り混じる不思議な感情を胸に抱えながら、周りの時が戻るのを見送った。


 ラム、お前がやったのか?


 ーーいいや、これはパパの力だな。


 親父の?


 ーーあぁ。 そうだよ。


「……どうやら、お前もこの力を認識できるらしい」


「何度戻しても関係ない。 親父どのの心が折れるまで、何度だって繰り返してやろう」


「やれやれ。 これじゃどっちが悪役かわからんな」


 俺たちがナイフを振るうと、そこに剣を割り込ませガードしようとする。


 その瞬間、俺たには親父の腕を破壊し即座に治す。


 この魔法は治癒してしまうから意味がない。 と言うわけでもない。


 腕が壊れた瞬間、ガードが崩れ俺たちのナイフが親父の首を襲う。


 なんとか上体をそらされることで致命傷を避けられるが、それでも確実にダメージを与える。


 そして、上体が崩れた親父の足をかけ、転ばせる。


「本当に、よくできた子供だ」


 親父はナイフを抵抗することなく受け入れ、再度死を味わっていく。


 そして、また始めから戦いは始まる。


 そして、俺たちが親父に与える死が2桁を超えた時、親父は剣を捨てて話しかけてきた。


「降参だ。 セーブの力に気づかれるんじゃ勝ち目がない。 1つ、話を聞いてくれないか?」


「…………なんだい? 言ってみておくれよ」


「おれがこの世界を滅ぼそうとしている理由は、お前の母親の仇を取るためじゃあない。 もっと他に理由があるんだ」


「へぇ。 そうなんだ。 その理由ってなんだい?」


 俺たちは、親父に近づいて、ナイフを、胸元に、突きつける。


「それは、だな。 それは……」


「それは?」


「ナイフを……どけてくれないか?」


 ナイフは、親父の表皮を破り、少しずつ親父に侵入していく。


 親父は、少しずつ後ずさりしていく。


「どうせ戻り死なないんだ。 いいじゃないか?」


「ラム……レム? やめて……やめろぉおおお!!」


 親父は、俺たちの肩を掴み地面に叩きつける。


 血の入り混じる水が飛沫をあげる。


「あははっ。 酷いなぁ、身体中痛いやあ」


 俺たちは、立ち上がりながらそう言う。


 親父は、その間に光る石に手をかけていた。


「なんとか間に合ったか。 悪いが、行かせてもらう」


 親父はそれを持ち、走って逃げようとする。


 俺たちは、それを追おうとするが、転んでしまう。


 これは、足が切られている。


「はははっ。 またね親父どの」


 俺たちは、足を治しながら親父を見送った。


 足が治り、王を見る。


 完全に死んでいる。


 剣でヒトツキ。


「おいっ!! これはどう言う状況だ。 兄弟?」


 あぁ、兄弟だ。


 あぁ、殺したい。


「ははぁはぁ。 兄弟。 ごめんけど殺させておくれよ」


「……なるほどな。 兄弟、俺に止めて欲しいんだな」


 俺は兄弟に襲いかかった。

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