獣の夜
エインを誘導し、人に見られないルートを通ってアジトにたどり着く。
途中屋根の上を通りその先で川を飛び変えさせたりしたのだが、あのゴリラは一切拒否することなく実行してみせた。
「ここであっているのか? レムくん」
エインがそう聞いてくる。
「あぁ、そうだよ」
俺は彼女の腕に抱かれながら、だらしなくそう答えた。
「さぁ、早く中へ入ってくれ」
そのまま俺は、そう指示する。
「あ、あぁ。 入ろうじゃないか」
険しい顔をしながら彼女は、中へと入っていった。
「あぁっ!! ……なんだ、レムさんですか。 今日はまた妙な登場の仕方ですね」
チンピラは威勢がいいな。
しかも挨拶を心得ているとはさすがだ。
うんうんと俺は頷きながらそいつに尋ねる。
「兄弟はどこにいるんだい?」
「へい。 いつものところでございます」
「だってさ、エイン。 いつものところまで」
「私、いつものところって知らないんだけど」
「ほら、適当に最上階まで行ってさ」
「最上階ってどういくんだよ」
彼女は本気で焦り顔を作っていた。
なにを焦る必要があるんだ。
彼女の汗が垂れ落ち俺の額が潤う。
「ほら、そこにエレベータがあるだろう?」
「エレベータってなんだよぉ……」
新鮮な反応だな。
無知な異世界人を見ているような。
あ、俺異世界転生者だった。
「ほら、そこのボタンを押してくれ」
俺は指差しを行いながら彼女を誘導する。
「ん? 押したが何も起きないぞ」
エインは恐る恐るボタンを押すがなにも起きない。
おそらく、エレベーターは3階にあるため下に降りてくるのを待っているのだろう。
「まぁしばし待たれよ」
「え、おっ……おう!!」
キーンという甲高い音が聞こえた後に扉が開く。
「おぉー!! すごい……すごいぞレムくん。 扉が勝手に開いた」
あぁ、異世界転生した人ってこういう気分なのか、なんていうかこそばゆいな。
「まぁ、中に入ってくれ」
「う、うん。 大丈夫かな?」
「君の筋肉でなにを恐れることがある?」
「筋肉だって万能じゃないんだぞ……ほら、乗るぞ。 乗ったるぞ!!」
「はいはい。 あ……ゆっくりな? ゆっくり乗るんだぞ?」
「え、はい!! ゆっくりってこのぐらい?」
彼女は俺のいうことをいちいち本気で捉え、緩慢な動作でエレベーターに乗り込んだ。
足を踏み入れ重心をかけた瞬間、床が小さく沈み周囲が音を立てる。
その様に彼女が一瞬びっくりしていたが、俺が目で大丈夫と安心させると、ホッとした表情を作った。
「で、次はどうすればいい? 待っていれば部屋につくのか?」
「ええとね。 そこのボタンを押して……そこそこ」
「え? これか?」
「そうそう……あ、違う」
「違うのか? じゃあどれ」
「その上の3ってとこ」
「ここ?」
「そそ。 そこ押してCを押して」
「ん、押したぞ。 閉じ込められた」
チュートリアルかな?
なんとかエレベータを始動させることができたが、正直彼女の無知は心配になるレベルだな。
「待ってれば3階につく」
「これは、どういう仕組みだ?」
俺はそういや、エレベータの仕組みを知らないな。
ワイヤーで引っ張るのか。
だが、異世界のこれはどう動いている?
どう見ても電力で動いているが。
「魔法だよ」
「そっか。 どんな魔法だ?」
「ええと。 どんな魔法だと思う?」
「私の考えでは重力を操ってるのかなと。 ほら、縦軸だけでの移動みたいだし」
「あぁ、正解。 正解者には次の道が拓けます」
「おぉ。 扉が開いた。 ははっ。 で、どの部屋に入るんだ?」
「目の前の部屋だよ」
「これ?」
「そそ」
エインは、伝えられた扉を丁寧にノックする。
中から、男の声が聞こえ中へと誘導された。
「し、失礼します」
彼女は扉を開けながらそういうと、そこには信じられない光景が広がっていた。
「おう、兄弟。 女連れとは良いねぇ。 俺と一緒に楽しみに来たのかい?」
女を相手に腰を振りながら兄弟はそう言った。
話には聞いてたが、まさか、目の前でやられると俺も固まる。
も、というのはエインのことだ。
彼女は赤面しながら完全に動かなくなった。
「おい。 おーい」
俺は顔を軽くペチペチするが、エインは動かない。
「へぇ。 兄弟はウブな子が好きなんだな」
女をはぁはぁ喘がせながら彼は言った。
「刺激が強すぎるんだ。 兄弟、まだ日が昇ってるぜ?」
「おおそうか。 太陽よりも眩しいものを抱いてるんで気がつかなかった。 なぁ」
兄弟に抱かれた女は、激しく喘いでいるため返答ができていない。
「兄弟、彼女はエインって言うんだが、行くあてがないんだ。 止めてやってくれないかな?」
「……スパイの可能性は?」
「ない。 外での拾い物だ」
真剣な表情になり真面目に話す。
ただし、彼の下半身が止まることはない。
「そうか。 で、手を出したのか?」
「……兄弟。 俺の歳は何歳に見える?」
「すまんすまん。 兄弟があまりにもビッグな男なんで見違えちまってた。 そうか、まだ銅の帝か?」
「……兄弟でもそれを言ったら怒るぜ?」
「おぉ、すまんかった。 部屋は、この階ならどこを使ってくれても構わない。 って言っても一部屋は埋まってるけどな」
「ん? 誰が使ってるんだ。 リーダー格くんか?」
「うちのエミィを忘れたら困るぜ。 乱行は許さねえから1日1人までな?」
「しないよ」
俺は、エインの身体から降りて彼女をおぶる。
「避妊なら、各部屋に器具が置いてあるぜ?」
「心配には及ばねえよ」
俺はそう言って、ドアを閉めた。
適当に部屋を選んで、そのドアを開くと彼女は眼を覚ます。
「えっと、私なにを」
「ん? 起きたか、この部屋を使ってもいいらしいぞ」
「…………」
「どうした?」
「背中、お前……いいのか?」
ここからじゃ表情はうかがえないが、声が明らかに震えている。
「いいのかって。 いいだろう。 とりあえず起きたなら降りてくれ」
「……あ、あぁ。 すまない。 動揺した」
「いいってことよ。 シャワー浴びる?」
「シャワーとは?」
「ええと、こっち来て」
俺は、部屋にあるものの使用方法を各々教えていった。
その度に彼女は、すごいだの、さすがレムくんだの言っていた。
「で、ベッドはわかるだろ? ふかふかだ」
「うむ。 ここで寝るのであろう。 ん? これはなんだ」
彼女が枕をずらすと、包装された輪が出てくる。
「……なんだと思う?」
返答に困ったら相手に振る。
これ、人生で最も重要なこと。
「避妊具か」
「なんでわかるんですかねぇ」
「……つまり、その。 私とやりたいのか?」
「は? いや、ちょっとまてよ。 はやまるな」
「いいんだぞ。 私は、君がいいやつだと言うことは分かった」
「出会ったその日に合体は早くないかな?」
「なら……私はお預けを食らうのか? 1人で慰めるのか?」
「……そうしてくれ」
俺は、部屋を後にしようとする。
だが、首根っこを掴まれベッドに寝かされる。
「こんなに君が綺麗だから、長い夜になりそうね」
「せめて、シャワーを浴びよう。
あたりがエインの匂いで包まれていく。
彼女は他でもない、獣であった。




