超既視
魔獣の拳が地に影を作る。
それを間一髪で避けるが、地響きを起こし行動を制限される。
揺れる環境は踏み込みを甘くさせ、次の攻撃への反応を遅らせる。
拳を避けるのに精一杯になれば、魔物の魔法が被弾する。
かすり傷程度だが、積み重ねれば塵のようなダメージもやがて山となる。
「ええい。 うっとおし……それ、まさかだよな」
魔族にちらりと視線をくれると地面に光が見えた。
魔獣の拳と同じ光。 よく見れば避けた箇所、拳の叩きつけられた所が光っている。
行動制限か、まさか爆発なんてしないよな。
「はははっ。 そんなまさかー」
見たところそれが何かをするところはない。
それよりも振られる拳が脅威であまり意識も割いていられない。
対応する色の拳を合わせれば爆発なんだろうな。
俺の意識は爆発の恐怖に染められる。
「……あーっ。 怖えぇ」
魔獣に剣で傷をつけると、表面にわずかに傷をつけ流血させる。
血が流れているならば、まぁしばらくは流させていればいいだろう。
それよりも、だな。
魔族の魔法を誘導し、地の光に当たるが変化はない。
「ほいっと。 あれー。 これ、ただの照明なんて……ないよな」
やがて、地が光に染められていく。
その間、攻撃をかいくぐり魔獣に血を流させる。
攻撃を避ける。 魔族はあえて倒さない。
飛来する魔法を誘導して魔獣に当てるためである。
その魔法で魔獣が怯むときと怯まないがあるがなんだろうか。
その答えは傷だらけの魔獣が教えてくれた。
傷口に魔法が当たった時だ。
考えてみれば、それもそうだよな。
普段硬い表皮で守られているから、頑丈なんだ。
だったら、その鎧を剥いで直接攻撃を与えれば、それはさぞ痛いことだろう。
魔獣の拳が振り下ろされる。
それを見送りながら最小の動きで避ける。
そして、傷に刃を滑りこませようとする。
これで、まずは一体。
そう思った矢先。
意識が飛んだ。
ーーこの映像は一体なんだ。
身体の感覚はない、自分が勝手に動いている。
集中がピークに達し、いわゆるゾーンの状態にでも入ったか。
思ってた通りに身体は動いている。
魔獣の身体を剣が捉え、倒そうとする。
その瞬間、爆発が起こった。
朦朧とする意識の中、それに気がついた。
これは、光か。
先ほどの地の光が案の定爆発したようだ。
身体は吹っ飛び、胸から下が無くなる。
そうして、意識が奪われていき、周囲が黒に染められた。
その後に、覚醒する。
意識が戻ると、魔獣の攻撃を避け攻撃を加える直前であった。
俺は、とっさにその場から離れる。
そこに、大規模な爆発が起きた。
その爆発に飲まれて魔獣の身体が崩れていく。
「自爆のように見えたが……あれはぷよぷよかな」
同じ色の光が4つ並ぶと、それが1つに収束して爆発。
その威力はあの硬い魔獣が一撃で倒されるものだった。
「ぷよぷよ……いつも一人でフィーバーしてたな。 じゃなくて、なんだったんだ。 いまのは」
未来予知だろうか。
だが、あの感覚は確実にそれを体験していたような。
強烈なデジャヴュと例えれば分かりやすいな。
なんて、集中を切らしている場合ではないか。
残る魔獣と魔族を片付けて、ガイドの元にたどり着かなければ。
爆発で起こる砂埃の中から、魔獣が現れる。
それに反応が仕切れず、拳で身体が吹き飛ぶ。
という体験をした後、同じシチュエーションで、攻撃を避ける。
「ははっ。 なんだこれ。 面白い」
その後、何度も攻撃を予測しては、避け続ける。
こうなれば誘導するのは簡単だった。
地を殴らせて、光を並べ、爆発を起こす。
一体、また一体と魔獣を屠りながら、全てを倒し、魔物を一掃する。
「はぁっ。 はぁっ。 魔力がだいぶ削られてるな。 先が見えない以上、乱発はできないが……こんな楽しい力、使わずにはおれようか」
その後も、二階層、三階層と突き進んでいく。
それは、実にイージーだ。
敵を全て倒し、ワープ装置を起動すると、次の階層に進む。
そして、ある階層にたどり着いた時、そこは空気が違っていた。
「はぁー。 疲れた。 けど、ここでいいんだよな」
そこは、夢で見た場所。
1つの本と、そして、植物と岩で作られた大きな生物。
動く石像……いや、ゴーレムか?
とりあえず、ここのボスってことで良さそうだ。
「ふふん。 この力があれば、負ける気がしないな」
正直な話、調子に乗っている。
それが自分でもわかっていた。
それが、命取りになるということは、これまでの経験で知っていたのに。




