世界観の説明
俺は生まれた時から、前世の記憶を持っていた。
つまり、あのつまらなかった人生を忘れることはかなわなかったということだ。
だからこそ、よかったのか。
船の甲板に出ると、懐かしい風を感じる。
「どうだ。 気持ちいいだろう」
「あぁ。 なんだか懐かしい気がする」
「なに? そりゃあいい。 お前がこの地方にいたのは、まだ記憶もないような小さい頃だった。 それを懐かしいなんてな」
「そうだっけ? なんとなく覚えてるような」
はじめは、自我こそしっかりしているものの、上手く身体を動かすことはできなかった。
少し大きくなると、本に夢中になった。
この世界の本は、前世と違い、魔法が一般的であるため、色んな理論が載っており楽しかった。
もう少しすると、父に剣を教えてもらった。
ロングソードと、ダガーの使い方をそれぞれ教えてもらった。
秘密で練習して、その二刀流を使いこなした時、父は笑って褒めてくれた。
人に認められるのは初めてだったから嬉しかった。
もう少しすると、戦場に連れていってもらった。
そこで、実践を学んだ。
たくさん敵を倒すと、やっぱり褒めてもらえる。
それは、子供だったからなのか、それとも、普通に嬉しかったのか……わからない。
「ん? どうした……急ににやけて」
「え? 俺にやけてた?」
「かなりな。 おっ、レム。 あれを見てみろ」
レム……というのは、俺の名前だ。
レムナント・A・アルカイオス。
アルカイオスは父の名前。 そして、Aというのは、母の名前らしい。
父が指差す方向を見ると、丘の上に2匹の生物が見えた。
「あれは、魔物と獣か?」
そこには、ツノの生えたウサギと、スライムがいた。
この世界には、三種類の生物がいる。
人と、獣……そして、魔物。
また、それらが混じり合った混血種もいて、混血はかなり力が強くなるらしい。
魔獣や獣人、魔人など、人間からは、混血は迫害を受けている地域が多かったが、戦争で敵対すると、かなり強かった。
「その通りだ。 もう、違いはわかるみたいだな」
「まぁ、父さんよりも俺の方が本は好きみたいだしな。 もう父さんよりも頭がいいのかもな」
「はははっ。 これは頼もしい」
「本気にしていないな」
俺は、少し拗ねた気持ちになり、頬を膨らませる。
まったく、前世での頭脳、親父からもらったこの身体……そして、前の戦争で目覚めた力。
これらがあれば、もう足手まといにはならないのに、父は俺を子供扱いしてくる。
「それにしても、なんでまたルクセン王国に戻るんだ? あんなに嫌がってたのに」
俺がそう聞くと、父はにっ、と笑いながら答えた。
「それは、国の方が俺を恐れているのが悪いんだろう。 まぁ今回は、お前を連れて行かなきゃならん理由があるからな」
「理由? なんだよそれ」
「その話は後でな。 ほら、港に着くぞ。 荷物をまとめてこい」
「へーい。 今回は、足手まといにならないからな」
「さーて、どうだか。 見せてもらおうじゃないか」
「じゃ、ちょっとカバンまとめてくる」
「おうっ!!」
俺は、船室に戻り荷物をまとめる。
ハンカチはポケットに入れた。
その他荷物は、リュックに収納した。
「忘れ物は……よし。 ないな」
再びドアを開ける頃に、船は港に到着した。
心地よい潮風が、大陸への上陸を受け入れてくれているようだった。