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ゴリラ会話

「なんだっていきなり襲ってきたんだ?」


 俺はゴリラに聞いた。


「先ほども言ったかもしれんが、私の故郷が焼き払われてな」


「それは大変だな。 だが、俺は知らんぞ」


「……そうだな。 君ほどの力を持った者がわざわざ森を燃やす必要がない」


「なぜ燃やされた。 犯人は一体なんの目的があったんだ」


「私の森には宝があった。 ルナストーンだ。 焼け跡となった森からはそれが持ち去られていた」


 ルナストーンが持ち去られていただと。


 それは、もしかして。


「もしや、信頼できる情報源とは」


「アルカイオスの使いの者らしいが。 裏は取れてない」


 やはり。


「アルカイオスとの繋がりは本当だろう。 そして、お前の故郷を燃やしたのはおそらくそいつらだ」


「まさか、そんなはずはないだろう。 先ほども言ったがそれだけの強さを持つなら我々は争う必要なく宝を譲る。 それだと焼かれた理由が不明になる」


「譲る? どういう意味だよ」


「そのままだ。 本来、ゴリラは争いを好まん」


「……そうか。 なぁ、今更1つ気になっているのだが、なぜゴリラが喋る?」


「……は? ゴリラが喋るのはいかんか。 民族差別か?」


「民族というか……種族だろう。 そもそもそのライオンの頭で喋られても現実味が」


「あぁ、これは被り物だよ」


 そいつは獅子の面を外しながら言った。


 中からは男勝りな女が現れる。


「えっ? じゃあ、そのゴリラの体も鎧か何かか?」


 そいつは額に青筋を浮かべる。


 そして、俺はそいつにげんこつをもらった。


「あぁそうだよ。 筋肉と言う名の鎧さ。 ゴリラの男は皆鍛えられこうなるんだ」


「え、どいうこと? なに? お前ゴリラなの? 人なの?」


「人だよ!!」


 コブが2段になった。


「すまんすまん、話が逸れたな。 で、となると誰がその森を焼いたって事になるんだ」


 ゴリラが顎に手を当てながら考えるように言った。


「ルナストーンを求めていて、弱くて姑息な奴だな」


「ふぅん。 おいゴリラ、お前や家族たちに恨まれてる奴はいないのか? 怨恨ってこともあるだろう」


「ゴリラって呼ぶな。 怨恨ってことはないだろう。 来るもの拒まず去る者は追わず。 書物のエルフのような生き物だぞ」


 こんな筋肉エルフやだ。


「ルナストがほしくて弱くて姑息ねぇ。 分かった。 俺も探してみるよ」


「本当か? 助かるよレムくん」


「いいってことよ。 ゴリラとはもう友達だからな」


「とも……だち? 名前も知らない私のことか?」


「あぁ、ゴリラ。 お前と友達だ」


「なら、私の名前も覚えんかっ!!」


 ギャフン。


 名乗らないお前が悪いんだろう。


 そう思ったが口にするのはやめておいた。


「はい!! ゴリラの名前はなんですか」


「……殊勝な心がけだな。 もう一発喰らわせようか」


「暴力的すぎないか?」


「まぁいい。 私の名はエインだ。 可愛い名だろう。 祖母がつけてくれたんだ」


 名前に誇りを持ってそうだな。


 なんか普通に偉そうだ。


「エインね。 その祖母のこと尊敬してるんだな」


「……あぁ、とても良い人だった。 森の主でな。 もうみんな焼かれて死んでしまったが」


「じゃあ、ゴリラ一族は……」


「そうだな。 私1人になった」


「そりゃ、悲しいな」


「うん? 確かにみんなが死んで寂しくはなったが悲しくはないぞ。 みんなは私とともにあるからな」


「サイコかよ。 なに言ってるか常人には分からないぞ」


「ゴリラの伝承だよ。 森とともに生きる者は彼らの意思とともにあるってさ」


「そうか。 そんな宗教には興味はないんだけどさ、お前……エインはもう敵じゃないんだよな?」


「そういうことになるな。 なんせ私たちは友だからな」


「なら、お疲れっす」


 俺はそう言って地面に倒れこんだ。


 ズシャッという音とともに泥が体に付着するが気にしている余裕はない。


「え、どうした? 私、殴りすぎたか? ごめん。 大丈夫か?」


「うん大丈夫。 ただ、もう疲れちゃって、立ってる余裕も余所行き用のキャラを維持する余裕もないんだよね」


「は? お前、急に変だぞ。 実に変だぞ」


「……お前も大分キャラぶれてるな。 なぁエイン、故郷が焼けたんだよな? なら、お前の帰る場所は?」


「……え、あぁ。 ゴリラの者たちは強いんだ。 どこでも寝れるぞ」


「ふぅん。 強がるなよ。 行くあてなら用意してやれるぞ」


「え、どういう意味だ?」


「俺の兄弟の所に連れてってやるよ。 義理だけどいい奴だ。 俺もよく顔を出すし、エインが嫌じゃなければだけど」


「本当か? いやぁ、地に伏して寝るのは実は辛くてな。 なら、すぐ行こう。 暗くなる前に」


「……おんぶ」


「は? レム……なにをふざけたことを」


「もう歩けないから、おんぶして」


「……やだ」


「なんでお前、頬が赤いの? てか、ガイドを踏もうとしてた頃からキャラ変わりすぎ」


「うるさいうるさい!! 背中はダメだ。 抱っこなら許してやる」


 ……抱っこかぁ。


 こいつの身体、妙に毛深いし筋肉あるから痛そうなんだよなぁ……ん?


 胸が無駄にでかい。


 なるほどね。


「いいよ。 抱っこでも」


「え? 本当か」


「そのかわり、やさしくしてね?」


「意味がわからんが、ほら、行くぞ」


 俺は軽々と持ち上げられる。


 これは、お姫様抱っこか。


 胸が当たる。 顔が近い。


 ……いかん。 思ってたよりも良さげだ。


「じゃあ、よろしくお願いします」


「えっ、あぁうん。 よろしく……おねがいします?」


 俺を抱えているにもかかわらず、ひょうひょうと素早く王国まで走っていく。


 周りの景色が置き去りになっていく感覚は病みつきになりそうだが、それ以上に変わらない感触と景色は辛抱たまらなかった。

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