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至高の一撃

 8階層。


 夢で見た場所。


 ワープする奴があることから、まだ先があるのだろうが、俺の目的はここにある。


「このデカブツ。 動かないな」



 ある程度近づいても反応はない。


 動く様子がないため、自然に手を伸ばし身体を撫でる。


 硬く、冷たい。


 ただの岩人形か。 魔力が途切れて動かなくなったのだろう。


「そんなことよりも、ガイドだ。 ガイド」


 俺は、ゴーレムに背を向けて、書物に手をかざす。


 書物と手が触れた瞬間、その空間に淀んだ魔力が活動を再開した。


 空気が澄み渡り、呼吸がしやすくなる。


「おはようございます。 マスター、遅かったですね」


「これでも急いで来たんだけど」


「そうなんですね。 そうだ、私の横にあったゴーレム。 あれちゃんと壊しました?」


「うーん? どいうこと?」


 ドシンと、低い地鳴りが聞こえる。


 大きく横に飛びこむと、俺がいた位置は大きく凹み、その先に目を紫に光らせたゴーレムが構えていた。


「こういうことです。 いやあお見事」


「そういうことね。 うわあ強そうだ」


 俺は、武器を構えてゴーレムを見据える。


 こういうデカブツは動きが鈍いと相場が決まっている。


 よく見て対応すればいかに一撃が重いとて、問題はあるまい。


「ガガガゴォ!!」


 ゴーレムが雄叫びをあげる。


 それに竦みそうになる身体を奮起させ、攻撃に備える。


 ゴーレムの一歩目、その踏み込みはゆっくりとしている。


 よし、やはり動きは緩慢だ。 これなら問題は防御だけか。


 そう思った瞬間、脳裏に死のイメージが訪れる。


 はっ、とした瞬間、俺は大きく飛び退いた。


 ゴーレムの攻撃をギリギリでかすめながら、その巨体を見つめる。


「は、早いじゃねえか。 大きくて、硬くて、強いなんて反則だろ」


「あれ、ゆっくりだと思いました? あれは、錬金術師の岩石人形、通称ゴーレムです。 魔力供給が続く限りはあの通りの強さを誇ります」


 ガイドが、ふわふわと浮きながらそう答えた。

 どうやら、無事なようだ。


「誇りますて……まぁでも、魔力さえ供給できなければいいんだな? 持久戦か?」


「いえ、相対する場所が最悪ですね。 ここは魔王のダンジョン。 供給魔力は無限とは言えなくとも、それに近いかと」


「はっはーん。 するってえとなんだ。 こいつは無敵か?」


 ガイドと会話を続けながらも、ゴーレムの攻撃は止まない。


 軽い魔法程度を直撃させても、その動きを緩める様子はない。


 物理も魔法も効かず、避けるので精一杯の動き、かつ直撃を許せば即死……チートやこんなん。


「そうですね。 本来何十人の魔力供給で動かす決戦兵器ですので、単騎で立ち向かうのは無謀かと」


「それでも、なんかないの? 熱に弱いとか……固そうに見えて、メンタルがやたらナイーブとか」


「はははっ。 冗談を言っている余裕があればまだいけますね」


「おいいいいいっ!! これでも必死なんだよ」


 幸いなことに、ゴーレムの動きは直線であるため、予備動作を見きれば回避は可能だ。


 だが、それでもこのままでは疲労で回避しきれないかもしれない。


 何かミスを犯すかもしれない。


 持久戦はダメだ。


「そうですね。 魔力を供給するための装置がどこかにあるはずですので、それを破壊できればあるいは」


「どこかってどこだよっ!!」


「それは、作成者によって違うので……あ、でもゴーレム単騎ですので魔法の援護や修復魔法は行われません。 ので、頑張ってください」


「ちっくしょ。 供給装置だな……やってやる」


 今までは距離を取るように避け続けていたが、腹を決めてからは逆になる。


 相手の懐に飛び込むように攻撃を避け、ナイフで切りつけ魔法を打ち込む。


「おおっ。 見事」


 そして、一瞬で跳びのき距離を取る。


 ヒットアンドアウェイ。 ただし、魔法や斬撃はダメージはおろか、傷1つつけないが。


 避けた後、ワンテンポ遅れて、ゴーレムは抱きつくそぶりを見せる。


 あれに抱かれたら骨や肉はブロークン不可避だろうな。


「だめだ。 固すぎる。 これなら殴った方が早いかな」


「拳が砕けなければそうですね」


「うーん。 だよなぁ」


 相手は、硬く重い岩で出来ている……か。


 重さを利用するなら、高さ。


 硬さを利用するなら、圧力か。


 この閉鎖空間で高さを利用するのは限界がありそうだ。


 天井を見上げて、距離を目算しても、8メートルあるかないか。


 なら、圧力で砕くしかないかな。


「圧力(Pa)=面を垂直におす力(N)÷力がはたらく面積(m2)」


「算数の時間ですか?」


「まぁ、そんなところだ。 見てろよガイド。 上手く言ったらたまげるぞ?」


「おおっ。 それは楽しみです」


 小さく、細いもので、最高の一撃を。


 あるいは……もう1つ。


 この場にある至高の一撃を借りるとしようか。


 一息を飲み込んで、俺は、覚悟を決めた。


「さぁ、こいや。 デカブツ」


 呼応するように、ゴーレムがこちらへ向かってくる。



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