脱出
もう一つの魔法、根性。
それは、奇跡と呼ばれる聖職者が扱う力に近いものがある。
効果は簡単だ。
ものすごい力で上を目指して駆け上がる。
やり方はもっと簡単だ。
神に祈る。
「もしも神がいるのなら、この俺を助けてみろ!!」
詠唱は済ませた。
あはは。 後は登るだけ。
丸太に足をかける。 これを蹴って上へ飛んでいく。
繰り返す。
よっしゃ登れた!!
って思うじゃん。
さてここで実際の映像を確認しよう。
俺の足は丸太にかかっている。
ここまでは理想通り。
膝を曲げ、強く蹴る。 このまま自分が……
現実は、身体が上へ飛ぶことはなく。 正確には、多少浮くのだが上へは登れない。
そして、下を確認すると、休息で落下を始める一つの丸太。
「あぁ、そう。 そっちが張り切るのか」
そして、丸太が氷山に触れ、弾けた。
「うっわ。 割れてる。 痛そう」
最初のジャンプで大きく飛び上がっていたため、高度は十分。
俺があの丸太のようになるのは時間の問題だ。
奇跡が起きるのを待ちながら、落下に身をまかせると視界は上に移る。
そこに移るは閉まる床。 先ほどの落とし穴がゆっくりと閉じようとしていた。
「待て。 いま脱出の方法を考えるから、もう少し開いててくれ。 あぁ、止まらない」
無情。 あぁ無情。
閉じる落とし穴がミゼラブっている間にも落下は続く。
詰んだ。
そう思われた。
「あれ、俺なんで横向いてるんだ?」
意識が飛んでたのか。 そんなつもりはなかったがふと気がつくと、空中で直立している。
身体が軽い。
空中にはもう丸太はない。
自身の体は氷山に到着する。
繰り返す。 丸太はもうない。
俺の跳躍ではあそこまでは届かない。
右足を振り上げる。
ん。 ちょっと待て、そんな操作はしていない。
身体が勝手に。 無意識に動く。
かかと落とし、氷山は砕ける。
サーマソルト。 空中で体をひねり氷を上に蹴り飛ばす。
むき出しになった針山には頭から落下する。
ただ掴み一つを追ってから針先につま先で立つ。
膝を少し曲げ一気に飛ぶ。
先ほどよりも跳躍が大きい。
しかし当然届かない。
今度は氷の礫に足を乗せる。
いやいやそれは無理だろう。 さっきの見てなかったのかな。
声に出ない。 うーん。 なんだろう。
超集中……ゾーン的な。 あるいは、洗脳、別人格。
まったく自由に身体が動かせない。
力が入らないまま。 礫が蹴り出された。
今度は氷が動かない。
俺の体は飛んでいく。
次々と礫を蹴ることで閉じる穴に近づいていく。
おぉ。 流石は俺の無意識。
だが、現実はミゼラブル。 間に合わない。
穴は閉じていく。
だが、俺の無意識は諦めない。
右手に折れた針がある。
当然投げる。
よし、穴に引っ掛かれ!!
プスリと、刺さる。
閉じた穴に。
そう、間に合わなかった。
そうそうするうちに、天井に到達する。
針に向かってからを繰り出す。
天井が壊れる。
俺の足は壊れない。 骨折しない。
ゴリ押しで開いた穴から脱出成功する。
いえい。 なんとかなったぜ。
「うまくいったな……あぁ、喋れる」
気がつけば、身体は自由になっていた。
「なんだったんだ今のは。 まぁいい、先に進もうか」
道の前後がわからなくなっていないか。
すでに罠が起動している方が来た道だからこっちだな。
歩くと気がつく身体の重さ。
うぅ、辛いなぁ




