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僕達の日常  作者: さきち
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生理

「やっぱり来た。」

倦怠感と腹部の痛みに顔をしかめつつ呟いた。

面倒くさいが仕方ない。女に生まれた宿命だからと割り切っているが、不快なものは不快なのだ。生理痛は大したことない。でも数日前からの気分の落ち込みは、何とかならないのだろうか。生理中も続く事もあり、分かっていても感情がコントロール出来ない。

しかしながら、安堵感もある。

「ちゃんと来た。」

ほっとしている自分に苦笑いが漏れた。


生理が来たという事は妊娠していない事を意味する。独身である自分が妊娠するのはマズイ。ああ見えて、両親は順番にはうるさい。それなりに大事にされて育ったのだ。もちろん、自分のことを蔑ろにすることは出来ない。

ちゃんと避妊はしている。でも絶対じゃない事は分かってる。毎月ちゃんと生理が来る事で安心している自分がいる。少しでも生理が遅れたときのドキドキして不安な気持ちが、男の人にわかるだろうか。ちゃんと来たときの安堵感も。

「男には分からないだろうなぁ。」


分かってもらいたいなんて思ってないけど、女ばかり不公平ではないか。男になりたいわけじゃないが、愚痴のひとつも言いたくなる。まぁ、男には男の辛さもあるだろうが。

これも、惚れた弱みというやつだろうか…。


早く化粧をして会社に行かなくては。今日は木曜日だ。あと二日頑張れば、明後日は休み。念のために鎮痛薬も持って行こう。

私は手早く化粧を済ませ、髪を整える。皮のトートバッグにナプキンの入ったポーチをほり込み、もしもの時を考えてスカートは黒にした。ジャケットはベージュにしよう。カッチリしすぎないようにしないと。仕事が終われば、莉子と買い物に行く約束をしているから。


よし!と気合を入れて家を出る。気分を仕事モードに切り換える。


九月も末近くになり、秋に移り変ろうかという季節、街路樹の銀杏はまだ緑色だけれど、あっと言う間に黄色になるのかもなぁ…。風が少し肌寒くなってきたなぁと考えながら駅に向かった。

電車に乗るといつもの通路側に行く。入り口付近よりは、幾分か混雑がマシになっている。もう少し後の時間でも間に合うのだが、身動きが取れないようなラッシュは苦手だ。朝から疲弊するぐらいなら、早く起きて余裕のある電車に乗りたい。


三つ先の駅で降りて、会社に向かう。欅並木が風に揺れてザワザワと音を立てていた。今日は風が強いらしい。雨が降らなければ良いけどと、雲が早く流れている空を見て思う。雨が降ると頭痛がする事が多い。生理痛と重なると最悪だ。

いつものカフェで何か買おうか。有名なロゴのデザインの看板に目を止めると中に入って、列に並ぶ。朝のこの時間はそれ程混んでいない。今日は甘い飲み物が良い。キャラメルマキアートを注文して、お気に入りのタンブラーに入れてもらった。甘い香りに少し気持ちが和らぐ。


無意識に彼を探している自分に気付いて、苦笑いが漏れた。今は出張中で居ないはずだ。彼はいつもここで時間を潰してから職場へ向かう。なんでそんな事をするのかと聞いたら、後輩が気を使って早く来てしまうからだと笑っていた。いつもはここで別れて、彼はゆっくりコーヒーを飲み、私は会社へと向かう。

何日会っていないだろうか…。ふと、寂しさがこみ上げてきた。一人で通勤するだけで、会社に彼の姿がないだけで、こんなにも寂しいなんて…。

いけないいけない、また思考が落ち込んでいる事に気付き、タンブラーを片手に店を出た。甘い香りに癒されながら、欅並木を歩く。


「いつもと同じ様に。」

呪文の様にそう唱える。そうしないと、彼のいない今日を意識してしまうから…。出勤して社員証のカードを通し、デスクに向かう。

朝の掃除をしている時に、莉子がやって来た。挨拶をすると、莉子も微笑んで挨拶を返してくれる。莉子はいつも綺麗だ。そしてどこか完璧だ。

緑川さんも司さんと一緒に出張中のはずだけど、莉子は寂しくないのかな?

周りに人が居ないのを確認して、莉子に話しかける。

「莉子は寂しくないの?」

「もちろん寂しいけど、結衣が居るから大丈夫だよ。」

ふっと彼女は笑う。

「…私も莉子が居るから大丈夫。」

さぁ、仕事と気分を切り替える。

女同士は、気楽に話せるのが良い。買い物も女同士の方が楽しいし。生理は面倒くさいけど、やっぱり女に生まれて良かったと思う。

ふふ、今日の買い物、楽しみだなぁ。

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