ラム
「……まぁ、どんな内容か分からんのに覚悟とか言われてもって感じだよな」
「どうせ親父のことだろう」
「へぇ」
メルトンは感心をしてみせた。
無理矢理な剣の傷はつけた相手を想像させる。
「覚悟はできてる」
「なら、話させてもらおう」
「……あぁ」
彼は小さくため息をついてから、その口を開いた。
「お前の親父は世界を滅ぼそうとしている。 止めようとしたが、逆にやられた。 あれは化け物だよ」
「まぁ……そうだろうな。 だが、なんだってそんなことをしようとする?」
「……分からん。 何があいつを変えちまったんだ。 だが奴には甘さは残ってる。 俺にとどめを刺さなかったことだ。 お前のおかげで生きながらえた。 あいつを今度こそ止めてやる」
「やめとけ」
「なんだと!! どういう意味だ」
「せっかく永らえた命捨てることはない」
「今度こそは……」
「無理だよ。 あんたじゃ」
「なら、誰にならできる。 お前が止めてくれるのか?」
その質問は、その意味は簡単だ。
俺を明確に下に見ている。
当然だ。
生きてきた長さが、経験値が違う。
「俺は、お前を殺しかけた化け物の子だぜ」
「ふん。 獅子と子猫よりも差が見えるがな」
「見くびるなよ」
……沈黙が走る。
お互いに目で語る。
こいつは、行くつもりだ。
今すぐに、親父の元へ。
どうするかは、決まっている。
力でねじ伏せてやる。
メルトンが、腕をこちらに振るう。
それを避けるが、風圧で顔が歪む。
「よく避けた。 言うだけはあるわ」
大きく避けすぎた。
これでは反撃ができない。
そのせいあって再び大振りがメルトンから繰り出される。
ギリギリで回避してやる。
わざと頬に触れさせ、それをいなそうとする。
だが、俺の身体は吹き飛んだ。
何が起こったのか理解が追いつかない。
「どういう……」
「ほお。 首は残っているな」
ゆっくりと記憶が戻り、理解した。
触れただけでこの威力か。
「……つぶす」
「やれるかな?」
ゆっくりとメルトンは近づいてくる。
どうするか、考えろ。
接近戦は不利だろう。
「ガイド、こっち来てくれ」
「っ。 分かりました」
ガイドがこちらへたどり着き、俺は左手でガイドを掴む。
「あれを頼む」
「……加減はできませんよ?」
「いい。 本気で殺そうとかかったぐらいがちょうどいい」
「了解しました」
ガイドがそういうと、記憶が流れ込む。
オーバーヒーリング。
これを当てれば大きくダメージを……
俺は、距離を話しながら時間を稼ごうとするが、突如、後頭部に衝撃が走った。
「殺しちまったか? 今度こそ」
「硬さには自信があるんでね」
「よう言った。 後2、3度は殺してやる」
「どうだかな」
どういう事かはわからない。
あいつの身体がそこにあるのに、後頭部を殴られた。
そして、それ以上にまずいことに気がつく。
「おいガイド」
「なんでしょうか?」
「この魔法、手加減のしようがなくないか?」
「えぇ。 確実に殺せますね」
「……やめだやめ。 お前他に何かないの?」
オーバーヒーリング。
過剰な治癒を行うことで細胞を死滅させる魔法。
1回目は夢中だったから気がつかなかった。
なるほど、そんな感じね。
「他……特に、ふむ。 待ってて」
口調の突然な変化に違和感を覚える暇もなく、俺は攻撃を避ける。
頭を振り、右拳を避けると、嫌な重圧から俺はさらに頭をずらした。
「へぇ。 その直感は親父譲りか」
鈍重な風切り音とともに、俺の目の前を奴の右拳が通り過ぎていく。
「空間移動……腕だけの」
「よーくわかったじゃないか。 どうだ? 避けられそうか?」
ガイドが俺の手元へ戻り、触れる。
別の魔法のインストールが始まる。
「あ……あぁ。 それは、魔法なのか?」
「固有魔法。 とは言うが、今の時代全ての魔法が再現できる時代だからなぁ」
「固有……魔法?」
「その人しか扱えない魔法のことだ。 お前にはまだ早い」
「……そうか。 それで、見たこともないわけだ」
「時間を稼げば勝てるのか?」
「バレてるのに仕掛けないのか?」
「ふふっ。 質問を質問で返すんじゃねえ」
メルトンが足を振り上げると、俺へ向けて振り下ろされる。
その足は、地面にできた黒い影に飲まれるのが見えた。
なるほど、そうやって。
俺は大きく前はステップする。
後ろで地面が破裂する音が聞こえる。
「そこは死地だぜ?」
「お前のな」
俺は、インストールが終わった魔法を繰り出す。
クラッシュヒール。
メルトンの顔は一度ひしゃげる。
そして、すぐにそれはまた元に戻った。
「隙だらけだぜ?」
俺は、何度も拳をぶつける。
その度に男の体から小さくよろける。
だが、すぐに腕が掴まれた。
「……お前、その魔法。 いや、その前にチェックメイトだな」
俺は逃げようとするが、その腕は離されることはない。
攻撃を仕掛けようとしても、体幹をずらされ避けられる。
そして、こちらはガードできない角度で攻撃を当てられ、地面に叩きつけられる。
痛い。
怖い。
だが、俺にはもう1つ別の強い感情が生まれていた。
殺してやる。
「おいおいどうした? もう終わりか?」
「……」
「だんまりかよ。 そーら」
俺の身体はが宙に浮き、壁に叩きつけられた後、立たされる。
もう痛みは感じない。
「お前が降参するまで続ける」
この感じ、前にも何度か覚えがある。
そう、身体が軽くなっていって、周りがよく見えるんだ。
何をすればいいかも、見えてくる。
嫌な音が聞こえた気がする。
俺の身体を前に進めることで、掴まれた腕が無理な方向に力がかかった。
そして、折れた。
痛くはない。
そして、近づいた分変な顔をするメルトンが滑稽だ。
「ガイド。 さっきの魔法いいね」
「……ええと。 その腕は大丈夫ですか?」
いつのまにか、腕は解放されている。
俺の身体が、俺の意思から離れていく。
勝手に動く。
折れた腕を振り回しているのは俺じゃない。
メルトン!! 逃げろ。
その声は声にならず、別の声にかき消された。
レム。 ダメだよ。
こんな楽しい遊びを終わらせたりしないよ。
「急に雰囲気変わったな。 レム」
「僕はラムだよ。 おじさん続けようよ」
「ラム……? そうか。 そう言う事か」
「そう言う事だよ」
「その腕で続けるのか?」
「腕? あぁー」
俺の腕が爆ぜ、元に戻った。
「へぇ。 痛みはあるんだ。 回復魔法のくせに」
「狂ってやがる」
「そう? おじさんこそおかしいんじゃない?」
俺は……否、俺の身体は、笑いながら、剣を取り出した。
空間から、それを抜く。
その魔法は、銀行からお金を取り出すもの。
その剣は、親父の剣。
「長いね。 これでどうかな」
よっ。 という掛け声とともに、剣の長さがナイフ程度のものとなった。
「……レム。 恨むなよ。 殺しにかかるぞ」
「無理だよ。 おじさんじゃあ僕は殺せない」
俺の意思を離れた身体は、メルトンとの第2ラウンドを開始した。




