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侵入

 道を進めば、風景が変わる。


 これまでの罠の多かった、明らかに人の手が入った道とはうって変わった。


 木材で補強された洞窟。


 まるでトロッコでも走り出しそうなその道は、急に気温を変え、俺を迎え入れる。


 寒い。 しかも薄暗い。


 おばけでも出るんじゃないか。


 そんな感想を持ちながら慎重に進んでいくと、これまでの道と比べ大きく異なることを発見する。


 罠がない。


 適当に進んだ時に限って罠を踏むのに、慎重になった途端に何も起きない。


 人生とはそういうものである。


 なんて感想を抱く頃には、明るくうるさい部屋にたどり着く。


 俺は、慎重に様子を伺うと中に2人、誰かがいるのを確認できた。


 女の子と、奇抜なおっさん。


 基本、可愛い女の子に目がいく性質の俺だが、今回はそのおっさんの奇抜さに負けてしまった。


 妙なちょんまげに、首に変な装飾品。


 それは、ペットが傷口を舐めないよう保護するアレに酷似しており、カラフルなのがうるさく見える。


 一方、女の子は金髪碧眼でビッチぽい感じだ。


 遠目では、会話をしているように見えるが、ここからでは何を話しているのかわからない。


 聞き耳を立てようとしてみつかってしまうなんて無能を晒すのは嫌である。


 なので、魔法でなんとかしてみようと思います。


 盗聴するためにはその1。


 音は空気の振動であるため、その振動を感知できるものを作れれば良し!


 真っ先に思いつくのは糸電話だが、糸のように柔軟性を持つ物質は俺の魔法のレパートリーにはない。


 なら水か空気かだが、ちょっとうまいことやれるビジョンが見えない。


 ん、無能かな。


 いや待て、まだその2がある。


 盗聴するためにはその2。


 バレずに近づく。


 光学迷彩魔法。


 光の反射をいい感じにしてなんやかんやする。


 多分これを強行すると、光り輝く俺が堂々とバレていくんだろうなぁ。


 落ち着けまだ3が……ない。


 詰んだ。


 何より、先程から魔法が使えない。


 ちょっとした爆発を起こして向こうから近づいてもらおうとしたのだが、よく考えれば地下ですることではないか。


 うーん。 このまま帰るわけにもいかないし。


 よしわかった。 最終手段だ。


 パチパチ。 パチパチパチ。


 おれは、拍手をしながらそこへ入っていった。


 当然、視線が注がれる。


「やぁきみたち。 なんの話をしていたんだ?」


 当然、向けられる銃口。


 それも、火縄やマスケットなのではなく、光線銃のようなやつ。


「何者でおじゃる?」


「銃を下ろせ」


 おっさんに向けられた光線銃は、チカチカとその身を光らせる。


 当たったら痛いやつかな。 もしかしたら死ぬやつかもな。


 しばらく、にらみ合いの時間が続き、沈黙を破ったのは、やはりおっさんだった。


「衛兵じゃないんでおじゃる? でも、好奇心だけで入ってこれるような場所ではないでおじゃる。 お前は何者でおじゃる?」


「人に名を聞くときはまず自分から。 それがマナーだろう」


「わしを知らないでおじゃる? なら名乗らせてもらうでおじゃる。 世紀の発明家! クレイン博士でおじゃるよ」


「クレイン博士? 」


 俺はそう聞き返しながら、目線を女の子の方に移す。


 この子もこいつの仲間なのだろうか。


 目線を移したおかげが、目が合う。


「あの、助けてに来てくれたんですか?」


 やけに甲高い声から警戒の色が見える。


「助けに……?」


 言うと俺は視線を、クレインに戻した。


「何でおじゃる? 裏切りでおじゃる。 ひどいでおじゃる」


 激昂をするクレイン。 涙目の女。


 それに挟まれる俺。


 どちらも嘘をついているように見えないが。


 さてどう立ち回るか。

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