表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/53

ラム

「……まぁ、どんな内容か分からんのに覚悟とか言われてもって感じだよな」


「どうせ親父のことだろう」


「へぇ」


 メルトンは感心をしてみせた。


 無理矢理な剣の傷はつけた相手を想像させる。


「覚悟はできてる」


「なら、話させてもらおう」


「……あぁ」


 彼は小さくため息をついてから、その口を開いた。


「お前の親父は世界を滅ぼそうとしている。 止めようとしたが、逆にやられた。 あれは化け物だよ」


「まぁ……そうだろうな。 だが、なんだってそんなことをしようとする?」


「……分からん。 何があいつを変えちまったんだ。 だが奴には甘さは残ってる。 俺にとどめを刺さなかったことだ。 お前のおかげで生きながらえた。 あいつを今度こそ止めてやる」


「やめとけ」


「なんだと!! どういう意味だ」


「せっかく永らえた命捨てることはない」


「今度こそは……」


「無理だよ。 あんたじゃ」


「なら、誰にならできる。 お前が止めてくれるのか?」


 その質問は、その意味は簡単だ。


 俺を明確に下に見ている。


 当然だ。


 生きてきた長さが、経験値が違う。


「俺は、お前を殺しかけた化け物の子だぜ」


「ふん。 獅子と子猫よりも差が見えるがな」


「見くびるなよ」


 ……沈黙が走る。


 お互いに目で語る。


 こいつは、行くつもりだ。


 今すぐに、親父の元へ。


 どうするかは、決まっている。


 力でねじ伏せてやる。


 メルトンが、腕をこちらに振るう。


 それを避けるが、風圧で顔が歪む。


「よく避けた。 言うだけはあるわ」


 大きく避けすぎた。


 これでは反撃ができない。


 そのせいあって再び大振りがメルトンから繰り出される。


 ギリギリで回避してやる。


 わざと頬に触れさせ、それをいなそうとする。


 だが、俺の身体は吹き飛んだ。


 何が起こったのか理解が追いつかない。


「どういう……」


「ほお。 首は残っているな」


 ゆっくりと記憶が戻り、理解した。


 触れただけでこの威力か。


「……つぶす」


「やれるかな?」


 ゆっくりとメルトンは近づいてくる。


 どうするか、考えろ。


 接近戦は不利だろう。


「ガイド、こっち来てくれ」


「っ。 分かりました」


 ガイドがこちらへたどり着き、俺は左手でガイドを掴む。


「あれを頼む」


「……加減はできませんよ?」


「いい。 本気で殺そうとかかったぐらいがちょうどいい」


「了解しました」


 ガイドがそういうと、記憶が流れ込む。


 オーバーヒーリング。


 これを当てれば大きくダメージを……


 俺は、距離を話しながら時間を稼ごうとするが、突如、後頭部に衝撃が走った。


「殺しちまったか? 今度こそ」


「硬さには自信があるんでね」


「よう言った。 後2、3度は殺してやる」


「どうだかな」


 どういう事かはわからない。


 あいつの身体がそこにあるのに、後頭部を殴られた。


 そして、それ以上にまずいことに気がつく。


「おいガイド」


「なんでしょうか?」


「この魔法、手加減のしようがなくないか?」


「えぇ。 確実に殺せますね」


「……やめだやめ。 お前他に何かないの?」


 オーバーヒーリング。


 過剰な治癒を行うことで細胞を死滅させる魔法。


 1回目は夢中だったから気がつかなかった。


 なるほど、そんな感じね。


「他……特に、ふむ。 待ってて」


 口調の突然な変化に違和感を覚える暇もなく、俺は攻撃を避ける。


 頭を振り、右拳を避けると、嫌な重圧から俺はさらに頭をずらした。


「へぇ。 その直感は親父譲りか」


 鈍重な風切り音とともに、俺の目の前を奴の右拳が通り過ぎていく。


「空間移動……腕だけの」


「よーくわかったじゃないか。 どうだ? 避けられそうか?」


 ガイドが俺の手元へ戻り、触れる。


 別の魔法のインストールが始まる。


「あ……あぁ。 それは、魔法なのか?」


「固有魔法。 とは言うが、今の時代全ての魔法が再現できる時代だからなぁ」


「固有……魔法?」


「その人しか扱えない魔法のことだ。 お前にはまだ早い」


「……そうか。 それで、見たこともないわけだ」


「時間を稼げば勝てるのか?」


「バレてるのに仕掛けないのか?」


「ふふっ。 質問を質問で返すんじゃねえ」


 メルトンが足を振り上げると、俺へ向けて振り下ろされる。


 その足は、地面にできた黒い影に飲まれるのが見えた。


 なるほど、そうやって。


 俺は大きく前はステップする。


 後ろで地面が破裂する音が聞こえる。


「そこは死地だぜ?」


「お前のな」


 俺は、インストールが終わった魔法を繰り出す。


 クラッシュヒール。


 メルトンの顔は一度ひしゃげる。


 そして、すぐにそれはまた元に戻った。


「隙だらけだぜ?」


 俺は、何度も拳をぶつける。


 その度に男の体から小さくよろける。


 だが、すぐに腕が掴まれた。


「……お前、その魔法。 いや、その前にチェックメイトだな」


 俺は逃げようとするが、その腕は離されることはない。


 攻撃を仕掛けようとしても、体幹をずらされ避けられる。


 そして、こちらはガードできない角度で攻撃を当てられ、地面に叩きつけられる。


 痛い。


 怖い。


 だが、俺にはもう1つ別の強い感情が生まれていた。


 殺してやる。


「おいおいどうした? もう終わりか?」


「……」


「だんまりかよ。 そーら」


 俺の身体はが宙に浮き、壁に叩きつけられた後、立たされる。


 もう痛みは感じない。


「お前が降参するまで続ける」


 この感じ、前にも何度か覚えがある。


 そう、身体が軽くなっていって、周りがよく見えるんだ。


 何をすればいいかも、見えてくる。


 嫌な音が聞こえた気がする。


 俺の身体を前に進めることで、掴まれた腕が無理な方向に力がかかった。


 そして、折れた。


 痛くはない。


 そして、近づいた分変な顔をするメルトンが滑稽だ。


「ガイド。 さっきの魔法いいね」


「……ええと。 その腕は大丈夫ですか?」


 いつのまにか、腕は解放されている。


 俺の身体が、俺の意思から離れていく。


 勝手に動く。


 折れた腕を振り回しているのは俺じゃない。


 メルトン!! 逃げろ。


 その声は声にならず、別の声にかき消された。


 レム。 ダメだよ。


 こんな楽しい遊びを終わらせたりしないよ。


「急に雰囲気変わったな。 レム」


「僕はラムだよ。 おじさん続けようよ」


「ラム……? そうか。 そう言う事か」


「そう言う事だよ」


「その腕で続けるのか?」


「腕? あぁー」


 俺の腕が爆ぜ、元に戻った。


「へぇ。 痛みはあるんだ。 回復魔法のくせに」


「狂ってやがる」


「そう? おじさんこそおかしいんじゃない?」


 俺は……否、俺の身体は、笑いながら、剣を取り出した。


 空間から、それを抜く。


 その魔法は、銀行からお金を取り出すもの。


 その剣は、親父の剣。


「長いね。 これでどうかな」


 よっ。 という掛け声とともに、剣の長さがナイフ程度のものとなった。


「……レム。 恨むなよ。 殺しにかかるぞ」


「無理だよ。 おじさんじゃあ僕は殺せない」


 俺の意思を離れた身体は、メルトンとの第2ラウンドを開始した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ