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僕達の日常  作者: さきち
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内緒の話

今日は莉子の家で、彼女の手料理を食べながら話をしている。悪阻は大丈夫なのかと思ったら、サッパリしたものなら大丈夫らしい。今日のメニューは野菜と豚肉の重ね蒸しと、かきたま汁だ。私は胡麻だれで食べていたのだけれど、莉子はポン酢を使っている。

もちろん、莉子に合わせてアルコールは飲んでいない。お茶も、カフェインの少ないほうじ茶だ。

「結衣、ゴメンね。黒川さん、結衣の方だと思ってたんだって?」

緑川さんから話を聞いたのか、莉子はすまなさそうな顔で私を見詰めた。

「うん、なんかいつもと様子が違うなぁって思ってたら、青木さんに報告受けてたんだって。」

私は、病院から出て来たところを、青木さんに見られていた事を話す。

「迷惑かけちゃったね。」

「迷惑じゃないよ。」

「…だけど、正直助かった。黒川さんが愁に話してくれて。怖かったんだ…。」

「そうだよね。」

私には想像することしか出来ないけれど、凄く悩んでいたんだろうな…。

「青木さんの勘違いに感謝かな。」

そう言って莉子は笑った。あ、幸せそうな笑顔だ。

「…噂、広まっちゃったね。緑川さんの事。」

緑川 愁が社長の息子だという事と、莉子と付き合ってる事は、もうみんなにバレてしまっている。何故バレたかと言うと…。

「うん、本人も諦めてるよ。元々誕生日になったら、正式に後継者としてお披露目される予定だったみたいだから、少し早まっただけみたいだけど。幹部クラスは気付いてても、暗黙の了解で、秘密にしてただけらしいから。」

角切りのフルーツを摘みながら、莉子は言う。

「莉子、社長に土下座させたって噂があるよ?」

「…一緒にその場にいたから、知ってるくせに。」

「あれは、ビックリしたね。」

「うん。ビックリした。」

何故バレたかというと、あれは、莉子がプロポーズされた次の日、緑川さんから話を聞いていたらしい社長が、莉子に謝ったからだ。もう、土下座しそうな勢いで、愁が申し訳ない事をしたと。ご両親にも挨拶に行くからと。しかも、会社の廊下で他の人がいる前でだったので、社内中にあっという間に広まってしまった。


「そう言えば、どうだったの?挨拶行ったんでしょ?」

「美穂さんと愁のお父さんには、謝られたり、喜ばれたりって感じで。」

まぁ、そうだろうなぁ。何となく様子が想像できる。

「実家は?」

「…お父さん、ずっと黙ってて怖かったかな。愁も緊張してたみたいだけど、ちゃんと挨拶してくれたよ。」

それはもう、きちんとスーツを着て、丁寧に挨拶をしたらしい。もちろん謝罪も兼ねて。

「それで?」

「ずっと黙ってたのに、仕方なくなら娘と結婚して欲しくないって、お父さんが言ったんだ。子供も私達が育てるって。」

「それで?」

「愁は、結婚するのは私じゃないと嫌だって、仕方なくなんて、考えた事もないって言ってくれてね。」

「うん。」

「それで、やっとお父さんが納得してくれた感じ。本気かどうか、試したみたい。」

その時のことを思い出したのか、莉子はふっと笑う。

「お母さんは?」

「ああ、お母さんには、上手い事やったわねって言われた。ほら、玉の輿だし?知ってて付き合ってた訳じゃないんだけどって言ったら、アラ、運が良いわねって。」

「結構、サバサバした性格のお母さんなんだね。」

「そう、だから心配だったのは父だけだったんだ。」

「そっか、でも良かったね。丸く収まって。」

「うん、まだまだ、大変な事はあるだろうけどね。」

まぁ、私には想像も出来ないような事もあるんだろう。だけど、莉子の笑顔を見ていたら、大丈夫だって思えてくるから不思議だ。これが幸せパワーなのかな?


「会社辞めるんでしょ?引っ越しもするの?」

なんせ、バレてしまったのだから、仕方ない。莉子は、周りに気を使われるぐらいなら、辞めようと結論を出したようだ。今は勤めているけれど、引き継ぎが終わったら退社予定らしい。結婚は幸せな事なのに、寂しくなるのは嫌だなぁなんて思ってしまう。

「愁の実家と美穂さんのマンションの、丁度真ん中ぐらいの場所の予定。黄瀬さんに探してもらって、候補を絞り込んでいるところ。」

緑川さんの実家ではなく、二人だけで頑張ってみるらしい。あ、お腹の子も入れたら、三人だった。

「ここから遠くないなら、良いね。遊びに行くよ。」

来て来てと莉子は嬉しそうな顔をする。もちろん、行くに決まってる。

「今ね、美穂さんが愁を特訓してるんだ。」

「え、何の特訓?」

「家事。何も出来ないから叩き込むんだって。結構スパルタらしいよ?今日も下の美穂さんの家でやってると思う。」

「…あー、酷かったもんね、花見の時。」

「本当にね。」

あの時を思い出してしまって、顔を見合わせて笑い合う。莉子によると、美穂さんは始めが肝心だから、甘やかしてはダメだからと言っていたらしい。


ピンポーンとインターフォンが鳴って、莉子は席を外した。玄関から、聞き覚えのある声がする。噂をすれば…かな?

緑川さんがお皿を持って入って来て、いらっしゃい結衣ちゃんと言ってくれる。得意げに今日の成果だと見せてくれたのは、少し焦げ目のついた卵焼きだった。

「母さんたら、俺の卵の割り方までダメ出しするんだ。角でじゃなく、平らな所でヒビを入れろってさ。どっちでも良いだろって言ったら、初心者は平らな所で割った方が殻が入りにくいからって。割れ目を下にして割れとか、指示が細かくない?」

溜息をつきながら、緑川さんは愚痴をこぼす。

「…でも、正しいと思うよ?」

「そうだけど。莉子は角で割ってるから、俺もそうしただけなのに…。」

「でも良く出来てるじゃない。形も綺麗だし。」

褒められた子供のような顔で、緑川さんは笑う。莉子は、褒めて伸ばすタイプなのかな?私も見習わねば…。

「そう?やっぱり俺って筋が良いのかも!食べてみて!結衣ちゃんも。」

まだほのかに温かい卵焼きは、甘めの味付けで美味しかった。特訓の成果は出ている様だ。

「美味しい!」

「本当?」

「本当に美味しいよ!」

「俺って天才?」

「天才!次も何作ってくれるのか、楽しみにしてるね。」

「任せて!」


二人の会話を聞きながら、こうやって夫婦になっていくのかななんて考える。

花見の時の事を二人で笑ってた事は、内緒だよ。

いつもお読み頂き有難うございます。さきちです。

私的な用事で今週も忙しく、書く時間が取れないので来週もお休みさせて頂きます。申し訳ない!


前回、新しい話を書いていると言っていたのですが、投稿はもう少し後になりそうです。もう少し熟考したいのと、知識に自信が無いので、勉強する時間が取れたらなと思っています。

ではまた☆あなたが楽しんでくれています様に♪

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