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暖かい戦い

「今どこへ向かってるんです?」


 エミリアが歩きながらたずねてくる。


「寮を出て、右、角を右、まっすぐ、左、右だな」


「いや、そういうことじゃなくて」


「どこか寄りたいのか?」


「いえ、ただなにも準備をしていないようなので」


 手ぶらで向かうのは危険だ。 といったところか。


 状況を想定しきれない以上、行き当たりばったりになるのは仕方なかろう。


「なにも心配するな。 上手くやればきっとなんとかなる」


「……はぁ」


「こいつ大丈夫か。 みたいな顔やめろ」


「いえ……あ、着きましたね」


 そこには、いかにもという雰囲気を漂わせる建物がある。


 大きな建物だ。


「まぁ、ここで間違い無いだろうな。 ここまできたら後戻りはできないだろう」


「私と関わった時点で後戻りできるタイミングを失ってますよ。 本当にいいんですね?」


「くどい。 俺がそうすると決めたんだ。 なにが起きても、後悔しない」


「そうですか。 頑張ってくださいね」


「なんで他人事なんだよ。 お前も頑張るんだよ」


 そんな話を入り口の前でしていたら、人が出てくるのは当然のことだろう。


 黒服が、2人現れる。


 前衛的だと思ったのは、ドアが自動ドアであること。


「さっさと入れ。 入り口の前でおしゃべりとは呑気な奴らだ」


 なんて、黒服に言われたしまった。


 ぐうの音も出ない。


 中は、普通だった。


 いろいろ斜めなものを期待してたんだが。


「おぉ。 エレベータ」


「へぇ。 エレベーターを知ってるんですね」


「あぁ。 前世の記憶がな」


「ほう。 面白い冗談ですね」


 なんて話していると、お尻を蹴られた。


「黙って歩け」


 そう黒服に怒られると、少し表情筋が痙攣する。


「我慢ですよ」


 エミリアに小声でそう伝えられる。


「あぁ、我慢我慢」


 俺は、小声でそう返した。


 最上階にたどり着く。


 最上階といっても、3階だが。


 適当に廊下を歩かされると、広い室内に、その男は待っていた。


「……朝早くから感心だな。 それとも、ルームメイトの彼女に早く会いたかったのか?」


「……あいつはどこだ?」


 部屋内には、ナギサの姿は見えない。


「念のため、場所を移していた。 が、抵抗の意思がないようで良かった。 お前も、あの子も殺さないで済む」


「……あいつを連れてこい。 でないと、エミリアは渡せない」


「先にエミリアを渡せ。 主導権は俺にある」


 カドワキと俺はにらみ合う。


 だが、このままでは時間がいたずらにすぎていく。


 その沈黙を破ったのは、エミリアだった。


「仕方ないですね。 レムさん。 プランBです」


 そう言いながら、彼女はカドワキの元へ歩いていく。


「エミリア、戻れ」


「しかし、」


「いいから戻れ!!」


 エミリアは、俺とカドワキ。 その中間地点に足を止める。


「なぁ、レム……くん。 君は、なんたってその子を庇うんだ? 俺たちがなにをしようと君には関係ないだろう。 それとも、女の子だからか? それでは差別だ ではないか?」


「そうだな。 でも、俺のエゴでもいい。 なんか渡したくないから譲れないんだ。 それは、だめなことだと思うから」


「……話にならないな。 なら、人質を消して、君にも危害を食らわせてやろうか」


「それも、させない」


「どうやって?」


「お前を潰してでも止める」


「……それでは人質を守ることはできない。 そんなこともわからないバカなのか」


 そうだ。


 人質が別室。 あるいは、そもそも別の場所に囚われていることを考えれば、俺は手出しできない。


 考えろ。


 今、俺ができることを。


「取り引きだ。 お前の望むものを言え」


「……取り引きか。 それは、差し出すの物に価値を相手が認めた場合、成立する。 俺は、お前になんの価値も見出せない」


 取り引き自体には乗ってくるのか。


 なら、価値を示せば。


「俺は、強い。 だからそれを差し出す」


 相手の顔が一層真剣になる。


「なら、見せてみろ。 ちょうど、力のある者を探していたんだ」


 突如として、俺は、首を掴まれる。


 カドワキが、高速で接近し、首を絞めたのだ。


 そのままの勢いのまま、窓から2人は外へ放り出された。


 割れたガラスが光る。


 そのまま地面に叩きつけられた俺をクッションに、カドワキは着地をした。


「こんなものか?」


 カドワキは手を離し、服についたガラスを払う。


「……面白い。 おっさんを倒せばいいわけだな」


「そうなるな。 出来るならだが」


「分かりやすくていいな」


 俺は、カドワキに近づくと拳を振るう。


 しかし、彼に全ていなされ、蹴ろうとあげた足と逆の、軸足を払われてしまう。


「無駄が多いぞ」


 カドワキはそう言いながら、魔法の球を俺に撃ち込む。


 間一髪で避けるが、かすった髪がチリチリと焦げた匂いをあげる。


「くそっ」


 そう悪態をつきながら顔を上げると、半身を逸らしながら立つカドワキの背中に、五つの魔法の球が配置されていることに気づく。


 まさか、あれが自由な軌道で動くなんてことないよな。


 俺は火炎を繰り出し、相手に流し込む。


 まさか死にはしないだろう。


 それを目くらましに接近し、拳を叩き込もうとする。


「第1世代か。 魔法を知らんようだな」


 そうカドワキが言葉を放つと、魔法の球の前に、炎が渦を巻いて、やがて消えた。


 俺は、前へ進む足にブレーキをかけ、一旦距離を置こうとする。


 が、それに合わせて、奴は接近してきた。


「ほうら、逃げきれてないぞ」


 カドワキの動きは見切れる。


 拳をいなし、奴の重心をずらす。


 隙が見えた。


 そう思い、拳を再び固める。


 その瞬間、カドワキの背中の球がこちらに一斉に撃ち出された。


 俺は、それをスライディングで避けることができた。


「なるほど、そういう仕組みね」


 そう呟く頃には、次がすでに装填されている。


 あれは、射出タイミングが自由な装填式の魔法弾。


 着弾した場所から見て、おそらく超振動による熱といったところか。


 それで、炎も消されたんだな。


「避けるのだけは達者だな。 だが、そのままでは勝てんぞ」


 肉弾戦だけでも負けてるのに、あんな魔法の使い方までされたら、勝ち目が薄いか。


「そうだな。 こっちも攻めてみるか」


 振動が武器なら個体で殴ればいけるか。


 俺は相手の頭上に氷を出現させ、それをそのまま落としながら、距離を詰める。


 相手は油断からか、それを避けることはせず、2つの球を使い氷を受け止める。


 2つの別の方向から力が加えられた結果氷は砕けるが、球も両方とも消えた。


 それを確認する頃には、両手に氷柱のを待ち、それを鈍器のように振るう。


 しかし、当たらない。


「さっきよりも大雑把だぞ」


 その間に、カドワキは新しい球を装填することはなかった。


 こちらが攻め続ければ、新しく装填することはできないのか。


 リーチは現在、こちらに分があるため、奴から攻めてくることはないが、こちらも、攻めきることが出来ない。


 あの球を撃ってくれれば攻めれるのだが、相手もバカではない。


 俺は、氷を上に投げて、炎を巻いた。


 相手は、それを1つの球で吸収する。


 球は固形を破壊するのに力を使うようだが、炎を消すだけではその姿を失わない。


「無駄だとわからんか」


「いや、これでいい」


 上から水が降ってくる。


 両者の体が濡れる。


「これは、溶けた氷?」


 カドワキがそう言う。


 そして、その頃に俺は、雷を纏っている。


「あぁ、そのための炎。 そして、それからの雷」


「……物は使いようか。 だが、油断したな」


 カドワキに残された弾は3つ。


 それらが、別の方向から、1つの目標に向けて放たれた。


 これでは避けようがない。


 だが、避ける必要はないと判断した。


 歯を食いしばれ、堪えろ。


 2つで、ようやく氷の塊を壊す程度。


 耐え切れる。


 そう覚悟した瞬間、声が聞こえた気がした。


(やれやれ、もっと身体をいたわれよ)


 俺の身体は、羽のように軽くなる。


 俺や認識した方向とは別に動く。


 最低限の動きで弾を避けると、それはすり抜けたように見える。


「……それは、見事だ」


 俺の身体がカドワキに触れる。


 電気は、濡れた体に流れていき、カドワキに痛手を食らわせた。


「俺の勝ちだな」


「まぁ……いいだろう」


 カドワキは、横たわりながら、そう答えた。


 ……なんとか勝てたが、あの声は一体。


 気がつけば、周囲には、黒服達と、エミリア。 そして、ナギサが立っていた。


「おかえり。 ナギサ」


「……馬鹿。 ただいま」


 とりあえず、 良しとしますか。




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