魔王のダンジョン
「全く、授業を自由参加にしている意味わかってます? わざわざ出席して眠るなんて無駄だと思いませんか?」
今は、全授業の終了後。 ライル先生からお叱りを受けているところである。
この人あれかな、合理主義で、無駄が嫌いとかなのかな?
「いやぁ、でも先生の授業は熟睡できるんだよ。 だから無駄じゃない……だめ?」
ライル先生は、呆れたような顔でため息をついた。
くそっ、ハズレか。 確かに、無駄が嫌いな人がわざわざこんな説教するわけがない。
「あなたは、わたしが怒っている意味を分かってないようですね。 違いますか?」
「えっと、無駄なことをしていると、今後の人生で損をするから……」
「いいえっ。 違いますっ!! 私が怒っているのは、私の授業で居眠りをされたことに腹を立てているからです」
うわぉ。 まっこと正直ぜよ。
感情的に怒っている人が自分を正当化させるのは見たことがあるが、まさかこのパターンは初めてだ。
「ていうと、今後先生の授業を真面目に受けるか、そもそも来なければいいって話?」
「そういうことですね。 そもそも、うちのクラスの人間は、演習を行うことなく即従軍が可能なレベルの人が集まってます。 下手をすれば上位の人は……特にあなたなんか、もう私よりも強いんですから。 自分が正しいと思ったやり方で成長していけばいいんです」
「そのやり方が分からなければ、どうしたらいいんだ?」
「そのための授業なんですよ。 そして、授業を受けるということは、少なくとも講師を巻き込むということです。 あなたのエゴでね」
「確かに、そういうことになるね」
「でしょう。 そして、自分のエゴに人を巻き込むなとは言いません。 ただ、巻き込むなら最低限の礼儀は尽くすべきだという話です。 わかりましたか?」
「その覚悟がないのなら、関わるなってこと?」
「はい。 他人に責任を果たせないなら、他人から逃げて生きていきなさい。 1人で生きるのなら、誰にも迷惑はかからないでしょう」
「ふぅむ、そのための自由登校か……先生、いい人だね」
「これが普通でなければならないのですよ。 本当は……」
「そうだね。 今回のことはごめんなさい」
「はい。 いいですよ」
「そう、怒られついでで悪いんだけど、一つ聞いてもいいかな?」
「うん、なんでしょう?」
「魔王のダンジョンって知らない?」
ライル先生の表情が険しくなる。
先生は、国の周辺地図を取り出すと、俺に見せてくれた。
「どうせ、調べれば出てくることですから教えます。 ここがルクセン王国です。 わかりますね?」
「うん。 それはわかるよ」
「そう、ちょうどこの辺りですね。 ここに、それはありますよ」
地図に赤い丸を描いてくれる。
「じゃあ、この地図を見れば分かるね。 ありがとう」
言い終えると、先生は地図を俺から遠ざけた。
「ただで渡すわけにはいきません。 1つ、約束をしてください」
その表情は真剣で、まっすぐこちらを見つめている。
「その約束、してもいいけど守とも限らないし、その地図なくても、大体の位置でいくよ?」
「させません。 断言します、あなたはここへは確実にたどり着けない」
「約束をしなければ?」
「はい、そうです」
面倒だな。 いったい何を言われるのか。
「とりあえず、約束の内容だけ聞くよ」
「明日、授業をサボらないこと。 明日は確実に参加してくれることが約束です」
「……あんた。 ほんとうにいい人だね。 感動したよ」
「ならっ」
「わかった。 約束するよ。 だから、その地図をくれ」
「……分かりました。 信じてますよ、レムくん」
ライル先生が、地図をくれる。
ダンジョンというぐらいだから、危険があるのだろう。
それも、魔王のダンジョンだ。 その危険は計り知れない。
だけど、信じてくれてるんだ、応えなきゃな。
「あぁ、その信頼、裏切らないよう頑張るよ」
俺は一言言い終えると、その足でダンジョンに向かった。
魔王のダンジョン挑戦開始だな。




