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月映え  作者: うちょん
1/5

鏡花水月


      登場人物


       翡翠かわせみ

       胡蝶こちょう

       夕凪ゆうなぎ

       花守はなもり

       玉響たまゆら

       玲瓏れいろう

       霞 (かすみ)

       朧 (おぼろ)

       奏 (かなで)

       鏡 (きょう)















 第一夜【鏡花水月】














 「脱獄だーーーーー!!!!」

 騒がしい音が鳴り響くと、重苦しい格好をした男たちが一斉に動きだす。

 「はっはっはーーー!!俺がついにやり遂げるんだ!!こんなところおさらばしてやるってんだよ!!!捕まえられるもんなら捕まえてみんさい!!腐れ看守共が!!」

 男たちとは異なる格好をした一人の男は、日頃から運動をしているからなのか、その鍛えた足腰で男たちから逃げようとしていた。

 そう、今男たちから逃げようとしている男は囚人で、追いかけている男たちは看守だ。

 ここは難攻不落とされている大きな監獄なのだが、そこから逃げようとしている者たちも当然いるわけであって。

 今逃げようとしている男もその一人で、看守をひょいひょいと避けながら逃げ切れると思ったその時、その男の前に、他の看守とは違う格好をした男が現れる。

 「げっ、きた!!」

 「人をオバケみてぇに言うんじゃねえよ、囚人の霞くんよぉ」

 ボサボサで黄土の髪にタートルネック、顔には絆創膏が至るところについている翡翠。

 翡翠は風にように動きが素早く、あっという間に霞のもとに辿りつくと、そこにもう一人の男がやってきた。

 その男は青のまとまった髪をしており、首から身体全体に巻いてあるさらしは服代わりでもあるらしく、上半身にはさらし以外の衣類を身に纏っていない。

 左目の下には、ホクロがついている。

 「お前は呼んでねぇっつの、夕凪」

 「胡蝶に頼まれたんだよ。お前だけじゃ心配なんだろうよ、翡翠」

 「ちっ。あの野郎」

 「あの野郎とは俺のことか・・・くちっ」

 「変なくしゃみしてんじゃねえよ、胡蝶」

 「花粉がすごくて・・・くちっ」

 「じゃあ、俺が仕留めていい?」

 「なんでそうなるんだよ」

 後から来た胡蝶という男は、橙のさらっとした髪に、なかなか綺麗な顔立ちをしている。

 背丈も他の2人より高そうだ。

 「はっはっはーーーー!!今日の俺様は一味違うのだ!!」

 「違うってよ。何がだ?」

 「俺に聞くな」

 「逃げ切ってみせるぜーーーー!!!」

 そう叫びながら、霞は一番弱そうな胡蝶を目掛けて飛びかかってきた。

 しかし、その攻撃をそのまま受けるような男たちではなく、翡翠と夕凪が、それぞれ風と火を起こして霞を閉じ込めたため、霞は動けなくなってしまった。

 「くっそーーーーー!!!こんなことになるなんて!!してやられたぜ!!」

 あっさりと捕まってしまった霞は、他の看守によって再びしっかりとホールドされた。

 「こいつ馬鹿?もう脱獄何度目だ?」

 ちなみに紹介が遅れてしまったが、霞は茶色の髪をしている、特にこれといった特徴のない男だ。

 「馬鹿じゃねえよ!!勢いで逃げ出せば逃げ切れると思ってたんだよ!」

 「勢いで逃げ切れるほど甘くないよ」

 「くちっ。俺戻るね。後よろしく」

 「だってよ!!1対3っておかしくね!?お前等それでも男か!?男ならサシで勝負しろよ!!!てか普通に人間にそんな変な力使うか!?」

 「おかしくねぇから。お前囚人俺達看守。なんで平等に勝負する必要があるんだよ。お前脳味噌洗浄してやろうか」

 「マジ?そしたら今よりマシになると思うか?実はお前等良い奴?」

 「やべ。夕凪、こいつ馬鹿だ」

 「連れて行け」

 夕凪に指示されると、他の看守によって霞は別の檻へと連れて行かれてしまった。

 「よし。一件落着だな。俺は団子食いに行くからな」

 「勝手に行け。いてて・・・またほっぺが擦れちまった」

 翡翠はポケットから絆創膏を取り出すと、すぐに頬のそこに貼りつける。




 翡翠は身体を風の如く扱う事が出来、夕凪は身体を火の如く扱うことが出来る。

 胡蝶は身体を林の如く扱い、もう一人は後で紹介することにするが、とにかく、彼らはこうした不思議な力を持つがため、看守として雇われている。

 一方、見事に脱獄に失敗した霞は、これまでいた檻とは違う、以前よりも暗い場所へと入れられてしまった。

 「くそっ。もうちょっとだったのに」

 全く以てもうちょっとではなかったが、霞は紙一重だったとでも言いたそうに悔しそうにしていた。

 換気口さえない、トイレがあるだけの部屋はとてもじゃないが居心地が悪くて、霞は鉄格子を両手で掴み、その間から顔を覗かせて次の手を考えていた。

 「さっきの騒ぎはお前か?」

 「え?」

 顔を動かして後ろを見れば、そこには3人の男がいた。

 一人は紫の髪が洒落た感じに分けてあり、目つきがあまりよろしくない。

 一人は耳にピアスをつけているピンク髪の男で眠たそうにしており、最後の一人は白の短髪でにこやかに笑っている。

 霞は鉄格子から離れてそちらに向かうと、途端に白髪の男に腕を引っ張られる。

 「え!?」

 勢いよく男の方へ倒れてしまったかと思うと、そのまま首を腕で締められる。

 苦しくて腕をバンバン叩いていると、他の2人は特に助ける素振りもなく、ピンクの髪の男に至っては欠伸をしていた。

 「ぐぐぐぐ!!!!」

 「うるせぇんだよ。てめぇみてぇな馬鹿がいるからおちおち寝てらんねぇんだよ、分かるか?分かったら返事しろ」

 声を発することが出来なかったため、霞は顔を上下に小刻みに動かして応えた。

 するとようやく腕を離してくれて、霞が苦しそうにゲホゲホしているにも関わらず、首を絞めてきていた張本人は笑顔のままだった。

 「けほっ。あんたら誰?てか、俺はここから逃げたいだけなんだけど!!何が悪いんだよ!」

 「で、結果逃げられたか?今日で脱獄失敗は何度目だ?言加減諦めろ」

 「嫌だ!諦めねえ!!俺は絶対、諦めねえ・・・!!」

 「「「・・・・・・」」」

 霞以外の三人は互いの顔を見合わせると、ため息を吐く。

 「なんか良い風に言ってるけど、何が悪いってそもそもここにいることの意味を分かってんのか?」

 「分かってるよ!なんてったって、俺前科13犯だし!」

 「ダメだ。こいつダメだ」

 呆れて何も言えないでいると、霞が看守たちのことを聞いてきた。

 翡翠、夕凪、そして胡蝶は、脱獄が発生した場合に現れるため、普段からウロウロと歩きまわって見張りをしているわけではない。

 4人目の名が花守であることしか分からず、どういった力があるのかもあまり知られていない。

 というのも、そもそもこの監獄で脱獄しようと試みる者などほぼいないからだ。

 ここに約一名その馬鹿がいるが・・・。

 そんな話を霞が一人でしていると、紫の髪をした男が口を開く。

 「翡翠と夕凪が主動だろうな」

 「え!?そうなの!?」

 「スピードや機動力に長けている翡翠は確実に獲物を捕まえられるし、攻撃力の高い夕凪はダメージを与えられる」

 「獲物?」

 首を傾げた霞に、ピンクの髪の男が言う。

 「君みたいな奴のことだよ」

 霞が納得していると、男は続ける。

 「胡蝶って奴の実力は分からないが、攻撃に関してはこの2人だろうな。多分、情報収集に長けてるとか、そういうのだろうな」

 「・・・ねえ、この人なんか頭良さげな感じがする。空気がそんなんだね」

 ピンクの髪の男にそう言うと、気だるげに壁に寄りかかりながら、両腕を頭の後ろに持って行き、足を組みながらずり下がって行く。

 「あいつ、キレやすいから気をつけなよ」

 「え、怖いの?嫌だよ俺」

 「ぶっ殺すぞクソガキ」

 「えええ!?急に!?なんで急にキャラ変えたの!?さっきまでの落ち着いた感じどうしたの!?」

 ひとまずその男を落ち着かせると、そもそも、あの4人がいること自体が、この監獄が難攻不落と言われている所以なのだから、脱獄は無理だろうと言われてしまった。

 それでも諦めきれずにいる霞は、立ち上がって鉄格子の向こう側を指さした。

 「俺は外に出たいんだ!!シャバに出て、お天道様の光を浴びながら、自由をこの手に掴み取りたいんだ!!!そのために、みんなで協力しようじゃないか!!!!」

 何か勝手に決意されてしまった三人だが、霞は決して折れようとしなかった。

 「俺は霞!強盗、窃盗、スリ諸々で前科13犯だけど、くじけてねぇぞ☆が売りの元気馬鹿です!」

 いきなり自己紹介を初めてしまったため、他のメンバーは無視をしていたのだが、霞が目をキラキラさせながら近づいてきたため、やれやれと話し始める。

 まずは、紫髪の男だ。

 「朧。前科8犯。主に詐欺。余罪はあるけどまだバレてない」

 次に、ピンク髪の男だ。

 「俺は奏、前科6犯で全部銃刀法違反。足がつかねぇ銃ってねぇもんだな。恐ろしいサイバー社会になったもんだ」

 最後は、白髪の男だ。

 「俺は鏡。前科はどのくらいかわからん。主に横領、密売、密輸・・・。政治家どものやってることと比べたら、可愛いもんだと思うけどなぁ」

 こんな具合で自己紹介が一通り終わると、霞はとても嬉しそうに言う。

 「よし!!!これで最強メンバーが揃った!絶対に此処から逃げ出してやろうぜ!!いくぞ!えい!えい!・・・」

 霞が元気よく拳を突き上げた為、一応、朧と奏と鏡も同じように拳を顔くらいまで上げてみる。

 そして声をそろえようとしたのだが、霞は誰より大きな声でこう叫んだ。

 「「「お「ばっちこーい!!!!」・・・え」」」

 叫んだものだから、看守に怒られた。

 「静かにしろ!」

 「すいまっせん!!!」

 元気に謝罪をした霞の背中を見て、朧たちには不安だけが募った。

 「大丈夫か?こいつ・・・」


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