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僕達の日常  作者: さきち
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アルバム

日曜日に司さんの実家に行って来た。ご両親やお姉さん、瑠璃ちゃんもいる。猫のチョビには会ったのは2回目だけれど、相変わらず可愛い。少し前より大きくなっていている。


彼の実家の司さんの部屋に初めて入ったけれど、大学入学と同時に家を出ただけあり、荷物自体も少ない。アルバムや漫画など、持ち帰るものを紙袋に詰めていく彼の行動は、迷いがない。私が勝手に色々なものを手にとって見ても、何も言わないし…。見られて恥ずかしいものとか無いのかな?なんて、少しがっかりしている自分に気付く。少し彼の動揺する顔が見たかったと言ったら、意地悪だと思われるだろうか?

「どうかした?」

「いえ、別に…。」

「面白い物ないでしょ?」

「そうでもないですよ?こんな漫画読んでたんだとか、知れましたし。アルバムは後で見せてもらえるんですよね?」

「うん。」

「私のアルバムも、母が送ってくれたので、帰りに家に取りに寄っても良いですか?」

「うん。分かった。」

ご家族に挨拶して、彼の実家を後にした。



家に一旦寄ってもらって、実家から届いたアルバムや卒業写真を部屋に取りに行った。母が直ぐ送ってくれたのは、司さんが見たいと言ってると言ったからだろうか。

それを持って、彼の待つ車に戻ると、司さんは早くに見たいと言う。

「戻ってからですよ。」

「今、ちょっとだけ…。」

「後で!」

「…はぁい。」

肩をすくめて返事をする彼は、まるで子供の様だ。



彼の家に戻り、司さんはソファーでアルバムを捲る。子供の頃や、学生時代の私がそこに居た。懐かしさと、少しの恥ずかしさが込み上げてくる。

「ショートカットだったんだ。可愛い!」

「男みたいって、正直に言っても怒りませんよ?」

「男には見えないけど?モテたでしょ?」

「まさか!猿女と呼ばれてました。」

そもそも、モテた記憶がない。中学校くらいまでは、女扱いさえされなかったのだから。

「多分、それは照れ隠しだね。」

「そうでしょうか。」

多分、言葉そのままの意味だと思う。良い様に解釈してくれてる彼に、水を差すのもな…なんて思いながら、一通り見終わった。何故か凄く満足そうな彼は、何がそんなに楽しかったのか不思議だ。

「次は司さんですよ?見せてください。」

「はい。面白くないと思うけど。」

彼は私に、厚みのある卒業アルバムなどを手渡してくれる。

「そんな訳ないでしょう?」

それを受け取って、ワクワクしている自分に気付く。もしかして彼も、こんな気分だったのだろうか?


私は一枚一枚丁寧にページを捲った。とあるページで彼の表情が変化する。それはほんの一瞬、だけど私はそれを見逃さない。

「…元カノが写ってるのは、このページ?」

「え、いや、その…。」

「このページ?」

「…はい。」

「何故そう思ったの?」

「顔に出てましたよ?」

「嘘!?」

表情は完璧だと思っていたのに、バレるなんて…、彼は呟く。目を見開いて私を見る彼が可愛くて、私ははふふふと得意げに笑った。

「司さんのポーカーフェイスは、私には通用しません!」

自信満々に言ってのけたけど、いつも見破れる訳ではない。

「…そうみたいだね。折角事前に、写真を回収した意味が無いじゃないか…。」

彼は溜息をついた。おや?

「写真回収って?」

「…元カノの写真を、ちょっと。」

司さんは、ゴニョゴニョとバツが悪そうに目を逸らす。話を聞くと、家族に口止めまでしていたらしい。なるほど、通りで慌てたりしない訳だ。彼の部屋での様子を思い出す。

仕方ないと溜息をついて、元カノを渋々教えてくれた。笑顔の可愛い女の子だ。

「心配しなくても、彼女の写真を捨てろとか言いませんよ?」

「そっちの心配じゃなくて、結衣が嫌な気分にならないかなって…。」

「元カノに未練があるならともかく、昔の事なんですから気にしません。私は、今、私を好きだって言ってくれる司さんを信じます。」

私が彼を見詰めると、司さんははぁ〜と長い溜息をついた。

「…もう、僕は君には勝てないみたい。」

「勝ちたいんですか?」

「ううん、負けてて良い。僕は結衣が好きだよ。誰よりも。」

彼は私の唇に口付けた。


司さんも私も、過去があって、今がある。

バラバラだった二つの線が、今、確かに繋がっているんだ。


秋の日差しが、部屋に差し込む。見終わったアルバム達の上を、そっと撫でる様に。

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