決起集会
気がつけば朝だった。
どれほどの時が経ったのだろうか。
最後の記憶では夕日だったはずの太陽が、今では真上へ移動しようとしている。
エインはまだ寝ている。
俺は彼女を起こさないよう注意しながらベッドを降りた。
シャワー室は簡素な構造であり、防音に難がありそうだ。
別の部屋に、適当に入りそこのシャワー室を借りるとしよう。
俺は、音を立てないよう細心の注意を払って部屋を後にした。
特に理由もなく、反対の部屋に入る。
その時、ドアについて注意深く観察することができるほど、寝起きの頭は働いていなかった。
シャワーをさっと浴びて濡れた体を乾かす。
温風が身体を冷やさずによく乾かしてくれた。
この風の出る機械、名前はなんて言うんだろう。
そんな疑問を持ちながら、気まぐれにその部屋のベッドに座る。
ふにゃと手をついた先はやわらかくそして固かった。
「ん……おはようがざいます。 あれ、レムさん」
「あれ、ここお前の部屋か。 久しぶりだなエミリア」
「えぇ……あの、胸に手が当たってるんですけど」
「ん? あぁ、これは胸か。 気がつかなかった」
「……胸を触られるのはまぁ、レムさんですから構わないんですが。 その発言はいただけないですね」
「ははっ、そう不機嫌になるなよ。 可愛い顔が崩れてるぞ」
「ん? なんだか今日のレムさん妙ですね」
「妙って?」
「なんとなく余裕があると言うか……いえ、気にしないでください」
「そうか。 まだ寝る?」
「えぇ、そのつもりでいましたけど……レムさんもご一緒します?」
「それは、誘ってるのか?」
「……レムさんはこの部屋をさっさと出て行った方が良さそうですね」
「怒ったか?」
「いいえ、でももうすぐで」
「そっか、なら出てこっか。 また、あとで飯食おうぜ」
「えぇ。 おやすみなさい」
あいつ、もう昼近いのにまだ寝るのか。
寝るこは育つって言うしなぁ。
なんて考えながら、俺は兄弟の部屋へ行く。
「よお、兄弟」
「ん? ヤってたにしては早起きだな兄弟。 で、あの娘は良かったかい?」
「いやぁ、なんのことやら」
「とぼけるなよ。 顔に出てるぞ」
「……悪いんだが兄弟。 真面目な話をしてもいいか?」
「つれないねぇ。 ほら、これを見ろ」
渡されたのは、ボタンがついた消しゴム程度の大きさの機械。
俺はためらわずそのボタンを押す。
「これは……」
空中に映像が映し出される。
そこには、王がクレイン博士と密会しているところが映し出されていた。
「とりあえず王は黒だな。 殺さない方向でって話だが、まぁ身柄を抑えるのが早いだろう。 洗いざらい吐いてもらうか」
「あぁ……でもどうやって? 王の防御は今も固いんだろ?」
「まぁ、未だに警戒は強いが……俺と兄弟があれば余裕さ」
「余裕?」
「正面から言ってもいけるって」
「ははっ。 面白い冗談だな」
「ははっそうだろ? しかも、その冗談がさらに面白くなる」
「へぇー。 どうやって?」
「現実にして見せるのさ」
「……兄弟は止めてもやるんだろう?」
「そして、兄弟はそんな俺を助けてくれる。 だろ?」
2人の男の笑い声が室内に響く。
カドワキがグラスに飲み物を注いでくれた。
グラスを合わせて、それを喉へ流す。
「いい飲みっぷりだな」
「兄弟、いつやるんだ?」
「早いほうがいいが……今日でもいいぞ」
「うーん。 そうだな。 今日やろう、ただし誓ってくれ殺さないと」
「この盃に誓うぜ」
「それなら安心できるぜ」
2人の男がそれを飲みきると、新たな瓶をそれぞれ懐に仕込み、盃を大事に胸にしまったあと、無言で外へ出て行く。
その後、道には言葉は無かったが、無言の男の心が聞こえていた。




