痩せの大食い
月の魔物を地球に堕ろす、月の涙。
それは起きてしまうと、大変なことになるだろう。
でも、妙だ。
何故、この情報量で、月の涙と直結させる?
たしかに、筋道は通っている。
だが、他にも可能性はあるだろう。
メルトン、父の友だというが……いや、自分の友人の父親を無為に疑うものではないな。
「レム。 すごい話だったね。 気になるの?」
俺が視線を送ると、ナギサは返答をしてくれる。
「そりゃ、あんなことを唐突に言われれば、気にもなる。 なぁ。 君のお父さんは、一体何者なんだ?」
「うーんとね。 うーん。 これ、2人だけの秘密だよ?」
ナギサは手を重ね合わせながら、視線を逸らしながら言葉を続けた。
「元英雄なんだ。 勇者の仲間だったの。 いまは、戦争屋してるけど。 ちなみに、お母さんは戦争で亡くなったからもういないゾ!!」
「そうか。 それは悲しいな」
「……うん。 だから、寮がある学校が良かったんだ。 ルームメイトもいい奴だったしね」
「へぇ。 そりゃ、そのルームメイトに挨拶しとかないとな」
「お前じゃい!!」
「いてっ」
頭を軽く小突かれながら、ナギサの笑みに合わせ、俺は笑顔を作った。
ちなみに、レムのお父さんは?
そう聞かれるのが怖くて、俺は、急用が出来たと伝え、ナギサとは別れた。
とりあえず、城に向かう必要がありそうだな。
あの男が、王にどう話をしているかが気がかりだ。
戦争で妻を失い、人の醜さを見ている。
真っ黒だな。
最近の父の話を……いや、父に本当にあったのかさえ怪しい。
ドンと、衝撃を受け、不意に立ち止まってしまう。
目の前には、気だるそうな表情を浮かべ、目の下にはクマを浮かべた少女が倒れていた。
「すまん。 急いでいた。 立てるか?」
俺はそう言いながら手を差し伸べると、少女は、その手を取りながら、頼みごとをしてくる。
「匿ってくれませんか?」
衛兵が何人かやってきているのが遠目で見える。
追われているのか。 こういう時は、どこかに隠して、あっちの方に走っていった。
とでもいうのが最適なんだろうが、隠れる場所が見当たらない。
「とりあえず俺の後ろに隠れてろ」
少女は、その痩せたからだを俺の背に隠す。
衛兵がこちらにたどり着くと、身を構える。
「君は、レムくんだね。 その子を渡してもらえるか?」
「穏やかじゃないですね。 この子がどうかしたんですか?」
「その子は、王の暗殺を試みた疑いがあってね。 身柄を拘束するよう命令が出ているんだ」
王を暗殺だって。
「お前、そんなことしようとしたの?」
「事情がありまして……」
「ふぅん。 悪いけど、この子は俺が預かるんだ。 また近々引き渡すから、今日のところは帰ってくれない?」
「そんなわけにはいかないよ。 冗談はやめてくれ」
「力ずくでも?」
「そんなことになったら、君も拘束しなきゃいけない」
出来る出来ないは云々にしろ、この人たちも仕事だからな。
仕方ない。
「言ってみただけだよ。 ほら、逃さないように気をつけなよ」
俺は、少女はの首根っこを掴み衛兵に引き渡す。
「裏切るんですか? あぁ、信じたものから裏切るのはどこの世でも真理。 神よ、どこかにお出でならどうか私をおたすけください」
「うるさいぞ。 暴れるな。 レムくん。 ご協力感謝するよ」
「いいえ。 そうだ。 一つ伝え忘れたことがあった」
「ん、なんだい?」
「……あれ、なんでしたっけ。 まぁまた思い出したらということで」
「……? あぁ。 またどこかで」
衛兵は、少女を連れて歩いていく。
「あぁ、そうだ。 背中には気をつけて……だ」
衛兵の背中から大きな衝撃を与え、全員を気絶させる。
「とりあえずこれなら、俺は捕まらないだろ」
「ええと、助けてくれたんですか?」
「まぁな」
「ありがとうございます。 お礼は、大判小判がザックザクでお支払いを」
「いや、俺めっちゃ金持ちだから」
さて、追われてらこの子を置いて城に行くわけにもいかないだろうし、置いていくのもな。
ぬぅん。 どうしたものか。
とりあえず。
「お前、名前は?」
「はい。 私は、エミリアと申します」
「そうか。 俺はレムだ。 で、エミリア。 行くあてはあるのか?」
「実は、家も食い扶持もなくて」
「だろうな。 うちも寮だからな……とりあえず、飯か?」
「……助かります」
俺たちは、衛兵に見つからないように注意しながら食事をとることにした。
まさか、この貧相な身体に大量の飯が入っていくなんて、この時は思いもよらなかった。




