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僕達の日常  作者: さきち
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ラーメン2

社食でまだ誘ってもらっていないと彼女が言っていたのを思い出したのは、1月の後半の事だった。引っ越しや何やで、バタバタしてたからまた忘れていた。怒っているかもしれない。

せっかく思い出したので、忘れないうちにメッセージを送る。

家の近所にある和歌山ラーメンの店が美味しかったので、どうかと思ったのだが、会社から少し遠い事に気付いた。

すぐに返事が来て、金曜日なら問題ないとのこと。

金曜日が待ち遠しく感じている自分に気付いて、彼女にお熱の後輩を笑えないなと苦笑いした。


後輩が彼女の電話番号を教えてもらったと、舞い上がっている。僕の努力の結晶です!と言い張っていたが、仕事の方もそのくらい情熱を傾けてもらいたい。少し憎たらしく感じて、その日は素っ気なく接してしまった。


金曜日は寒くてみぞれ混じりの雨が降っていた。午後6時を少し過ぎた時間の空は薄暗い。雨のせいか、いつもよりもっと暗く感じた。車のヘッドライトが濡れたアスファルトの上を照らしていく。

傘をさして待ち合わせのカフェへ向かう。カウンター席で読書している彼女は、絵になる。集中しているのか、気付かない。すぐ側まで行って、声を掛けるとやっと気付いてくれた。笑顔でお疲れ様ですと言われて、疲れが吹っ飛んだ気分になる。

「待たせたかな?」

「いいえ、そんなに待ってませんよ。」

「行こうか。」

「はい。」

僕らは揃って歩き出した。


駅に行き、電車に乗りこむ。

「もう、誘ってもらえないのかと思ってました。」

少し苦笑い気味に彼女は言う。

「ちょっと引越しでバタバタしてて。ごめんね。」

「引越しですか?」

「うん、今行くラーメン屋の近所。」

「伯父の遺産のマンションで、家具を譲ったり、遺品の整理したり。元々住んでた賃貸を引き払ったりをね。」

「もう、落ち着いたんですか?」

「何とか。」

「掃除ぐらいなら手伝いますよ。」

「大丈夫。後は少し家具を買い足すだけだから。」

「そっかぁ、行って見たかったのに。」

「冗談でも、男の独り暮らしの家に簡単に行きたいとか言っちゃダメ。」

迂闊なことを言って、変な男に付き纏われないか心配になる。

「黒川さん以外には言わないから大丈夫です。」

僕は男として見られていないのか。なんだかなぁ。


この店の和歌山ラーメンは魚介系のスープに焼豚と葱ともやし、メンマが乗っている。縮れた中太麺がスープに絡んで美味しい。


「どうやったら振り向いてもらえるんでしょうね?」

メンマを箸でつつきながら彼女は言う。

どうやら気になる男がいるらしい。何で僕に相談するんだろう。

もしかして、青木か?後輩の顔が頭に浮かぶ。いや、無いな。

「君が本気になれば、落とせない男はいないよ。」

ここにも君に惹かれる男が一人いる。

「本当に本気でそう思います?」

「もちろん。」

だって、この短い間にとても気になる存在になってしまっているんだから。

「僕も気になる子がいるんだけどな、今目の前に。」

「……本気にしますよ。」

困った顔で、僕を見つめる。

「ごめんね。」

僕は彼女の頭をポンポンして謝る。困らせてしまった。

最近、仲良くなってきたから、焦ってしまったのかもしれない。

「別に良いです。ビックリしただけですから。冗談にしては趣味悪いです。」

少し不機嫌な顔で、ラーメンを食べた。

僕はもう一度ごめんと謝った。


彼女を駅まで送って行き、また月曜日と言って別れた。

「冗談じゃなかったんだけどな。」

彼女の背中に呟いたけど、きっと聞こえなかっただろう。

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