報告
「ただいま。 これ使えなかったぞ」
俺は、コンパスを王様に投げつける。
それは、王の足元に転がり、王が拾い上げる。
「おいおい、これはなかなか貴重なアイテムなのじゃぞ?」
「いや、ダンジョン内で使えなかったぞ」
俺は肩を落として王に訴えた。
「使えてたまるかい……まぁいい。 で、何が手に入った? ダンジョン報酬は?」
王の目が輝いているように見えた。
それと対照的に賢者の顔が曇る。
「あぁ、こいつがいたよ」
俺はそういうと、懐から1つの書物を取り出した。
そう、ガイドだ。
「それは……ガイドか?」
王はそう言いながら賢者に目を当てる。
そうすると、賢者が答えた。
「そのようですね。 たしかにアーティファクトですが、あまり珍しくはないですね」
「はっ!? そーなのかー?」
俺はそう驚愕すると、ガイドに目を向ける。
「はい、実はわたしは珍しくはないです。 ですが、なかなか高レベルですよ?」
「そうか、高レベルか。 えと……どこらへんが? 声優が豪華とか?」
「いや、そもそもですね……」
ガイドが言葉を続けようとした瞬間、何人かの驚きの声がそれを遮る。
周囲を見渡せば近衛兵の方々や王、賢者が驚愕していた。
「ちょっといいですか? その……ガイドを調べさせていただいても」
賢者が聞いてくる。
「ん? いいのかな? どうだ、ガイド」
「どうだとは。 マスターがよろしければ私はそうしますが」
「いや、そりゃダメだ。 自分の意思で決めろ」
「あの……私ただの道具なんですけど」
「喋るのに?」
「喋るのにです」
「そう……だな。 今はただの道具かもな」
「はい。 ただの道具です」
「……で? どうなんだ」
「どう……とは?」
「見せてもいいの?」
「この流れで理解できませんか? あなたが決めてくださいよ」
「ガイドよぉ。 道具と生き物を分けるのはなんだと思う?」
「さて、何でしょう。 やはり、生まれた境遇、あるいは、作られた目的でしょうか」
「……あの人は見たいようだ。 お前は嫌じゃないんだな?」
「えぇ、嫌でも良しでもありません」
彼女は頑なだな。
彼女、というのは声が女のものであり、もちろん書物には性別はないだろうが。
「賢者さん。 構わないそうだ。 くれぐれも丁重に頼む」
「わかりました。 それでは失礼」
ガイドは賢者の元へ飛んでいく。
ゆっくりとさすったり、凝視してみたりしている。
心なしか、本が赤くなって見える。
小さく息づかいが聞こえる。
賢者が、舌を出しガイドに近づける。
「て、おい。 何しようとしてるんだい?」
「いや、解析ですから……味を」
「いらないだろ」
「いりますよ。 むしろ、1番重要です」
「ガイド……帰ってこい」
「はい。 舐められたら人生おしまいですからね」
「ちょっと違う!!」
一悶着あったが、賢者様の腕はたしかなようである程度の解析はできたようだ。
「ガイドとしてはトップクラスの性能ですね。 そして、付与魔法がされています。 前任者がよほど大切に扱っていたのでしょう」
「へぇ、お前ってすごいんだな」
「えっへん」
「 ですが、ガイドとしてはすごい……とだけで、特別レアなアーティファクトではないですね」
「へぇ、お前ってすごくないんだな」
「がーん」
「で、そのエンチャントって?」
「どうやら、声のようですね。 喋れるようにしてもらった。 という感じです」
「なるほど。 わざわざ女声にねぇ」
「なっ、なんですか」
前の主人の趣味がよくわかる。
「他には何もなかったのかのう? 」
王がここぞとばかりに聞いてきた。
「魔石なら適当にもらってきたぞ」
「いや、アーティファクトが他にあったじゃろう?」
「いんや? なかったぞ。 なぁ、ガイド」
「え? あぁ、実はですね。 マスターが倒したゴーレムいるじゃないですか」
「うん。 倒したね」
「あれがそうですよ」
「へー。 だ、そうだ。 ごめんな。 王様」
「ごめんじゃないぞーい」
玉座の間では笑いがこぼれた。




