進行
俺の名前はレム。
今、対抗戦中止の通知を見ているところである。
どうも相手方の学校で奇妙なことが起きたとか。
騎士様にはもう事情聴取は受けた。 特に何も見ていないと黙視し続けたが。
戦争も今はまだ大人しい。
これほど長い間、静かだと何者かの思惑を感じる。
嵐の前の静けさとはいうが、これなら何も起きなければいいが。
「どうしたの? 考え事かい?」
ふと、紙から目をそらし、声の主を見つめる。
「んー? 何か、顔についてるかい?」
ナギサ。
こいつ、男のくせに無駄に綺麗な肌しやがって。
俺は、無言のまま彼の頬をさすった。
「えー。 こんな人前で恥ずかしいよ」
笑みを浮かべてくる。
なんで、警戒しないんだよ。
「はぁ。 で、これならどこへ行くんだっけ?」
「どうしようねー。 無計画のデートはお嫌いかい?」
「デートって……」
「デートだよ。 2人で遊びに行くなんて……ね」
「なぁ、なぎさ」
「なーに?」
「お前って……女だっけ?」
「確かめてみる?」
「いや……いい」
「ふふっ。 これで確かめるなんて言われたら、どうしようかと思った」
「ん? んー……そうだな。 時に、なぎさ」
「はーい。 どしたん?」
「お前何か恨まれるようなことしたのか?」
ナギサが、怪訝な顔をする。
「どうして?」
「……後ろを振り返らずについてこい」
「あー。 わかったよ」
俺は、人気ないところを選んで歩いていく。
道はだんだんと入り組んで行き、人気が完全になくなった頃には、囲まれていた。
「今回は一段と多いなぁ」
「今回は……ってことは、毎回囲まれてるのか」
「うん……いい加減にして欲しいよね」
コツコツと小気味いい音を鳴らしながら、1人の男が姿をあらわす。
「男と歩いているから、どういうことかと思えば、君は……なるほど、面影がある」
変質者を予想していたが、その予想を裏切るように正装に身を包んだ男が、こちらは顔を近づける。
「誰だよあんた」
俺は当然の質問をぶつける。
男は、その質問に答えることなく、空を見上げた。
「……なぁ。 ナギサ、こいつ何者なんだ?」
「えっと。 私の……元お父さんかな」
「元とは何だ。 唯一の肉親に向かって」
「うるさい!! その歳にもなって、仲間引き連れてストーカーしやがって。 やめてよね。 そういうの」
「親は子が心配なんだ。 ほら、仲間引き連れてらのが嫌なんだろ? これでどうだ」
パチンと男が指を鳴らすと、辺りから人の気配が消えた。
「そういう問題じゃ……」
ナギサの言葉を遮るように、俺が男に声をかける。
「あんたは俺を知っているのか?」
「……知っているよ。 私の親友の息子だからね。 だが、そんな君だからこそ、直接話しをしたくない」
「父を知っているのか?」
「……」
沈黙が帰ってくる。
俺はその答えに対し、無言ですねを蹴り上げた。
が、避けられる。
「お父さん。 そんな態度を取るなら、私も口をきかないよ」
「わかった。 俺が悪かった。 その子とも口を聞くから、だから代わりと言っちゃ何だが……」
「なによ?」
「昔みたいに私をパパと呼んでくれ」
「……お父さん」
「ノーーーー!!」
厳格そうな見た目とは打って変わって、なかなか愉快な人のようだな。
「で、俺の父を知っているのか?」
「うーん。 まぁ……な。 君は、ラムだっけ?」
「レムだ。 とりあえず、あんたの名前を聞いても?」
「ん? あぁ、名前を求められるなんて、久しいな。 メルトン。 君の父……アルからはなにも聞いてないのかい?」
「あぁ……なにも」
「そうか。 釣れないやつだ。 ついこないだも、初めて赤子を連れてきた時も。 魔王を倒す時でさえ、一人で決着をつけるようなやつだった」
「最近、父にあったのか? なにをしてた?」
「なにをって……だいぶやつれていたし、そういや妙なことを言っていたな。 俺には子供が2人いる。 なんて言ってたぞ」
「……2人? ありえん」
「浮気でもしてたか」
「もっとありえん」
「そうだな。 なにをしていた……か。 くだらない戦争を終わらせるためにある物を集めているそうだ」
「あるもの?」
「詳しくは知らん。 だが、手伝おうか問うたらな。 奴はこう答えた」
ゴクリと唾液を喉の奥に押し込み、次の言葉を聞いた。
「もう終わった」
「あの人は一体なにをしようとしている?」
「さあ。 息子であるお前が知ってるんじゃないのか?」
「潜在する魔力を引き起こす研究に心当たりは?」
「潜在する魔力……ルナストーン」
「ルナストーン?」
「文字通り、月の石さ。 月には多大な魔力があり、その石もにも、地球産の魔石とは比べものにもない魔力が含まれてる」
「つまり、多大な魔力が得られるのか。 それでなにかを」
「……だが、時期が悪すぎる。 もしかして」
「もしかして?」
「いや、そんなわけはない。 あいつがそれをする意味はない」
「何のことだ? なにを考えてる。 教えろ」
「……思えば、あの時から、あいつは。 もしかしたら……だが、月の涙を引き起こそうとしているのかもしれん」
「月の涙?」
「あぁ、かつて、魔王がまだ魔女だった時代、クレインの科学と魔女の圧倒的魔力が起こした大災害。 月の涙」
「……月の涙だと?」
「月の石は多大な魔力があるから、それを遊ばせておくにはもったいないだろ? 宇宙へ人は行き、それを求めた。 大航宙時代だ」
「月の石を求めてってことか」
「だが、うまくはいかなかった。 月の獣は……いや、魔獣だなあれは。 あいつらは地球のとは比べものにもならないほど強かった」
「だからうまくいかなかった?」
「そう。 だが、宇宙開発撤退後も、かの魔女は諦めなかった」
「月の石を?」
「いや、月の力を使うことを」
「なにを……したんだ?」
「わずかにあられた月の石を使い、座標を誘導することで、月の魔獣を地球へ落とす。 通称、月の涙」
「それを、父さんが?」
「さぁな。 まだ、足りないパーツも多い。 魔力は月の石で賄えても、科学力なんて……」
「……クレイン博士は生きているとしたら?」
「まさか、何千年と前の話だが」
最初はメルトンも笑ってはいたが……それは、すぐに消えてなくなる。
「王に用事ができた、君たちはデートを続けなさい」
そのまま、メルトンは城へむかった。




