捲土重来
第二夜【捲土重来】
「何か策はあるのか?」
なぜか、霞の勢いに押されて手を組むこととなってしまった四人。
翌日、昼間にある監獄の敷地内の広場での自由時間に話し合いをしていた。
脱獄に誘うくらいだから、何かしら考えがあるのだろうと思って霞に聞いてみれば、霞はぼけっとした顔になる。
「ない」
霞の返事の「な」のあたりで、すでに答えを察した鏡によって鳩尾に蹴りを喰らった。
お腹を抱えながら苦しそうにしている霞を気にもせず、他の三人で話を進めて行く。
「朧、お前何かないのか」
鏡が、この中では多分最も頭が切れるであろう朧に尋ねてみると、まずは何も考えていなかった霞のことにキレているらしく、眉間にシワが寄っていた。
それを奏が適当になだめていると、霞が復活して輪に加わってくる。
「そうだな。まあ、脱獄自体が無理難題。この馬鹿はそれが分かってんだか分かってねぇんだか・・・」
「え?馬鹿って誰だ?」
「ふぁあ・・ダメだ。眠い。朧が計画立てたら後で教えて」
つい数時間前まで寝ていたというのに、まだ眠たそうにして大きな欠伸をしている奏の首根っこを、鏡が掴んで足止めをする。
そして朧から簡単に計画を聞いていると、興奮したのか、急に大声を出した霞に、朧が霞の頭を鷲掴みしてブン投げていた。
看守が駆けつけてきたが、霞が一人で全力疾走して壁に激突したと話したら納得された。
「いつ実行する?」
「今日だろ今日!!」
「お前が脱獄したせいで、俺達だけなぜか見張りが強化されてんだよ。しばらく待つぞ」
「えー・・・」
というわけで、しばらく時間をあけることにした。
あれから一カ月ほど経った頃、ようやく霞に対する警戒も和らいできたのか、他の囚人たち同様の見張りとなった。
「よし、今夜決行だ」
霞に話すと、またどこかで暴走するかもしれなかったため、霞には話さずにいた。
相変わらず、いつ脱獄するのかなー、とまつで遠足とか運動会を楽しみにしている子供のような霞は、鼻歌を歌いながら寝る準備をしている。
就寝の時間になる前に、朧が動き出す。
「看守さんー」
「なんだ」
近くを通りかかった看守に声をかけると、檻から腕を出して自分を呼んでいる朧のもとへと近づいてきた。
朧が看守に声をかけた頃、鏡が霞に何か耳打ちをしていた。
「あと1分50秒で就寝時間だ。寝床につけ」
「看守さん、幾つだっけ?がたい良いよねー?やっぱり鍛えてるんだ?」
流し眼のような細い目を更に細めて話しかけると、看守は機械的に答える。
「歳は三十三、貴様等のような輩を相手にするんだから、鍛えるのは当然だ」
「だよね。大変なお仕事だもんね。なんでこんなところの仕事にしたの?」
「え、三十三!?もっと若いかと思った!」
朧と看守の会話に入ってきた霞は、看守の身体を触りながら、その鍛え上がられた感触を感じていた。
「貴様等のような愚かな人間に、心から反省させるためだ。おい、触るのを止めろ」
霞があまりに身体を触ってくるため、看守は身体を檻から遠ざける。
そして腕時計を見て時間を確認すると、朧たちに早く寝床につくように指示をしたため、四人は大人しく身体を横にする。
看守が去って行く足音を聞きながら、聞こえなくなったことを確認すると、もそもそと動き出す。
「奏が作った偽物の鍵と銃、いつバレるかな?」
この計画までの一カ月の間に、手先が器用な奏は、社会復帰を目指すための作業をしながら、看守たちが身につけている鍵や銃を精巧に作っていた。
鍵や銃に関しての大きさ重さ、共に鏡が実際に看守に近づいて触り、感触から推測した。
「俺の手捌きもプロ並みだろ?すり替えたことに全然気付かれなかったし!」
「プロ並みってか、お前すでに熟練されてんじゃねえか」
霞がスッた鍵で檻を開けると、キョロキョロと辺りを見渡し、近くに看守がいないことを確認する。
そして看守からスッた銃の方は、取扱いに慣れている奏が持っている。
このまま何も起こらずに逃げ出せれば一番良いのだが、そこは勿論当然上手くいくはずもなく、見回り中の看守に見つかってしまった。
だが、それもすぐに大人しくなる。
「鏡って怖いんだね。俺、怒らせないようにしようっと。朧も怖いけど」
武道に長けた鏡によって、鍛えられた看守たちもあっという間に気絶させられてしまう。
「でもなんで殺さないんだ?そっちの方が手加減大変じゃないの?」
「その場から逃げるのが目的なのに、殺す必要はない。時間が稼げればそれで良い」
「だってさ朧。さっきからそんな怖い顔しないでよ」
今にも霞を殺してしまいそうな形相の朧を落ち着かせながら逃げているのだが、なぜか、警報は鳴らない。
「囚人といえども、その就寝を妨げることはならない」
聞こえて来た声と同時に目の前に突如として姿を現したのは、髪の毛が結構乱れている男、翡翠だった。
すでに顔には擦り傷のようなものがあり、翡翠はぽけっとから絆創膏を取り出すと、その場で貼る。
「なんだ、またお前か霞。お前も懲りねえ野郎だな」
そう言われた霞は、まるで久しぶりに友達に会ったかのように手をブンブンと大きく振って返事をする。
「おーい!!俺頑張る!!こいつらと一緒にここから出るから!!!」
翡翠はそこにいるメンバーを確認していると、その四人の後ろに現れた男に舌打ちをする。
急に背後から熱さを感じて振り向いてみると、そこには青い髪をしたさらしを巻いた男、夕凪が立っていた。
手には団子を持っていることから、きっと食事の最中だったのだろうが、翡翠との会話からそれがおやつだと分かった。
「なんでてめぇがいるんだよ。俺一人で十分だ」
「胡蝶に言われたから」
ムスッとしている翡翠を他所に、夕凪は霞たちに向かって火を向けて来た。
それはまるで津波のように押し寄せてきて、朧、霞を掴んだままの鏡、そして奏はなんとか夕凪の攻撃を避けた。
しかし、そこにはすでに翡翠がおり、四人は一斉に床に叩きつけられてしまった。
「よし」
これで大人しくなっただろうと思った翡翠と夕凪だったが、いち早く体勢を立て直していた奏は、銃を構えて撃つ。
夕凪は銃弾を受けとめようとしたのだが、下手をすれば爆発しかねないため、風で方向を変えようとしている翡翠に任せることにした。
だがその銃弾は、翡翠と夕凪の前に現れた一人の男の身体に当たり、そのまま床へと落ちていく。
「・・・!?」
奏は残りの銃弾も同じようにして男を狙うが、男の身体には傷ひとつ付けることが出来なかった。
その男は、緑の天然パーマをしており、銃弾が当たった場所を摩って傷の具合を確かめていたが、無傷だろう。
翡翠か夕凪を狙おうとした奏だったが、それも出来なくなってしまった。
「夕凪、最大火力を許可する」
「おっけー。お任せあれ」
胡蝶からの指示が出ると、夕凪はこれまでの熱さとは比べものにならない火力を出し、奏の手にあった銃を溶かしてしまった。
あまりの熱さに、奏はすぐに銃を手放してしまい、鏡も抵抗を続けていたのだが、翡翠によって拘束されてしまった。
こうして無事に四人を捕えると、他の看守たちに檻まで運ぶように伝えた。
檻まで歩いている途中、霞が言う。
「あれが噂の花守かー!!初めて見た!なんかぬりかべみたいだな!」
「お前のその例えはなんだ」
「あーあ、失敗かー。残念!でも、まだまだこれからだな!!それにしても楽しかった!!」
あまりにポジティブな霞だが、朧な何かを考えている様子だった。
「胡蝶、なんでこいつを寄こしたんだ」
「くちっ・・・。翡翠一人よりも捕まえられる確率が高いから。ずび・・・」
「相変わらずの花粉症か」
「花守、うろちょろするの止めてって言ってるでしょ。その放浪癖早く直してよ・・・くちっ」
「動かざること山の如し」
「いや、山の如し、じゃねえだろ。動くなって言われてんだろ。なんで落ち着きねえんだよお前。山としての働きがなってねぇぞ。夕凪は何処行きやがった」
「夕凪は運動後の甘味摂取だってさ。・・・くちっ」
「てかよー、海行きてぇなぁ!!シュノ―ケリングしてぇなぁ!!!ついでに天パ直らねえかな!!!」
「うっせ。一生天パってろ、阿呆が」
「くちっ。あー、ティッシュの消費が激しい・・・。酷い現象だ。一年中花粉が酷い」
鼻を噛んでいる胡蝶は、目も真っ赤で涙目になっている。
戻って来てからずっと浮輪を腰にセットしている花守は、塩水を飲んで海にいるのだと自分に暗示をかけている。
動きすぎで肌も髪も痛めている翡翠は、ハンドクリームを塗って目薬もさし、セットしてもすぐに乱れてしまう髪の毛を眺めてため息を吐いていた。
その頃、夕凪は観葉植物に水をやっていたそうだ。
「朧」
「ん?」
「お前、何か次の手を考えてるんだよな?」
檻に戻ってきてからというもの、専任の看守がついてしまい、常に2人交代で見張られている状況だ。
なんとも居心地が悪いのだが、脱獄を試みてしまった報いだろう。
霞はすでに気持ちよさそうに寝ているが、戻って来てからもずっと何か考えている素振りのある朧に、鏡は聞いてみた。
奏もいつもの体勢で2人の話を聞いていると、朧は霞に近づき、思い切り頭を殴る。
驚いて起きた霞の胸倉を掴むと、看守に聞こえないくらいの声の大きさで、言う。
「てめぇ、俺が何か手はねえかと考えているってのにぐーたら寝てんじゃねえぞ、ああ?てめぇを生贄にすることだって出来んだからな?」
「い、生贄?」
「くそみてぇな顔して寝やがって、踏みつけてやろうか?てめぇの小せぇ頭蓋骨なんか粉々に出来るんだからな」
「く、くそ?」
「てめぇが言いだしたことだろ。最後まで責任もてねぇならその男の象徴引っこ抜いてやるからな覚悟しとけよ」
「朧、その辺で」
救出された霞は、鏡に慰められていた。
未だ感情が爆発しそうな朧だが、そのまま横になって寝た。
「怖い・・・朧怖い・・・」
「しょうがねえよ。お前が何も考えねぇお馬鹿さんだから」
「怖い・・・鏡怖い・・・」
「怖いのはお前の無謀さだけどね」
「・・・そりゃそうか!」
「「納得するな」」




