尋問? 拷問? できるなら、質問
「お前、よく食うのね」
「タダ飯ほど喉を通る食べ物はありませんから」
「いい笑顔をするなっ」
「何故です? 食事はいいものですよ」
「そういう話じゃ……いやいい。 とりあえず……ひとけを避けるか」
俺は、周囲を見渡しながら、向かう先を探す。
「おや、食事の礼にと私を襲うんですか? いいですよ。 あなたになら」
「貞操観念が低すぎるだろ。 そうじゃなくて、お前のやらかしたこと、人前だと話しにくいだろ?」
「……そうですね。 ただ、ひとけのないところというのは、少々まずいです」
「どういうことだ?」
「私があなたを信用しきれてないということですよ。 まだ、出会って間もないですしね」
エミリアはそういうと、ファイティングポーズをとる。
アホか。
「それならこのまま衛兵に引き渡すだけだな。 国に逆らってまで助けてやったのに信用されてないのか」
「いえ、違います。 あなたの人間性は信用していますよ。 見ず知らずの私を助けるんですから。 それこそ、尊敬に値するほどです」
「なら、なにが?」
「第1に、あなたを危険に巻き込みます。 出会ったばかりの人に、それはやぶさかです」
「ある程度の危険なら、想定内だ。 これも何かの縁だろ。 巻き込めよ」
「……第2に、あなたの力を知りません。 中途半端な力と余計な正義感なら邪魔なだけです」
「で? なにが言いたい」
「あなたと食べる食事。 美味しかったですし、とても楽しかったです。 あなたが無類の良い人だからでしょう。 だからこそ、これ以上。 巻き込みたくないです。 私のこと忘れてくれませんか?」
「……そっか。 本気でそう言ってるなら、良いよ」
俺がそう言った時、暗い表情の中にあった眼の奥の光が消えたきがした。
まったく、素直じゃない。
「ありがとうございます。 じゃあ、これで私とあなたは赤の他人ということで」
「あぁ、ちなみにだが」
「……はい?」
「俺は、赤の他人を庇うほど正義の味方じゃないんでな」
俺は、彼女のその痩せた体を担ぐ。
「……そうですか。 …………本当におせっかいな人ですね」
「本気で言ってないなら、良くないだろ」
「ふふっ。 その通りです」
俺は、そのまま、道をかけ人のいない川のほとりまで駆けていった。
彼女の雫を切りながら。
「じゃあおい泣き虫。 事情を聞こうか」
「……泣き虫じゃありません」
「わかったよ。 で、事情を」
「泣き虫じゃありません」
「わかったって」
「本当ですか?」
「あぁ、お前は虫じゃない」
「泣いてないっていってるんですよ!!」
エミリアの拳が俺の顎に当たる。
大した筋肉のない少女の拳でも、良い角度で入れば効くもんだ。
「お前、手加減」
「知りません」
「……はぁ。 もういい。 で、国王暗殺の話を聞こうか」
「そうですね。 うーんと、一言で言えばスケープゴートですね」
「……詳しく」
「一つ聞いても?」
「何を?」
「ここって人通りは?」
「かなり悪い。 そもそも、ここを道として使用することがないからな。 釣りにしても時期が悪い」
「そうですか。 なら、ここで待っていましょう」
「待っているって、何を?」
「うーんと。 レムさんって、腕っ節には自信は?」
「世界最強の次に強いと思うぞ」
「……心配になってきました。 マフィアに4.5人に囲まれたら勝てます?」
マフィアだろうが人数を集めようが……だな。
「そもそも相手が人である以上、余裕だ」
「……まぁ、しばらくは大丈夫でしょう。 あ、来ましたね」
「うん? あぁ、あれか」
視線の先には8人のスーツの男。
あれがマフィアだろうか。
「すみません。 そうていより人数が多いです」
「誤差だろう」
マフィアがこちらへたどり着くと、ナイフや拳銃をこちらへ向けてくる。
「おい、その女を渡せ」
マフィアの1人、おそらくリーダー格だろう。
男がエミリアを渡すよう命令してくる。
「……なぁ。 ナイフはともかく、拳銃なんてこの時代にあるの?」
「あなた何時代から来たんですか? ありますよマガジンに魔力を貯めることで、安定した威力の魔法弾を射出するんです」
「へぇ。 なんだ魔力か」
「貫通力がすごくてですね。 2センチくらいの鉄板でも貫通します。 当たったら痛いですよ?」
「は? 2センチって」
「はい」
「……はい」
俺たちがマフィアをスルーして会話をしていると、流石に我慢ができなかったようで、リーダー格が怒鳴ってくる。
「てめぇら俺を舐めてんのか? おいガキ、その女を渡せっていってるだろ? 聞こえねぇのか?」
「やだね。 子供相手にムキになっちゃって。 カルシウム足りてないんじゃない?」
俺は、距離を詰めながらそう答えると、マフィアは、あっさりと引き金を引いた。
銃声は、以外にチープで、マズルフラッシュは、普通に火花が散った。
弾丸は魔力を圧縮しているのか、意外に硬くて、皮膚に触れると突き破り進もうとする。
だが、表皮は、それを許さず傷一つつくことはない。
やがて、行き場の失ったエネルギーは霧散した。
「……あいつのアッパーの方が痛えぐらいだな」
俺は涙目になりながら、必死に強がってみせる。
マフィアの男たちは、動揺を隠せないのか、お互いに目を向き合っていた。
その隙は見逃さない。
俺は、最も近い男の腕を掴み、銃を奪ってから地面に寝かせる。
「さて、試し撃ちだ」
そう言うと、寝かしつけた男に銃口を向ける。
もちろん、当たらないようにある程度のずらして狙いを定める。
持ち主の魔力を込めて撃つんだろ?
なら、俺が撃てばすごい威力になるんじゃないか?
そんな淡い期待をしながら、俺は引き金を絞った。
BANG
そんな破裂音とともに、右手で銃が弾けた。
「さすが俺、威力がダンチだ!!」
そう叫びながら、擦過傷のできた右手を抑え、止血をはかる。
だめだ、止まらない。
「馬鹿め、安全装置が外れてなかったか、全員囲め!!」
リーダー格がそう言うが、他の男たちは動くことができない。
「……お前ら全員、許さない」
後は、簡単だった。
戦意喪失した男たちの意識を刈り取る。
リーダー格を拘束し、尋問の準備を始めた。
「どうだエミリア。 俺、強いだろ?」
「確かに、でも馬鹿ですよね。 ほら、貸してください」
エミリアは、俺の右手を掴み、治療してくれる。
「回復魔法が使えるのか?」
「ちょっとした応急処置程度なら……はい、止血はできました」
「サンキューな」
「いえ、どういたしまして」
「さて、マフィアさん。 拷問を始めようか」
「……俺は何もしゃべらねえぞ」
「爪を剥いだり、歯を抜いたりしても?」
「痛みで吐くぐらいなら舌を噛み切って死ぬね」
「馬鹿か? お前のじゃない」
俺は、意識を失い横たわる男の指を掴む。
「おい!! てめぇやめやがれ」
「それは、お前次第だよ」
「……殺すぞ!! やめろ」
「はぁ。 わかったよ」
俺は爪に手をかける。
「わかった!! 俺の知ってることなら話す。 話すから、頼む。 その手を離してくれ」
「……なら、いいよ」
俺は、その手を離し、彼に近づいた。
「じゃあ、質問を始めるね」
その後は、リーダー格の男は、従順だった。




