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ゴリラの森

 帰り道は、俺の気持ちなど考えてくれない。


 重たい足を運びながら、川を渡ったあたりでそいつは現れた。


 クギャゴゴゴックギャギャギャッ!!!!


 気味の悪い咆哮。


 それは頭が獅子で、身体がゴリラ。


 モンスターのように見えるそれは、俺にコミュニケーションをはかりにきた。


「お前が、レムか?」


「…………」


 もちろん、そんな気分ではない。


 俺は無視して通り過ぎようとする。


「なぁ、なぜ行こうとするんだ?」


「……人違いだ」


「そうか、それはすまんな。 とでも言うと思ったか?」


 それがつき


 ちっ。


 面倒くさい。


「気分じゃねえんだよ」


「……やはりか」


「やはりってなんだよ」


「やはり貴様が我が故郷の森を焼いたのかレムナント・アルカイオス」


「はぁ?」


 ライオンヘッドは近くの岩を投げつけてくる。


 俺はそれを腕で軽く砕く。


 しかし、岩によって生まれた死角から俺は強くぶん殴られた。


 母から肩甲骨に向かって激痛の信号が走る。


「ぐっ!!」


「まだまだ」


 敵はゴリッという掛け声とともにパンチを繰り出す。


 1つ1つ丁寧に攻撃を腕で受け止めるが威力を吸収しきれない。


 受け止めるたびに顔が歪む。


「ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ!!!!」


「いい加減に……しろっ!!」


 俺はなんとか蹴りを攻撃の間に割り込ませる。


「……軽いなぁ? なぁっ!! なぁっ!! なぁっ!!!!」


 止まらない。


 その男は蹴りを物ともせず俺に攻撃し続ける。


 一度その攻撃をガードしてしまった。


 それが、敗因となるのだろう。


 腕が、顔が上がらない。


 ……あぁ、分かった。


 俺は疲れてたんだ。


 だけども、言い訳にもならないな。


 俺の服は破け、打たれた場所が赤みを帯びていく。


「あぁ、もうどうなってもいいや」


 そのセリフを聞いてか、男は連打を止めて大きく踏み込んでから振り抜いた。


 俺はとっさに上半身を反らし攻撃を避ける。


「こんなものか?」


「は?」


 どういう意味だよ。


「こんなものなのか!! 私の仇がこの程度などと……おまえごとぎがあの森を滅ぼすことなどできるはずがないだろう」


「……勝手なこと言うなよ。 そもそも、俺はそのこと知らないぜ」


「たわけたことを。 信頼できる情報筋から聞いた話だ。 お前じゃないわけがない」


「知らねえよ。 もう……どうでもいいぜ」


 視線がだんだんかすんでいく。 だんだんと落ちていく。


 すると、地面に魔本が落ちているのが見えた。


 あぁ、ガイドを拾わなければ。


「もういい。 殺す。 痛めつけてやろうと思ったが……そんな腑抜けだとはな」


 男がガイドを踏みつけた。


 あぁ、何やってんだよ。


 殺すって言ったな?


「その足をどければ命は許してやるよ」


「うん? あぁ、本を踏んでいたか。 大事なものなのか?」


「だまってどけろよ」


「や、だ、ね。 お前はこんなものでは変えられないほどのものを奪った。 なら、これぐらい……」


 俺は、その足を弱々しく掴んだ。


「どけろよ」


「ええい。 鬱陶しいわっ!!」


 俺は顎を蹴られた。


 手を離してしまう。


「……もういいよ。 おまえ」


 殺してやる。


「ふっ。 観念したか」


「殺してやる」


「ふん。 どうやって」


 身体から、黒い影が生まれる。


「お前なんて死んでしまえ」


「それが故郷を焼いた魔法か!!」


 ゴリラが接近してくる。


 俺は影を手に変えてそいつを掴んだ。


「くそっ。 ゴリラの森には魔法は入ってきていなかった。 対策が遅れている」


 グググとゴリラの体から収縮していく。


「まさか……」


 ゴリラの体が解き放たれる。


 黒い影は霧散しゴリラの体が自由になる。


「極大魔法カソクスル!!」


 ゴリラの体を見失う。


 ゴリラの体を再び認識したからには、また拳は振り抜かれていた。


「……こうなるのか」


「南無三っ」


 黒い影が拳の進行を妨げていた。


 そのまま、ゴリラの拘束に成功する。


「さぁ、どう死にたい?」


「……ともに死ね」


 ゴリラが発光したと思ったら爆発した。


 だが、死人が出ることはない。


 影が爆発を包むことで無効化した。


「お前の死に方は俺が決める」


「……はぁはぁっ。 拘束が解けたぞ」


 次の瞬間、ゴリラの体が消えた。


 だが、俺の口元は緩んでいる。


「もう、お前を捉える方法を思いついたぜ」


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