レムトラム
もう1人の戦い方は、お粗末なものだった。
ラムは、メルトンの攻撃を避けようともせず、肉体を損傷させては、治す。
それの繰り返しで、こちらの攻撃は一度も入れられない。
そして、メルトンの攻撃は全て無に帰している。
「あははっ。 魔法ってたのしーや」
「……狂ってやがる」
「そう? かなぁ」
何度も何度も繰り返す。
壊れていくのが繰り返される。
このままでは、魔力が尽きる。
魔力が尽きれば死が待つのみ。
いくら魔力が多いといっても、これは消費が多すぎる。
もうじきに発動がしなくなるぞ。
「……あれ?」
吹き飛んだ右腕が戻らない。
言わんこっちゃない。
魔力切れだ。
「はぁっはぁっ。 もう終わりか?」
「ハアハアいっちゃってきもーい。 おじさん、ショタに詰め寄って興奮しちゃってるの?」
「その減らず口も終わらせてやる」
息を切らせながら、彼は詰め寄ってくる。
右腕から熱が失われていく。
身体は後ずさりを続けていたが、壁にあたりそれも止まる。
「ねぇ、レム。 力を貸してよ」
返事はしない。
俺の中に魔力が残っているのはわかる。
それを、ラムに与えることも可能だろう。
だが、自らを殺してでも、ここで終わりにする。
メルトンを殺させるわけにはいかない。
「ふぅん。 じゃあいいや。 やり直そっと」
一瞬、周囲が暗転して見えた。
気がついた時、右腕は治っていて、その他にはナイフが握られている。
「……レム。 恨むなよ。 殺しにかかるぞ」
聞き覚えのあるセリフが放たれる。
時間が戻っている?
(あははっ、どういうことかわからないって顔だね)
声がした。
頭に直接話しかけられている。
声が頭で響いている。
(こっちにおいでよ……レム)
俺の精神が白に引き寄せられる。
たどり着いた果てには、白で埋め尽くされた世界が広がっていた。
「お前が……ラム?」
「うん。 そうだよレム」
そこに立っているのは、齢が同じくらいの、俺よりも少しだけ身長の低い少女。
俺よりも、親父に似ているが、あのおじ顔を思わせない可愛らしさを持っている。
「……? 見惚れてるの?」
「誰にだよ。 で、ここは何だ?」
「ん……ちょっと待って」
「なんだ?」
「……死んだ。 やり直しだ」
「死んだ? 説明しろよ」
「だから、僕がまたメルトンに負けたんだ。 すごいよね、親友の息子を迷わず殺してるよ」
「……今すぐにやめろ」
「無理だよ。 僕が勇者の娘である限り、運命は僕の味方だ」
「……勇者の子供は俺だ」
「そうだね。 今はそう思っていればいいよ。 そんなことよりも、こっちでも始まるんでしょ?」
「何を?」
「バトルを。 僕に勝てば身体の主導権を取り返せるよ」
「本当か?」
「疑い深いなぁ。 信じないなら、そこで見てればいいさ」
こいつに勝てば、全てが丸く収まる。
「いいだろう。 お前に勝つ」
「そうこなくっちゃ」
ラムは言い終えると同時に一気に距離を詰めてくる。
拳の間合いに入るとゆっくりと手を近づけてくる。
俺は、それを真っ向から受け止める。
これがいけなかった。
身体が浮き、大きく回りながら後ろへ引き寄せられる。
「あっ。 ゆっくりだし女の子だからって油断したでしょ。 ダメだよ。 殺しに来なくちゃ」
彼女は笑う。
笑いながらまた距離を詰める。
俺は、それから離れながら魔法を放った。
炎と氷と雷を緩急つけて繰り出す。
まず氷がラムに到着するが、それを彼女は難なく受け止める。
炎が氷に熱を奪われ消えてしまう。
「あらー。 あったまいいー」
氷が溶けて水になると、彼女の体を濡らした。
そのまま雷がラムの体を走り抜ける。
「どうだ……」
ラムは痙攣を繰り返し、膝をつく。
「あばばっ。 骨とか見えちゃったかなー?」
「……ダメか」
「ダメだよー。 殺気がなかったぜ? 殺す気でおいで」
「なら……死ね」
俺は小さな火種を送りつける。
水分がか電気により分解され水素と酸素が生まれる。
それを爆発させる。
パキュンッ!!
爆発というよりは、早い燃焼という感じに近かった。
「まだまだ……」
「どうせ死んでないんだろう?」
俺は、身体に影を纏っていた。
どうやったかもわからない。
その影は流動的で、ラムの体を貫く。
そこから暖かい血を感じることができた。
「……へぇ。 そ……れが君の。 でも、僕じゃなく……て、ね。 きみのまけ」
俺は光った。
オーバーヒーリング。
俺は、魔本の力を借りながら出なければ撃てなかった。
なのに、なぜ……こいつは。
そう考えている間に俺の体は崩壊を始める。
意識だけは手放しはしない。
その覚悟も虚しく消えていった。
そして、また白の世界に帰ってくる。
「……なんのつもりだ」
「怒んないでよ。 とりあえず今回は合格。 だって僕も死んじゃったし、やり直すと君も万全で帰ってくるしね」
「また、戦うのか?」
「君ってバカなの? 今の僕が固有魔法を手に入れた君に勝てるわけないじゃん。 だから、降参だよ」
「なら早く戻せよ」
「焦んないでよ。 ほら、これで体は君のもの」
瞬きをする。
そして、その目が開いた時メルトンの拳が見えた。
顔の前、振り抜かれる。
死ぬ。
そう思われたが、俺の身体に黒が混じり、流動する顔が拳に合わせて形を変えた。
「……なんだそれは」
「ちょっと待て。 俺だよ」
「レム……か?」
身体の形を人型に戻しながら、お互いに武装を解除する。
「どっちも生きてるな?」
「あぁ。 死ぬかと思った」
「あんたが……ね。 とりあえず、ラムはしばらくは大人しくさせるさ」
「いつから気づいていた。 そいつに」
「今、気がついた。 今初めて出てきたんだ」
「そうか。 ……とりあえず帰るか」
俺はガイドに目配せをする。
「先に帰っていてくれ」
「道中で話したいことがあるんだが」
「考えがまとまっていないんだろ? すぐに追いつくさ」
「……正直にいう。 お前を信用できない」
「なら…… 殺すのか?」
「…………分かった。 追いつく必要はない。 明日、城にこい」
「了解だ」
その言葉を聞くと、メルトンはここを後にする。
さて、1つだけ解決しておくか。
「ガイド。 お前誰だ?」
「……一部始終を見てた。 まず、大きくなったねレム」
その言葉は、とても暖かかった。




