指を千切り契りを交わす
さて、一旦落ち着こう。
俺は出された茶をすすりながら考える。
なぜ、カドワキは上機嫌なんだろうか。
そういえば、そうだったな。
俺、この組織に入るって言う流れだった。
いや、待てよ。
ここ、悪の組織だろ?
勇者の息子が入っていいものなのか?
「〜〜と言うわけなんだが……おい、聞いていたか?」
「あぁ。 聞いてなかった」
「……まぁいい。 お前に求めるのは戦力だからな。 目の前の敵を倒すことに集中してくれればいい」
「なぁ。 そもそも、この組織は何をする組織なんだ?」
「何をって、暴力団だからな。 裏の仕事はなんでもだ」
「悪い、言い方が悪かった。 王の暗殺について教えろ」
「噂程度でいい。 聞いたことないか?」
「何を……」
「この国の王が、禁忌に手を染めようとしている」
「初耳だな」
「意外とアンテナが低いんだな。 まぁ、所詮噂……そう考えていたんだがな」
「どう言うことだ? まさか」
「黒だ。 それもドス黒い」
「詳しく教えろ」
「……この国を実験台として、非人道的な研究が行われている。 この写真を見てくれ」
投げ渡された写真には、1人の男。
「クレイン……」
「知っているのか。 優秀だな。 そう、クレインだ。 からの写真は最近撮られたもの……つまり、こいつは今、この国で生きている」
「知ってるよ……こいつとあった」
「何!? どこで」
「第2学校の地下で」
「……何かされなかったか? 奴は何をしていた」
カドワキは、動揺が隠せていない様子だ。
「潜在魔力を引き出す研究をしていた。 俺は特に何もされていないよ」
「潜在……そうか。 太古の魔女の犬がまだ生きていて、そんなくだらない。 にわかには信じがたいが、そうか、お前会ったのか」
「あぁ。 研究は終えているとかいっていたが」
「残された時間は少ないと言うことか」
「なぁ。 禁忌って?」
「いくつか想定されているが、強制的に人体を強化した兵士を作るだとか。 人間爆弾だとか……まぁそんなところが想像されてるな。 だが、あのクソ研究員が関わっているとなると……」
「それで済むとは思えない?」
「あぁ、記録に残っているものだけでもクレインの研究はひどいものだ。 もちろん、それによって今の生活が豊かなんだが。 皮肉だな」
俺は言おうか言うまいか悩んでいる。
だが、今言わなきゃ手遅れな気がした。
「なぁ、月の涙って知ってるか?」
「月の魔物は強力で、それを支配出来れば空の支配者となる。 たしかにクレインの最大の研究だが、足りないものが多すぎる。 それはないだろう」
「月の石なら、もう向こうに渡っている」
「月の石か。 たしかに必須だが。 それだけではない。 多大な魔力を操ることができる者が、今現在、存在していない。 だから、物理的に無理なんだ」
「他の条件は?」
「堕ろすだけなら、魔力問題をクリアできれば可能だ」
「……正直、今の話を聞いただけでは、王がそんなことをしようとしてるなんて信じられない」
「クレインを見てるのにか? よほど王に親しくしてもらったんだな」
「親しくと言うほどではないが、良くしてもらったし、悪い人には見えなかった」
「悪い人には見えない……ね。 くくくっ」
カドワキは笑いを抑えきれず、大きな声で笑い出す。
「失礼、意外に幼稚な判断をするんだなと思ってな。 知ってるか? 今起きている戦争は、あの男が率先して起こしているんだぜ? この国を見ろ。 戦争で疲弊をして、貧富の差はこんなにもひろがっている。 俺にも、正義感もクソもあるわけじゃないが、生まれ育った……この愛した国を終わらせたくはない」
その声は震えている。
声は大きくなったり、小さくなったりしながら言い切り、黙った。
「王を殺さなきゃ……そうしなきゃ本当にダメなのか? 王の娘とも友達だからかもしれない。 死んで欲しくないんだ」
「…………甘いな。 その甘さで、お前の大事な者が死ぬぞ?」
「守れる自信はある」
「まぁ、お前は強いよ。 俺の仲間になるっていうのは、その場しのぎだったんだろ?」
「え? いや、そんなことは」
「ごまかす必要はない。 そんなことをしてまで、エミリアを守ろうとしたんだから、お前は強いさ」
「……どうも」
「1つだけ、人生の先輩からアドバイスさせてくれ。 本当に守るべきものを見失うなよ。 後悔は後からしかやって来ねえんだから」
「本当に……守るべきもの」
「まぁ、お前はガキだから。 今はそれでいいんだと思うけどな」
「はっきり言ってくれ。 俺は、今のままじゃダメなんだろ」
「はっきり言うとお前、傷つくぜ?」
「良い。 男は傷ついてなんぼだ」
「ふん、よく言った。 なら言ってやる。 お前は、王の娘と友達だから、王は殺したくないって言ったな。 どうしてだ?」
「それは、そいつを悲しませたくないから」
「違うな。 自分が可愛いからだよ。 王を殺すことでそいつに嫌われたくないんだ。 憎まれたくないんだよ。 お前は」
「それは、そう……かも」
「本当にそいつが大事なら、そいつに憎まれてでもやらなきゃならないことはある。 もちろん、殺さないで済むならそれがベストだけどな。 わかるか?」
「……あぁ。 それでも殺したくない」
カドワキの言っていることは正論だ。
たしかに、俺はあいつに嫌われたくない。
でも、それ以上に、殺したくないんだ。
「……まぁ、そりゃそうだ。 なら、それが出来るくらい強くならなきゃな」
「うん。 俺、頑張るよ」
「……さっきまで、俺を容赦なく殺そうとしてきやがった奴が、まさかこんな良い子ちゃんとはな……おい、指出せ」
「え?」
「いいから」
カドワキは、懐からナイフを取り出すとそれで自らの指を切る。
「何を……」
そのまま俺の指を取り、ナイフを引いた。
だが、指は切れない。
「おい、どういうはだをしてんだおまえ。 おら!!」
カドワキがナイフを振り落とし、指を切ろうとする。
その瞬間、ナイフが折れた。
「どう言うことなの……うーん」
「指を切ればいいのか?」
「あぁ……」
それならと、俺は指を噛み切る。
「お前、根性あるね」
「そうか? それで、どうすればいい」
「ほら、貸してみろ」
カドワキと俺の指が触れ合う。
血と血が混ざり合う。
「これは……」
周囲から拍手が聞こえた。
リーダー格や部下達だ。
「これで、俺たちは血の交わした兄弟だ。 よろしくな」
「え? えっ……あぁ。 よろしく」
「なんだよ。 あんまり嬉しそうじゃねえな」
「いや、唐突だから」
「俺たちの家族になったんだよ。 だから、お前のことはみんな助けてやる。 お前の大事なものも。 王も、殺さないでやる方法を探すか」
「いいのか?」
「お前がもっと強ければ、1人でやれたんだろうがな。 お前はまだ弱い。 ならどうする?」
「強くなる」
「時間は待ってはくれないよ。 だから、俺たちに頼れ。 みんなならきっとやれる」
「…………ありがとう」
「まだ礼を言うには早いぞ。 さぁお前ら、今日はパーティだ。 料理と酒を持ってこい」
俺は、本当の意味で信じることができる仲間ができて嬉しかった。
ここは、とても居心地が良かった。




