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僕達の日常  作者: さきち
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密談

月曜日、僕はいつもより早く出勤した。計画している事を実行する為に。

初めて結衣と一緒に歩いて会社に向かった。いつもの様にカフェに寄り道していたのだけれど、早く行くと彼女に言ったら、じゃあ行きましょうと言う。ずらして出社しようとしたのだけれど、結衣は人少ないから大丈夫じゃないですか?なんて言った。どういう心境の変化なのか…。隣を歩く結衣を見つめて、その意味を考えてしまう。いや、今はそんな事を考えている場合じゃないと自分に言い聞かせる。


出勤するとデスクに青木がいた。丁度いい。

「おはようございます、黒川先輩。今日は早いですね。」

「おはよう。まぁ、ちょっとね。」

結衣のことを話そうかと思ったけれど、後で分かることだから、まぁいっか。

「青木、ちょっといいか?話があるから。」

「はい、大丈夫です。」

「それと、緑川先輩って、もうそろそろ来るよな?」

「そうですね、いつも早いから…。あ、来た。」

僕は背後を振り返る。挨拶をすると、緑川先輩は、笑顔で挨拶を返してくれた。

「…普通だなぁ。」

「ん?何が?」

「…緑川先輩、最近、変わった事ないですか?」

「ん?特に…ないかなぁ。」

「…やっぱりか。」

赤城さん、やっぱり話せてないみたいだ…。

「え?何?何かあったのか?」

「ちょっと一緒に来てください。資料室まで。」

「青木も。」


不思議そうな顔の緑川先輩と、何かを察した神妙な顔をした青木を引き連れて、僕は資料室に入った。誰もいない事を確認する。青木は人が来たら知らせてくれるつもりなのだろう、こちらの話に聞き耳を立てつつも、ドアの側で待機してくれている。


「先輩、単刀直入に言います。」

「うん。」

「赤城さん、妊娠しているみたいです。」

「…え?」

緑川先輩は目を見開く。

「青木が、産婦人科の病院から、赤城さんと結衣が出て来る所を目撃しています。」

「結衣に聞いたら、話してくれました。」

「……。」

彼は黙ったままだ。驚いているのだろう、無理もないけど。

「まさか、身に覚えが無いなんて、言いませんよね?」

「…う、失敗した。あの時かなぁ…。」

緑川先輩は頭を抱える。

「…失敗したとか、男子高校生じゃないんだし…。」

ボソリと青木は呟く。言うなぁ、青木。でも、同意見だ。

「ただ、赤城さんは、あなたに話していない。これがどう言う意味か、分かりますか?」

「…莉子は、不安に思ってる?」

真剣な顔で彼は、僕を見つめる。

「僕にも、彼女の気持ちは分かりません。だけど、言いづらいのは確かでしょう。それはあなたの立場のせいかも知れないし、先輩自身に不安があるのかも、僕には見当がつきません。」

「俺の何かが、莉子を不安にさせているのか…。」

情けないと、彼は溜息をついた。

「その不安を取り除けるのは、一人しかいません。どうしますか?」

「どうするって、決まってるじゃないか。」

ムッとした顔をして、先輩は僕を見る。見くびるなと言いたげな表情だ。

「…良かった。かっこ悪い、先輩を見たくなかったんで。世の中には、孕ませたクセに、責任を取らない男もいるんで、安心しました。ただ、今みたいな、狼狽えた姿は彼女に見せないでくださいね。」

「当たり前だろ?」

だけど…と少し考え込む様に、天井を見上げた先輩は思いを巡らせている。

「父さんと母さんには、怒られるだろうなぁ…。」

「赤城さんのご両親にもですよ。」

「…そうだよなぁ。」

先輩の表情が曇る。

「二、三発ぐらい、殴られる覚悟は、しておいた方がいいんじゃないですか?」

青木は冷静に指摘する。

「…それぐらいで済むかなぁ…。」

さらに不安そうな顔になった緑川先輩は、項垂れた。そして大きな溜息をつく。

「ほら!カッコ悪い所は見せないんでしょ?さっさと行って、安心させてあげてくださいよ。」

「え、今?指輪も用意してないのに…。」

「彼女の不安だった時間を思えば、そんなの、後で良いでしょう?」

悩む時間は、短い方がいい。それは僕の勝手な思いだけれど…。

「…確かに。不安だったんだよな…。悩んでたんだよな、俺のせいで…。」

最後に大きな溜息をついて、彼は顔を覆った。

緑川先輩によると、本当はもう少し先で、プロポーズしようと思っていたらしい。ちゃんと準備万端の状態でやる予定だったのに…と呟く。

「まぁ、早いか遅いかだけの違いだし、自業自得だし?」

「そうですね。」

「自覚してるだけ、いいんじゃないですか?」

青木はもう、言いたい事を遠慮なく言っている。まぁ、それは良いことだよな、多分。


そして先輩は、行ってくると言い残して、ドアを開けて出て行った。その横顔に、戸惑いや、迷いは見受けられない。


僕は青木と顔を見合わせ、ふっと笑い合う。

「グッジョブだ、青木。」

手でグーを作って差し出すと、青木も同じ様に拳を握り、僕のそれに軽く当てた。

「黒川先輩も。」

多分彼女の不安は、取り除かれる。とても良い形で。

少しは、借りを返せただろうか…。


身近な二人が、結婚を決めた。

僕は自分でも不思議なくらい自然に、結衣との未来を思い描ける。それ以外の選択肢を思いつかない位に。

「僕も、そろそろなのかな?」

人生にタイミングと言うものがあるのならば、それはもうすぐ、近い将来である気がした。

いつもお読み頂き、ありがとうございます。

緑川君が決心しました。

実は、このお話で青木君が喋ったセリフ、以前に実際に聞いた事があるセリフなんです。私がアルバイトしていた飲食店のお店の店長さんが、厨房料理人だった奥さんを、予定外に妊娠させてしまった時の事です。

奥さんは、つわりが酷く、とても辛そうでした。かと言って、彼女が抜けると、厨房が回らなくなります。

失敗した!と言った店長さんに、当時アルバイトの大学生だった男の子が、男子高校生じゃないんだしと、ツッコミました。目下の人間が、目上の人に向かって、こういう事を言ったのが妙に可笑しくて、印象に残っています。その時私は、人間って、年齢じゃないなぁ、なんて思っていました。

今、君を描くの番外編と、新連載の短編を鋭意制作中です。近いうちに投稿しますので、気が向いたら、そちらも読んで頂けると、ありがたいです。

あと、来週は仕事が忙しく時間が取れなさそうなので、お休みさせて頂きます。ごめんなさい。

長々と失礼しました。ではまた☆あなたが楽しんでくれています様に♪

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