登校
「あれ、今朝は早起きだね」
目を覚ますと、食事の用意を行うナギサが目に移る。
一応、毎日顔を合わせたい入るが、ずいぶんご無沙汰な気がする。
「うん。 今日は学校に行かなきゃだから」
「おやおや、来てくれるの? 学校に? 良いねぇ。 あ、朝ごはん、君も食べてくよね?」
「お、おう。 いただきます」
「お粗末……簡単なものしかないけどね」
食卓には、二人分の食器が置かれる。
温かいスープにパン。 バターは湯で温めたバターナイフで塗るようだ。
サラダには、油分を含んだドレッシングがかけられている。
色とりどりで食欲をそそる。
祈るような挨拶をしてから、二人で食事を始めた。
「うまいな。 毎朝これを作ってるの?」
「うん。 そうだよー。 誰かさんは朝起きは苦手らしいけどね」
「へぇ、そんな奴がいるんだ。 なんか親近感が湧くな」
「君のことだよっ!!」
俺は、驚いたような顔を見せる。
「どおりで」
「もう……」
ナギサが頬を膨らませながら、パンを俺の口に押し込む。
パンはやや大きいため、口に入りきらず加える形になった。
「はぐ、ふむふむはうは」
「いや……押し込んで申し訳ないんだけど、飲み込んでから喋ってよ」
ナギサがそういうので、俺はよく噛んで飲み込む。
「飲み込んだ?」
ナギサがタイミングを見計らい言う。
「あぁ」
「で、なんて言ったの?」
「はぐ、ふむふむはうは」
「いや、そう言うのいいから」
「そっか……」
「なんでちょっと悲しそうなのさ」
「いや、面白いかなって思って言ったのに、ウケが悪いから」
「それくらいでしょんぼりしないでよ」
「あぁ……しょんぼりなんて、なぁ。 しないよ」
「えぇ、君ってちょっとめんどくさいところあるね」
「そっか。 めんどくさいか」
俺は笑いながら返した。
「なんで笑ってるの!?」
「いや、ナギサが俺のことわかってきたようだから嬉しくて」
「急にポジティブになったね……もう、君って本当に常識破り」
「ん、食器貸してくれ」
お互いに食事が済んだようなので、ナギサから食器を受け取る。
「悪いね」
「いや、俺の方こそ、ご馳走になった」
食器を流しに持っていき、一度置く。
さて、当然スポンジも洗剤もない。
どう洗おうか。
「そういえば、今日はどういう風の吹き回し?」
「なんの話?」
口を動かしながら、蛇口をひねろうとする。
が、やめる。
水なら魔法で出せばいい。
その発想に至れるあたり、やはり俺は天才か。
「学校、今日に限ってなんで行こうと思ったのかなって」
ナギサは、椅子にべたっと座りながら、足を振りながらこちらを向いている。
「先生との約束でな。 来なきゃいけないんだ。 まぁ、たまには行ってもいいかなって」
「あーね。 ふふん。 まぁ対抗戦やら文化祭やらイベントは盛りだくさんだからね。 これから忙しくなるんだよ」
そうだな。 水球を作って皿を入れれば洗えるだろうか。
水流を作って摩擦をかければピカピカになるだろう。
名案だな。 それでいこう。
「へぇ。 そりゃ面倒臭そうだな」
俺が水球を空中に作り出すと、それを遮るようにナギサが大きな声を出した。
「えぇ!! めんどくさそうってなに? 面白そうじゃなくて?」
水球は形を崩して下へと落ちていく。
途中で止まることができたため、床を濡らすことはなかった。
あと少し反応が遅れていたら、床はびしょびしょだったことだろう。
「いや、面倒そうだろう。 そんなことなんでやるんだ?」
「なんでやるんだって、クラスの連携を強めるためとか、自分たちの成果を確かめるためとかじゃない? 就職にも響くだろうし、何より楽しいよきっと」
俺は、再び水球を型取り食器を入れながら答えた。
「なるほどな。 まぁ、意味あってやるわけか。 どのみち来させられるってことはやらされるんだろうな」
中で渦をいくつか発生させ、乱回転させることで汚れを除去する。
「……それ便利そうだね」
「ん? あぁ、これ。 ほら、ピカピカだぞ」
「ほんとだきれいだね。 よし、とりあえず学校行きますか」
「ん? あぁ、こんな時間か。 まぁでも、まだゆっくり向かっても良さそうだな」
「そだね。 ダラダラしながらいこっか。 学校ついたらレムのことこき使わなきゃ」
「お前なぁ。 よし、行ってきます」
「あはは。 行ってきます」




