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特別講義

 図書室は静かに利用しよう。


 そんな張り紙をよそに俺は特定の本を探す。


 クレイン博士……どこかで聞いたことがある。


 あの男が言っていた。 親父の名前。


 親父の依頼だというものだから見逃したが……親父が言っていた、俺が勇者の息子であることを黙っていろというのはどういうことだろうか。


 今はまだ謎の方が多そうだ。


 おっと、これか?


 手に取るのは良くある偉人の本。


 そこに書かれている名前は、クレイン・ビオロジー。


「おや、こんなところで会うなんて珍しいですな」


 俺は振り返る。


 声の主であるライル先生は、少しとぼけた顔でこちらを伺っていた。


「まぁ、気になることがありまして。 先生こそこんなところに何か用ですか?」


「こんなところって。 図書室は、誰がいてもおかしくない場所ですよ。 君がいたとしてもね」


 たしかに。 そう俺が返すと、先生は俺の手にある本についてたずねてきた。


「ドクタークレインですか。 復習なんて感心ですな」


「復習? 授業でやっていたのか。 多分寝てたな」


「君はそもそも来てなかったですな。 どうしましょう。 特別講義聞きます?」


「いや、いい。 要約してポイントだけ教えてくれ」


「一言で言うなら凶悪研究者ですかな」


「凶悪?」


「うーんと、場所を変えましょうか」


 先生は困り顔をしていた。


 場所は移り応接室。


 先生と二人きりだ。


「結局、特別講義になるわけか」


「あそこは、小声だったとしても目立ちますからな」


「あー……まぁいいや。 で、凶悪ってのは?」


「クレイン博士の偉大なる研究結果は、世界に大きな影響を与えたんですな」


「へぇ。 例えばどんな」


「ワールドウォー。 世界規模の戦争ですな」


「それで、凶悪?」


「研究に政治が絡めば戦争は当然のことですからな。 それだけでは凶悪とは呼ばれませんな」


 先生は、一口お茶を口に含んだのち、言葉を続けた。


「もともとは生物学の研究者で、人と獣と魔の違いに焦点を置いた面白い研究をしていましたな。


 彼は、魔法を使えるものと、使えないもの、その差に目をつけた。


 そこで生まれたのが、擬似再現魔法ですな。


 もともと、彼の時代では魔女と呼ばれる存在しか人間で魔法を扱うことができなかった。


 ちなみに、彼は魔女の元で研究を続けていたんですが、これはまた今度。


 魔女の支配の国と、魔女を恐れる国で戦争が起き、魔女は敗れ、しばらくの平和が訪れた。


 魔王と呼ばれる存在が現れるまで」


「その魔王は、何代目の魔王なんだ?」


「はい? それは初代魔王に決まってるんですな」


「一体、いつの話をしているんだよ?」


「そりゃあ、ドクタークレインは、大昔の人間ですからな」


 どういうことだ。


「今も生きている可能性は?」


「ほぼ、ありえませんな。 何千年と前の話ですよ。 ただ……」


「ただ……?


「彼の研究には、不老不死もありました。 まぁあの時代ですからな。 多くの人体実験を繰り返していたらしいですが、その研究が完成していればあるいは……どうしてこんな質問を?」


 心なしか、先生の目が輝いて見える。


「いや、なんでもないです。 ありがとうございました。 ちなみに、イデアという人に心当たりはありますか? そいつも、大昔の?」


「イデア……歴史には登場しない名前ですな。 あぁ、確か……隣国の騎士にそんな名前の女性がいたかと」


「……そう。 わかった。 ありがとうございました」


「いいえ。 レムくん」


 立ち去ろうとする俺を制止するように声をかけてくる。


「はい?」


「何かあれば、先生に相談するんですよ?」


「……考えときます」


 俺は、その場を立ち去った。




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