トラックに衝突
「おいおい、またあいつ来てるぜ」 「なんか日本語じゃない本読んで……見せつけてるのかな?」
「はいはい、俺たちはどうせバカですよ」
「どうせ私たちを見下してるんでしょ」 「本当に嫌味ね」
これは、いつもの授業風景である。
母親がうるさいため、家よりマシかと学校に出てきて読書をする。
それが、クラスメイトには嫌味に見えるらしい。
まぁ、お前たちを見下していることだけは本当だけどな。
「おい、お前。 やる気がないなら帰れよ」
クラスのいわゆる不良と呼ばれる人種が、話しかけてきた。
その喋り方には知性を感じないが、だからこそ暴力に訴えてくるかもしれない。
俺は、できる限り相手を挑発しないように答えた。
「なんだよ。 どこにいようが俺の勝手だろ」
「あぁ? 何調子乗っちゃってんの? なぁ、お前ら聴いたか?」
「おいおい。 武、言われてんじゃねえか」
「どうする? やっちゃうか?」
武と呼ばれたリーダー格の他に2人。
群れなきゃでかい声も出せないくせに。
「……帰ればいいんだろ?」
くそっ、声が震える。
こんなはずじゃないのに。
俺は、立ち上がってカバンを持つ。
そして、武たちの横を通ろうとした時、止められた。
「おい、まてよ。 お前、調子に乗ってないか?」
武が、俺の肩に手を置いて睨んでくる。
くそっ、誰か助け……てくれるわけもないよな。
まぁいいか。 ちょっと殴られて、金を取られたら終わり。 簡単だ。
俺が殴られたぐらいで、心配する奴もいないだろう。
「ちょっとやめなさいよっ!!」
甲高い声で静止が入る。
誰だろう。 女子だが……残念ながら、クラスメイトの顔はいちいち覚えてはいないし、わからない。
「あぁ。 なんだよ。 委員長はこいつの肩持つのか?」
武が苛立ちを隠すこともなく言い放った。
「違うわよ。 そんな奴……殴るあんたが可哀想じゃない」
はっ?
「ぷっくくく。 はははっ。 そうだな……そりゃそうだ。 さすが委員長、いいこと言いやがる」
くそっ。 俺はこんな女にまでバカにされるのか。
端っこの席のあの陰キャにまで笑わっていやがる。
許せねえ。 けど、今ここでことを荒げる方がバカだろう。
よし、俺は冷静だ。 落ち着いている。
「つぅわけだ。 天才くん。 帰っていいぞ……え? お前泣いちゃってるわけ?」
くそ、なんでだ。
涙が止まらない。
「あー。 天才くんかわいそー」 「いいんだよ。 どうせあいつだって俺たちをバカにしてるんだから」
「そうだな、おあいこだな」
みんな、好き勝手言いやがる。
授業中だってのに、教師も何も言いやがらない。
「くそっ」
俺は武の肩を振り払って、逃げるように走った。
今更、家に帰るわけにもいかない。
どこへ行こうかあてもない。
だが、走るのをやめたら、自分が抑えられなさそうだった。
あぁ、あんなクズどものいない世界に行きたい。
俺は、そう願いながら走っていく。
周りを見る余裕はなかった。
だからこそ、気がつかなかった。
交差点に差し掛かっても警戒することはできなかった。
高速で接近するトラックに。
……どうして、こんな見渡しの悪いところで、徐行をしないんだ。
これだから、俺以外の人は愚かなんだ。
薄れゆく世界の中、最後まで、世界中がバカバカしく見えた。
ぶくま、評価ありがとうございます